原初のCDの音が余りにも良いので、なんでだろうと非常に気になっていろいろ調べてみました。

 

そもそも、先日ご紹介した、TOTO IVやSimon & Garfunkelのベスト盤が発売になった、1982年10月がどのような時代だったのか、という事です。今では想像も出来ませんが、世の中にCD-ROM(この言葉すらすでに死語になりつつありますが・・・。)という物は存在しませんでしたし、USBという規格すらなく、デジタルデータのやりとりすら一般的ではなく、業務ではフロッピーディスク、趣味ではカセットテープで行っており、インターネットなど全く無い時代でした。

 

いまの子どもはそもそもフロッピーディスクの実物を見たことも無いかもしれません。

この容量は、3.5インチのものが最大で、1.4MBです。たったの、1.4MB。その前、私が父の仕事のためのプログラムを中学生時代に作っていたときに父が使っていたフロッピーディスクは5インチで、400kBぐらいだったと思います。

 

その時代に登場したのが、CDという規格でした。CDの容量はなんと、650MB!!!!!、当時、天文学的な数字に見えたものです。これ一枚に百科事典が何百冊入るとか、そんなことをうたい文句にしていた覚えがあります。

当時、HDDの容量は1MBあたり1万円ぐらいしていました。父が100MBのハードディスクを100万円近いお金で買っていたのを覚えています。勿論、1982年にHDD内蔵パソコンなんてものは存在しませんでした。PC9800も、AppleIIもカセットテープに記録させるというのが一般的で、フロッピーディスクすら一般的ではありませんでした。

 

こう考えると、当時のCDという規格が如何に夢の規格だったかわかると思います。そんなに大容量のディスクに音楽が入っているのですから、それはいい音に違いないとみんなが思ったのは無理もないことでした。

 

そんな時代ですから、650MBものデータのハンドリングは苦労を極めたと思います。というか、おそらく、今のデジタルデータのようにいじくり回す事など絶対に出来なかったのです。当時は、デジタルレコーダーなどはほとんど存在せず、勿論デジタルマスタリングなどというものもなく、唯一、DENONがデジタルレコーディングした音源のアナログレコードを出しているぐらいでした。

 

DENONは当時から積極的にデジタル技術を推進していようで、そのあたりが以下のJASジャーナルの2015年5月号のPDFに詳しく書いてあります。

https://www.jas-audio.or.jp/journal-pdf/2015/05/201505_016-025.pdf

 

 通常は優れたアナログマスターを探してきて、それをクリップしないようにAD変換し、デジタルデータを業務用ビデオテープに記録するという感じだったようですが、このあたりを記載してある信頼できる情報がさすがにありません。今度国会図書館にでも行って調べてみようかと思います。

ただし、技術的な面だけに関しては、

https://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/105.pdf

なんと国立科学博物館のアーカイブに詳細を解説したドキュメントがありました。

 

また、

1995年前後から後のマスタリングについては、

 

このブログが楽しく読めました。3回シリーズで今のマスタリングについてもよくわかります。この時代にもまだ、U-maticのビデオテープが主流だったことがわかります。

 

どうも、当時のCDマスター作りについて書かれたドキュメントがほとんど存在せず、幾つかあったブログも出典が記載されていないので、なんとも状況がわかりませんが、少なくともデジタルリマスタリングは絶対に出来なかったはずで、やったとしてもアナログリマスタリングだったと思われます。

そして、多くの場合、優れたアナログマスターをほぼそのまま、AD変換して、CDのマスターを作っていたようです。

別に、それがベストだと思ってマスターテープからそのままAD変換してそれをディスクに記録していたというよりも、それが精一杯だったと考えた方が良さそうです。そのため、レベル調整をしただけでマスターテープそのものの音が黎明期のCDには記録されているのです。

 

おそらく、1982年〜1984年頃までに発売されたCDの多くがこのようにして作られたはずです。1990年以降、録音環境は急激にデジタルレコーディングに移行していきます。

 

 

という訳で、どうも黎明期のCDが音が良く感じるのは、マスターテープをそのままAD変換せざるを得なかったという事情が関係したのではと思われました。もうちょっと調べてみます。多分当時、このマスター作りにかかわった方たちは、すでに80歳台と思われます。何とかお話しを聞きたいものです。