経済の理解は難しいが、特に国際経済はもっと苦手でよくわからない。

国際基軸通貨とかペトロダラーとか。

最近の話題は「サウジアラビアは、6月9日(日)に期限が切れた米国との50年間のオイルダラー契約を更新しないことを決定した。」というニュースだ。

 

 サウジアラビア・ムハンマド皇太子

テレビでは余り見掛けない(というかテレビのニュース解説など全く見ないからか)が、ネットを見ると、すごいことになりそうという記事が多い。

あるネット記事には

「サウジアラビアが、米国の石油ドルを廃止すれば、米国は世界の基軸通貨としての地位を失うことでしょう。では、ドルが世界の基軸通貨でなくなったら一体何が起こるのでしょうか?
- ハイパーインフレーション
- 貿易赤字の拡大
- 海外での製造コストの増加
- 世界は多極化し、中国がトップに⁉︎」

とか

「過剰なオイルドルが市場に出回れば、その価値は下がる。だからドルの価値は暴落し、インフレが進む」

 

 

「ペトロダラーがなくなれば、米ドルもなくなる。」

とか

「これが意味するのは、超大国としてのアメリカの終焉だ。

この話は、あらゆるニュース番組や新聞の一面トップで取り上げられるべきだが、オイルマネーがアメリカ経済を支えていたときに話題にならなかったのと同じように、話題にさえなっていない。

世界中の国々は、オイルマネーのおかげで膨大な量の米ドルを保有している。

ロシアには米国よりも多くの100ドル紙幣がある。それはオイルダラーのせいだ。オイルダラーはすべて消え去り、米国ドルの価値は急激に下がるだろう。」

等々。

 

総じて「ペトロダラーがなくなれば、ドルの価値は暴落し、インフレが進む」と警告しているが本当にそうなるのだろうか。よくわからないな。

 

オイルダラーについては以下のように説明されている。

いつもの大手メディアからの洗脳に騙されない為のブログより。

 

 

「日本の石油の90%以上は中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール等から輸入されていますが、これらの石油決済では米ドルが使われています。

サウジアラビアが米国の当時ニクソン政権と合意したのが 石油の決済をドルで行う代わりに、米国がサウジアラビアを防衛するという「ペトロダラー」システムです。

これは1971年、突然ドルが金と交換できなくなったことを発表した米ニクソン政権で、米ドルの金との裏付けがなくなった代わりに原油との裏付けのあるドルが世界の基軸通貨として覇権を握るきっかけになった大きな契約です。

1970年代にはOPEC(石油輸出国機構)が石油の禁輸と価格を3倍に吊り上げたことでオイルショックが2度発生し、その時のアメリカは シェールオイルで石油の輸出国となった今とは違い、70%の石油を輸入していたので、彼らは弱い立場にいることを認識して、石油の安全保証確保へと動いたのがサウジアラビアとの交渉でした。

ニクソン当時の米大統領は 国家安全担当保障補佐官、国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏とともにサウジアラビアで秘密の会議を行いました。

当時サウジアラビアは世界最大の石油生産国で、アメリカがサウジアラビアのサウード家がいつまでも権力を握っていられるようにと防衛力を提供する代わりに、世界中の国を相手にする石油の決済に対し、事実上米ドルのみを使用するという「ペトロダラー」システムが生まれたのです。

これは、アメリカ本国以外で行われる決済の70%でドルが使われるという、ドルを世界中の国が買い支えてくれるという米ドル世界覇権を作った仕組みです。

しかし、この契約が本年6/9に終了し、サウジアラビアが契約を延長しないことを決断したことが大きなニュースになっています。」

 

他の説明によると

「ニクソン米大統領は1971年8月15日、ドルと金(gold)の交換停止を発表した(ニクソンショック)。1973年の石油危機後に正式に結ばれたオイルダラー協定は、サウジアラビアが石油輸出の価格を米ドルのみで設定し、余剰石油収入を米国債に投資することを強制し、その見返りとして、アメリカは王国に軍事支援と保護を提供した。(トラ注:「余剰石油収入を米国債に投資することを強制し」なんて書いてるのは、国債発行の仕組みを知らないことを証明しているようなもんですな)

金本位制に代えて石油の取引をドルで行わせる「石油ドル本位制」を世界各国に強要すること、つまりドルを強制的に買わせることで、アメリカはドルの基軸通貨の地位を守ってきた。
今回のこの契約の終了はアメリカの敗北を意味している。」

「すでに、BRICS諸国は、金と天然資源によって裏付けられた通貨を発行しようとしています。サウジアラビアが、米国の石油ドルを廃止すれば、米国は世界の基軸通貨としての地位を失うことでしょう。」

 

「ペトロダラー」システムが生まれた経緯とそれが米ドル世界覇権を作ったという説明は、なるほどねと思うのですが、もう一つスッキリしないのです。

ニクソンショックで金・ドル交換停止したわけですが、その代わりに「ペトロダラー」システムを作ってドルを支えたということで、そして今回その「ペトロダラー」システムも崩壊したからドルを支えるものがなくなった、ああ大変だ、ドルはもうだめだ、インフレだ、とのことのようです。

 

でも、ニクソンショックによる金・ドル交換停止により、ドルはペトロダラーに支えられて国際基軸通貨になったのでしょうか。ここのところが腑に落ちないんですね。

ニクソンショックによる金・ドル交換停止により、通貨が金の縛りから解放されて、より主権国家の元での発行される通貨の本質が明らかになったのではないでしょうか。

 

Noirnoirさんのnoteの記事「金本位制の時には「国債は借金」だったのに、金本位制でなくなったら「国債発行残高は、単なる通貨発行記録」になったのは何故?」には次のように書かれています。

 

 

「金本位制の時には、確かに「国債は借金」でした。しかし、金本位制がなくなったら、「国債発行残高は、単なる通貨発行記録」になりました。

中央銀行制の国では、通貨は「中央銀行」が発行していますが、中央銀行自身は「通貨と、国債や債券などを交換」しているだけで、支出はしません。「交換」している相手も、ほぼ閉じられた「日銀ネット」の中で通貨と債権をやり取りしているだけで、民間の中に流通する通貨にはなりません。

「通貨を支出」するのは「政府」であり、その際に政府は「国債」を使って行います。つまり、政府は自らが発行する「国債」を通貨に換えて支出し、それが民間を流通していきます。すなわち、民間を流通する通貨は、「日銀による通貨の発行」ではなく「政府による国債の発行」で増えます。

このように、以前から「国債」は「政府による通貨発行記録・政府支出の記録」でした。ただし、金本位制の時には「国債は通貨に換えられるもの」であり、かつ「通貨は金(きん)に換えられるもの」でしたので、「国債の発行限度」は、少なくとも形式上は、「金(きん)の保有量」でした。

ところが、金本位制がなくなったあとには、「国債は通貨に換えられるもの」のままでしたが、「通貨は金(きん)ではなく、ただ、通貨に換えられるもの」でしかなくなりました。そのため、原理上は「発行限度」がなくなりました。

ただし、際限なく通貨を発行すればインフレが起きますので、インフレ率が制約となります。

まとめますと、中央銀行制の国では、「金本位制」の時からずっと、「国債は政府による通貨発行記録・政府支出の記録」でした。

しかし、「金本位制」の時には「国債は通貨と、通貨は金(きん)と換えられる」、いわば、「国債や通貨は、政府・中央銀行が振り出した『金(きん)の借用証書』と同じもの」だったわけです。

しかし、金本位制がなくなった時点で、「国債や通貨は、通貨とのみ換えることができる」というモノに成り下がったわけです。そのため、「金(きん)の借用証書」ではなくなり、単なる「政府による通貨発行記録・政府支出の記録」に過ぎなくなった、というわけです。」

 

別に金本位制から離脱つまりニクソンショックによる金・ドル交換停止しても政府による通貨発行、国債発行は何ら問題は生じなかったのであり、ということはペトロダラーがその後のドルを支えたという説明もなんだか変なんじゃないかと思うのです。

ドルを支えるものは金とか石油とかじゃなく、主権国家としての政治力や経済力だと思うのです。まあ最近はその二つともガタガタのようですが、それでも石油決済がドルを使わなくなっただけでドルがおかしくなるはずもないと思うのです。

また、国際基軸通貨についてもネットの記事では、「ドルが世界の基軸通貨でなくなったら一体何が起こるのでしょうか? - 貿易赤字の拡大」と書かれていましたが、中村哲治氏の米国国際基軸通貨の解説を読むと、逆に貿易赤字がドルを国際基軸通貨にしたと書かれています。

 

 

国際基軸通貨になるための条件 貿易赤字

中村哲治 2022年3月17日

国際基軸通貨になるための条件はMMT(現代貨幣理論)を学ぶと理解しやすい。

これから私が書く内容は、ランダルレイの本でもケルトンの本でも書かれているところを未だ私は見つけられていないので誰か教えて欲しい。ただ、「スペンディングファースト」の構造は、国内通貨の駆動力でも、国際基軸通貨の駆動力でも共通している。だから、MMTの文献でもどこかででているはずである。

国内通貨の駆動力は、租税貨幣論に見られるように、課税で与えられる。

税金を払わなければ捕まってしまう。だから、お金(通貨)を常に持っているようにしなければならない。だから、民間同士の決済にもお金が使われるようになる。

このように、国内通貨の駆動力は、租税によって与えられ、制度上、通貨は法貨として強制通用力を持つようになる。

しかし、国際通貨の駆動力は、国家が持つ強制力を背景にすることができない。
それではどうするか?

一つは帝国主義的に植民地にしてから自国通貨を流通させるという方法だ。
しかし、これは戦争をしなければならないので、二度の世界大戦を経験した諸国はこの方法を採れないことを認識した。

次の方法は、アメリカ合衆国が採った方法だ。

それは、自国通貨ドルを世界中に貸し付け、自国通貨ドルで返させるという方法を採ることだ。この方法で、ドルは国際基軸通貨となる駆動力を得ることができた。

1945年の終戦時に、アメリカ合衆国は唯一残った西側超大国として、ブレトンウッズ体制を構築した。ドルだけが金と固定比率で交換ができる通貨として残り(これを「兌換」という)、他国の通貨はドルとの固定レートの通貨となった。1971年まで続いた。

1971年にアメリカ合衆国はドルと金との兌換を停止したのだが、1945年~1971年の間に、貿易収支の黒字国から赤字国への転換を果たした。

その時にポイントになったのは、自国通貨建てで輸入を行う構造をデファクトスタンダード(事実上の標準)として作れるかどうかであった。

自国通貨ドルで支払う「スペンディングファースト」ができれば、世界中の人たちにドルを持ってもらうことができるようになる。

第二次世界大戦後1945年以降の世界秩序では、領土・領海・領空ではなく、通貨の流通圏内が実質的な国土となる。

だから、当時、圧倒的な超大国であったアメリカ合衆国は、まずIMFや世界銀行などの国際機関を作って、ドルを中心とした国際的な貸付制度を作った

借りている国はドルをアメリカ合衆国に返さなければならない。だから、アメリカ合衆国からドルを借りている国は、アメリカ合衆国に対する輸出の決済通貨をドルにしたいと望む。アメリカ合衆国への輸出でドルを得て、アメリカ合衆国への借金をドルで返すわけである。

アメリカ合衆国は自国内で生み出したドルを使って国際的な支払をする。そのドルは圏外居住者が保有するものであっても、国内決済に使われる。それによって、消費・投資両面に渡ってドル決済が活発になる。

その結果、消費は拡大し、消費に見合うように設備投資も拡大する。企業収益は改善するので、株価が上がる。資産価値は上昇。資産上昇により資産を担保にする銀行貸し出しも増え、信用創造が起きる。つまり、新しいドルが発行される。

このようなプロセスを経て、新たに生み出されたドルはアメリカ合衆国の国内に環流し、更なる消費と投資に充てられることになる。

今度は、海外からの投資のために、ドル建て資産購入の決済通貨としてドルが世界中で必要とされるようになる。更にドルに対する世界の資金需要が増えることになる。

アメリカは用意周到にこのような構造を構築した。

経常収支の黒字国、対外純資産国(国際純資産国)の地位にある国は、イギリスであれ、アメリカであれ、こういうことができるのである。

しかし、近代以降3番目の世界一の対外純債権国である国はその選択をしなかった。

そう、我が国、日本だ。
日本は、実質的な宗主国であるアメリカに従属する道を選択したため、円建ての貸し出しや円建てでの輸入を進めなかった。その結果、世界一の対外純債権国である期間30年間とほぼ同期間、経済的な長期低迷にあえぐことになる。

 

さて、日本の次の純債権国はどのような戦略を採るのだろうか。
ドイツと中国、中華人民共和国である。

ドイツは、自国通貨マルクを国際基軸通貨にすることよりも、ユーロという共通通貨を作ることで欧州圏内での自国の支配力を強化することを選択した。世界第二位の国際純債権国が消極財政を選択するのはブラックジョーク以外の何ものでもないが、そのことによる経済的な弊害よりも、欧州圏内での支配を選択したわけである。同じ債権者であっても自国通貨を取り立てる債権者の立場は強い。積極国家化すれば景気はよくなるがユーロ圏内の諸国を借金漬けにはできない。だからドイツは今のような財政を抑制する方法を採っているわけである。

ドイツが「第3帝国」ならぬ「第4帝国」と揶揄されているのは、このような債権債務関係を使った支配の構造を構築してしまったことが背景にある。私は財政を共有しない多国籍通貨ユーロほど、倫理的に醜悪な通貨はないと言いたい。

もし、ドイツにそのような意図がないというのであれば、ユーロ圏内でも最強の債権国であるドイツは、圏内の債務国であるEU諸国に対して財政調整を行い、日本における地方交付税のように、EU諸国に対して毎年一定額のユーロを交付すべきだ。それをしないドイツは、ユーロ圏の盟主として倫理的に大きく欠落しているところがあると言うしかない。

話が脱線した。元に戻す。
このように、日本やドイツは3つ目の覇権国、自国通貨を国際基軸通貨にする国になることを選択しなかった。

でも、中華思想を持つ、次の純資産国、中国、中華人民共和国は違う。
戦略的に自国通貨元を国際基軸通貨にするための準備を整えている。

まず、アジアインフラ投資銀行AIIBを作った。多国通貨による貸し出しを意図しているが、中国の通貨、元の国際化を目指しているのは間違いない。AIIBが貸し出しを進める中で、元が決済通貨になっていく流れが作られる。

次に元借款の形で、二国間貸し出しを行うようになる。
そうするとその国が中国に輸出するときに元を決済通貨にすることに応じる、という形になる。

後は、アメリカ合衆国の通貨ドルが国際基軸通貨になったように、中華人民共和国の通貨元が国際基軸通貨になるまで事態を進めていくだけだ。
中国の経済的覇権はそこまで来ている。

中国の姿勢が案外フェアなのは、こういう狙いをきちんと日本においても伝えているからである。

閻学通教授(清華大研究院院長)が朝日新聞のインタビューで答えている(2014年4月11日)。
「日本の円が、外貨準備に使われる国際的な通貨とならなかった大きな原因は、日本の貿易黒字にある。買うよりも売る方が多ければ、円は外に出て行かない。

米国のドルが強いのはその貿易赤字のためだ人民元も同じ理由で世界に広がる。将来の米中の競争の一つは、どちらがより多く輸入をするかだ」

日本は明治時代以来の経済官庁である財務省が経済については無関心で来ているので現状の状態になってしまっている。ただ、財務省は国会が作った財政法によって縛られている。単純に財務省を非難することはできない。

私たち国民が非難すべきは、このような国際通貨の構造に目を背け、財務省の言うことに表面的に盲従する日本の国会議員だ。
さあ、これから私たちはどのような選択をすべきなのか。」

(引用終わり)

 

ドルを中心とした国際的な貸付制度を作った借りている国はドルをアメリカ合衆国に返さなければならない。だから、アメリカ合衆国からドルを借りている国は、アメリカ合衆国に対する輸出の決済通貨をドルにしたいと望む。アメリカ合衆国への輸出でドルを得て、アメリカ合衆国への借金をドルで返すわけである。

ペトロダラーも確かにドルを必要とさせるが、それは一部のことであり、基本はアメリカがドルをばらまき、それを還流する仕組みを作ったことが国際基軸通貨の本質なのではないか。

 

大手メディアからの洗脳に騙されない為のブログのシェルリさんがいう「ドルを世界中の国が買い支えてくれるという米ドル世界覇権を作った仕組みです」という説明は変なのである。ドルを買い支えるとは米国債のことだから。

重要なのは、ペトロダラーよりもアメリカの貿易赤字つまり輸出国にドルを支払うこと、これが国際基軸通貨の本質なのではないかと中村哲治氏は説明していると思うのだが。

これもMMTの考え方から来ている。

つまり、金本位とかペトロダラーがアメリカを支えているなんていう説明はナンセンスなのではないか。

金本位制の復活を願う人々の頭にあるのは、主権国家による信用創造を否定したい。信用創造が諸悪の根源だと考えている節がある。これを止めさせるために古めかしい金本位制復活を夢想するのではないだろうか。