ある方から、『普通の耳の人には創造の館の説明で十分では?』という以下のようなコメントをいただきました。


はじめまして。科学は近似です。普通はニュートン力学で十分に説明でき、特殊な場合にだけ相対論が持ち出されます。同様に、普通の耳の人には細かい音の違いは聞き分けられないので創造の館の説明で十分であり、少数の耳の良い人にだけもっと精緻な説明が必要になるのではないかと思います。』


果たして普通の耳で細かい音の違いが聞き分けられないから彼の主張が正しいのでしょうか?


創造の館の主の主張の問題は根本的に間違っていることです。


私たちの感覚器は生まれてからある年齢に達するまで(視覚については生後半年から1年以内ですが、聴覚についてはずっと後年もしくは死ぬまでかもしれないと近年考えられているようです)刺激に対して正しく外界を認知すべく、脳のニューロンネットワークを組み替えています。

これは人間であればほぼ全員に起こっていることです。


多くの普通の人は主に音量差と時間差、位相差、周波数差をかなり精密に知覚するだけの能力を兼ね備えており、決して珍しい特殊な人だけが、ステレオ再生で音が上から聞こえたりスピーカー外に音が定位するわけではありません。また頭部の運動によって生じる(人間の頭部は厳密には常に動いています)、自らの頭や耳介によって生じるそれらの時間的な変化すら畳み込みを行なった上で音像の位置や距離を把握しているらしいとかなり前から研究で明らかにされてきています。


私もオーディオを始めた当初よりはだいぶ違いがわかる(もしくはわかる気がする)ようになってきました。また訓練によって聴空間の認知能力は何歳になっても向上することもわかっていますので、そのおかげでかなとも思います。


しかし、特殊な人以外周波数特性のみしか関係ないというのは違います。


逆に周波数特性が悪くても他の特性が良ければ、音が良く感じることも数多くあります。

アナログレコードをきちんとした機器で聴いたことがあれば、多くの人が同価格帯のデジタル機器よりも音がいいと感じられるのではないかと思います。少なくとも私はそう感じますし、オーディオ経験の豊富な方の多くが同じ体験をしています。周波数特性も歪み特性もはるかに劣っているのにです。


アナログレコードもテープレコーダーも少なくとも時間的な左右差に関してはまずブレることはありません。左右同時に再生されることが仕組み上明らかだからです。残念ながらデジタルはこの点に関しては明らかに異なっています。

私はその事が音を良く感じることに大きく関係しているのではと思っていますが、私の知る限りアナログレコードの音が良く感じる理由はきちんと解明されていないと思います。


相対論の例えは観察を重視するか、既存の理論を重視するかという比喩で出しただけです。ニュートン力学で十分な物と不十分な物は正確さというよりも扱う領域の違いかもしれません。


例えば、今日では相対論なしに飛行機も車の自動運転も成り立たないほど(GPSを使用しているという意味でですが)相対論は一般的になっていると思います。しかし一方で非常に高度な技術で走るF1に相対論は関係ありません。それと同じように、ステレオ再生という非常に特異な音響系での立体的な音場や音像形成を説明するためには、周波数特性と歪み率だけでは不十分なのだと思います。そのため普通の人が感じる音の良し悪しにも、それ以外の要素が大きく関係してしまうのだと思うのです。