私が中学生だった頃、父はオーディオにハマっていました。一緒に家の棚の防振をしたり重たいブロックに色を塗ってスピーカースタンドを作ったりしていました。

当時我が家にあったアンプはサンスイのAU-D907F extra、スピーカーはトリオのLS-1000でした。


当時に音は全く今のようではなくもっと平面的だったと思います。


その頃、オーディオ雑誌には、周波数特性やダンピングファクター、ワウフラッターなどの測定値が並び、出力が何Wあるとか、周波数特性がどうとか、歪み率がこんなだとかよく載っていたのを覚えていますし、音を聞きもしないで当時の私はなんとなくそれらの測定値をみて、わかった気になっていました。


某創造の館などは今もその世界に留まっているようですが、今のオーディオ雑誌やオーディオショーで測定値や歪率がどうかなどという議論は全く聞かなくなりました。実際、私が機器を買うときにも全く気にしません。不思議なことにそれらは出てくる音に良し悪しと必ずしも相関しないからです。

 私も含めて多くのオーディオ好きがアナログの本当にいい音をデジタルで越えることは容易ではないと知っていますし(いまだに超えていないかもしれません)、実際、50万円以上の機器では同価格なら多くの場合アナログの方がいい音を得やすいと思います。しかし、測定値は明らかにデジタルの方がいいのです。



 また、我が家の最上流のRoon CoreとRoon Bridgeにバッテリーを多数並列につないだ物を使うと、恐ろしく音が良くなる事は、おそらく、スペックや静的特性をいくら測定してもわからないでしょうし、もし測定したとすると結論は変化がないとなってしまうかもしれません。実際には大きく音が改善しているのにです (私自身はバッテリーの現象についてはデジタルの信号をそのタイミングも含めて精密にデータ化し、統計処理すると時間軸の分散が異なるのではないかと思っているのですが、時間軸を正確にデジタル化する手法を知らないので検証ができないのです、、、)。



仮想アースが音質に関与するという現象にいたっては全く解明されていないと思います。



そもそも、たった2chネルのステレオ再生で再生の質が良いと音は立体的に聞こえますし、位相やレイテンシーを操作してステレオ再生で音が後ろや上から音が聞こえるように録音している音源はYMOのライディーン、マイケルジャクソンのBadなど枚挙にいとまが有りません。

これらの現象は聴覚がどのように位置情報を把握するのかという研究としてある程度の事がわかっているようですが、いまだに経験則で音作りをせざるを得ない程度の理解度なのです。


オーディオの沼にハマるにつけ、この領域は現代の技術や測定方法ではなかなか一筋縄ではいかない現象に満ち溢れているなと思います。私が無知なだけかもしれませんが、、、。


私の友人で尊敬する同僚から、『私たちは仕事をする上で10万個知らなければならない事があるとしたら多分100ぐらいしかまだ解明されていない中で仕事をしているんだと思う。だから説明がつかない現象には謙虚に向き合わないといけないんだ』と言われたことを今も肝に銘じて仕事をしています。


オーディオの世界はおそらく、完全に解明されなければならない事項が10万あるとしたら私の専門領域と同じく100ぐらいしか解明されていないんだと思います。だからこそ面白いし、趣味として成り立っているのでしょう。


真実が10万あるのにそのうち、今わかっているたった100で世界のすべてを説明できると考えるのは傲慢ですし、ましてや真実が10万あってもおかしくはないな、と考えることすらできないのは、あまりに視野が狭いというべでしょう。


無知であることを知る事、科学の基本的な態度だと思います。