8.1 究極のシステム章の最後に呪縛からの解放:捨て去るべき物リスト、と言うリストがあります。これについて書いてみようと思います。

 

「究極」に至るために必要なのは足し算ではない引き算である、と延べ、さらに産業が生み出し「不安を煽るための商品」を排気し、システムを物理的に順化させる必要があると冒頭に書いています。

 

そして、忠実度に対して不要と断言できる物をリスト化しています。

 

まずは

 

高額なアナログ・デジタルケーブル

 

です。

 

まず、彼はケーブルに必要なのは必要最小限のスペックのみだと言っています。そして、カナレ、モガミ、ベルデンを選んだ時点で物理特性は飽和するそうです。

 

果たしてそうでしょうか。

少なくとも経験上は大きく異なります。実は私はこれらの会社の一般的なケーブルはどの社のものも複数所有しています。しかし、我が家のシステムに組み入れているものはありません。理由は簡単です、音が鈍く感じるからです。

 

業務用ケーブルが悪いと言っているわけではありません。ある意味リファレンスとしては所有していることは十分意味があります。

しかし業務用ケーブルで重要な事は、常に破綻無く稼動することで、車に例えればトヨタ車の様に故障せず、普通に運転できて、快適で、価格もリーズナブルなな車という事ができます。言うまでも無く最高性能と同義ではないのです。

 

業務用ケーブルでは

 

ノイズに強いこと、

曲げに強いこと、

断線しにくいこと、

価格が安いこと、

規格が安定していること

どこで使っても同じようにつかえること、

取り回しが良いこと

 

などが優先されます。

 

一方で、オーディオ用に最高の性能を求めるなら、それだけでは足りません。時間軸の正確性、位相や群遅延の最小化、接点の非線形性の抑制、機械振動の最小化、高周波ノイズの抑制、シールド電流の取り扱いなど、これ以外にも多岐にわたる項目の検討が必要です

 

たとえば、単線とより線を比べると、これらの特性は明らかに単線の方が優れているのですが、単線を使って居る業務用ケーブルは同軸ケーブルの中心導体に限られており、ほとんどのアナログケーブルはより線を使って居ます。

これは最高性能よりも取り回しや耐久性を考慮した結果です。

 

つまり、業務用ケーブルは使い勝手と音質の両方のバランスを取ったすぐれた製品ではありますが、最高性能を目指しているわけでは無く、少なくとも音を聴く限り、音の伝送ケーブルとしては改善の余地が非常に大きいと感じます

 

実際、オーディオ信号の伝送を正確に行うことはそれほど簡単ではないのです。

たとえば、AESで発表された名古屋工業大学の米谷先生の発表では信号振幅依存特性を持つ時定数や、信号そのものによってケーブル容量が変化し、それが聴覚に影響しうるという発表もあるぐらい、事は単純では無いのです。

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次は

 

オーディオ用ハブ/LANケーブル

 

です。

 

彼は、以下の様に述べています。

 

TCP/IP プロトコルを理解していれば、これらが音質に関与しないことは自明である。データはパケットとして届き、バッファされ、検証される。そこに「ジッター」や「ノイズ」が入り込む余地はない

 

だそうです。

これは今から15年ほど前に私が考えていたことそのもので笑ってしまいます。

 

そもそもこの言説はデータ伝送としては全く正しいです。TCP/IPではデータの同一性は強く担保されます。しかし、実際の機器は

 

ネットワーク機器→LAN物理層→絶縁トランス→受信機器のGND/電源→CPU/SoC処理→クロック/PLL→DACもしくはUSB,SPIDFなどのデジタル出力→アナログ段

 

と言う経路を通る物理的なシステムです。このシステムの動作にはノイズ、電源電圧の変動、GND電流、RF結合、負荷処理の変動などが入り込んできます。

 

つまり、データのビットは同一であっても環境によって機器の動作状態は大きく異なってしまうのです。

ここが決定的に重要です。

データが変わるのでは無く、データ処理している機器のノイズ環境がHUBやLANケーブルの質によって大きく変わるのです。

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彼はジッターは入り込む余地がないと書いていますが、実際にはジッターが増えていると、処理の負荷は増えてしまいます。すると、電源負荷変動が増大し、後段機器のクロックに影響を与える事は十分あり得ますし、実際にHUBのクロックを高品質なものに変えると音がよくなるという経験は多くの方がしています。

 

本来はクロックには関係なく動作しているはずのTCP/IPプロトコルの機器でなぜ、クロック品質が音に影響してしまうのか、と考えるのが正しい科学的態度で、彼のように理論的にはこうだから音が変わるわけがない、そんなことは自明だ、と言うのは、星が東から西に動いているのだから、天が動いているに違いない、と考えるのと同じぐらい非科学的な態度だとおもいます。

 

次は、

 

ネットワークノイズの絶縁(パルストランス)

 

です。

 

ルーターのノイズがLANケーブルを伝わってくる、という概念はイーサーネットの物理構造を知らない物の杞憂である

 

と述べていますが、これは反論するまでも無く、明確な間違いです。

 

パルストランスによるGalvanic ISOLATIONをRFノイズ絶縁と混同しています。また、LANケーブルを伝わってくるコモンモードノイズについては全く考慮すらしていません。パルス絶縁は、直流的な絶縁にはなりますが、高周波的には完全ではないのです。巻線間容量やコモンモード容量、筐体などを通してRFノイズは後段に伝達されてしまうのです。つまり、直流や低周波のハムノイズの絶縁には有効なパルストランスも高周波領域では受信側にノイズが伝達されうるのです。

 

ここでも、彼の机上の空論ぶりが炸裂しているのです。

実際に物理層を設計している人が見たら、そんな理想的なトランスがあったら、俺にくれ、、と言いたくなるでしょう。これを補うために絶縁装置をさらに追加して居る、と言うのがこう言ったアクセサリーの本態です。

 

という訳で、読めば読むほど彼の言説は実態の乏しい机上の空論である事が明白になります。