イスラエルがガザで行っているのはまさに民族浄化、ジェノサイドであり、疑問の余地はない。

ただ、ハマスがテロリスト集団であること、裏でイスラエルとつながっている疑いがあること等からどうもしっくりこない。ウクライナ戦争のような割り切りができない。

なので、国際政治学者である著名なミアシャイマー教授がどのような見解を持っているか、最近の論考を二つ紹介して勉強したい。

「ガザにおける死と破壊」2023.12.23

「ガザのジェノサイド」2024.1.5

 

 ミアシャイマー教授

「ガザにおける死と破壊」(Death and Destruction in Gaza)

「あなたに良識はないのか?」とミアシャイマー教授 ガザで起きていることに。

by John J Mearsheimer 2023.12.23

 

ガザで起きていることについて何を私が言っても、この紛争におけるイスラエルやアメリカの政策に影響を与えるとは思っていない。しかし歴史家がこの道徳的災難を振り返ったとき、一部のアメリカ人が歴史の正しい側にいたことがわかるよう、記録しておきたい。

イスラエルがバイデン政権の支援のもとガザでパレスチナ市民に行なっていることは、人道に対する罪であり、軍事的目的として何の意味もない。イスラエル・ロビーの重要な組織であるJ-Streetが言うように、「展開する人道的災害と民間人の死傷者の範囲は、ほとんど計り知れない」

詳しく説明しよう。

まず、イスラエルは意図的に膨大な数の民間人を虐殺し、そのおよそ70%は子供と女性である。

イスラエルが民間人の犠牲を最小限に抑えるために多大な努力を払っているという主張は、イスラエル高官の発言によって嘘だとわかった。

たとえば、イスラエル国防軍(IDF)の報道官は2023年10月10日、「正確さではなく、被害を重視している」と述べた。 同日、ヨアヴ・ギャラン国防相は、「私はすべての制約を解除した。我々は戦う相手全員を殺し、あらゆる手段を用いるだろう」と発表した

さらに、イスラエルが民間人を無差別に殺害していることは空爆作戦の結果から明らかである。イスラエル国内の情報誌に掲載されたイスラエル国防軍の空爆作戦に関する2つの詳細な研究は、イスラエルがいかに大量の民間人を殺害しているかを詳細に説明している。

この2つの論文のタイトルを引用する価値がある:

「『大量暗殺工場』:イスラエルの計算されたガザ爆撃の内幕」。

「イスラエル軍はガザでの自制心を捨てた。データは前例のない殺戮を示している」。

同様に、ニューヨーク・タイムズは2023年11月下旬、「イスラエルの弾幕にさらされたガザの市民は、歴史的なペースで殺されている」と題する記事を掲載した。したがって、アントニオ・グテーレス国連事務総長が2017年1月の就任以来、「いかなる紛争においても類を見ない、前例のない民間人の殺害を目の当たりにしている」と述べたのは驚くべきことではない。

第二に、イスラエルは、ガザに持ち込める食料、燃料、調理用ガス、医薬品、水の量を大幅に制限することで、絶望的なパレスチナ住民を意図的に飢えさせている。さらに、約5万人の負傷した市民を含む住民にとって、医療を受けることは極めて困難である。イスラエルは、病院が機能するために必要なガザへの燃料供給を大幅に制限しているだけでなく、病院、救急車、救護所を標的にしている。

10月9日のギャラント国防相のコメントは、イスラエルの政策をよく表している。

「私はガザ地区の完全包囲を命じた。電気も食料も燃料もなく、すべてが閉鎖される。我々は人間の獣と戦っており、それに従って行動している」。

イスラエルはガザに最低限の物資を入れることを余儀なくされているが、その量はあまりにも少なく、国連高官は「ガザの人口の半分が飢えている」と報告している。さらに彼は、「ある地域では、10家族のうち9家族が『一昼夜まったく食べ物なしで』過ごしている」と報告している。

第三に、イスラエルの指導者たちはパレスチナ人について、またガザで何をしたいのかについて、衝撃的な言葉で語っている。特に、これらの指導者の何人かがホロコーストの恐怖についても絶え間なく語っていることを考えれば、なおさらである。実際、彼らのレトリックは、イスラエル生まれの著名なホロコースト研究者であるオマール・バートフに、イスラエルには「大量殺戮の意図」があると結論付けさせた。

ホロコーストやジェノサイド研究の他の学者たちも同様の警告を発している。

より具体的に言えば、イスラエルの指導者は日常的にパレスチナ人を「人間という動物」、「人間の獣」、「恐ろしい非人間的な獣」と呼んでいる。そして、イスラエルのアイザック・ヘルツォグ大統領が明言しているように、これらの指導者が指しているのはハマスだけでなく、すべてのパレスチナ人なのである。彼の言葉を借りれば、「そこにいる国民全体に責任がある」のだ。

当然のことながら、ニューヨーク・タイムズが報じているように、ガザを「倒す」、「消し去る」、「破壊する」と呼びかけるのは、通常のイスラエルの言説の一部なのである。ある退役イスラエル国防軍大将は、「ガザは人間が存在できない場所になる」と言い、「ガザ地区南部の深刻な伝染病が勝利を近づける」とも主張する。さらに進んで、イスラエル政府のある大臣は、ガザに核兵器を投下することを示唆した。これらの発言は、孤立した過激派によるものではなく、イスラエル政府の幹部によるものだ。

もちろん、ガザ(とヨルダン川西岸)を民族浄化し、事実上、再びナクバを起こすという話もある。イスラエルの農相の言葉を借りれば、「我々は今、ガザのナクバを起こそうとしている」という。おそらくイスラエル社会の最も病んだ淵を示す衝撃的な証拠は、幼い子供たちがイスラエルのガザ破壊を祝う、血も凍るような歌を歌うビデオだろう。「1年以内に我々は皆を全滅させ、そして畑を耕すために戻ってくる」。

第四に、イスラエルは膨大な数のパレスチナ人を殺害し、負傷させ、飢えさせているだけでなく、モスク、学校、遺産、図書館、主要な政府機関、病院などの重要なインフラだけでなく、彼らの家も組織的に破壊している。

2023年12月1日現在、イスラエル国防軍は、瓦礫と化した地区全体を含め、ほぼ10万棟の建物を損壊または破壊している。その結果、ガザの230万人のパレスチナ人のうち実に90パーセントが家を追われた。さらに、イスラエルはガザの文化遺産を破壊するために総力を挙げている。NPR.orgの報道によれば、「100以上のガザの遺産がイスラエルの攻撃によって損傷または破壊されている」。

第五に、イスラエルはパレスチナ人を恐怖に陥れ殺害しているだけでなく、日常的な捜索でイスラエル国防軍に検挙された多くのパレスチナ人を公然と辱めている。イスラエル兵は彼らを下着まで剥ぎ取り、目隠しをし、近隣の公共の場で見せびらかす–たとえば、通りの真ん中に大勢で座らせたり、通りをパレードさせたりする–。ほとんどの場合、拘束された者はハマスの戦闘員ではないため、その後釈放される。

第六に、イスラエルは虐殺を行っているが、それはバイデン政権の支援なしにはできなかった。米国は、ガザでの即時停戦を要求する最近の国連安保理決議に反対票を投じた唯一の国であるだけでなく、この虐殺を行うために必要な武器をイスラエルに提供してきた。イスラエルのある将軍(イツハク・ブリック)が最近明らかにしたように、「ミサイルも、弾薬も、精密誘導爆弾も、飛行機も爆弾も、すべてアメリカからのものだ。彼らが水道の蛇口を閉めた途端、戦い続けることはできない。何の能力もないのだから……。アメリカなしでは戦えないことは誰もが理解している。終わりだ」。驚くべきことにバイデン政権は、武器輸出管理法の通常の手続きを回避して、イスラエルに追加の弾薬を送ることを急ごうとしている。

第七に、現在はガザに焦点が当てられているがヨルダン川西岸で同時に起きていることを見逃してはならない。イスラエル人入植者たちはイスラエル国防軍と密接に協力しながら、罪のないパレスチナ人を殺し、彼らの土地を盗み続けている。ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスに掲載された、こうした恐怖を描写した優れた記事の中で、デイヴィッド・シュルマンはある入植者と交わした会話について述べており、それがイスラエルのパレスチナ人に対する行動の道徳的側面を明確に反映している。

「私たちがこの人たちにしていることは、実際には非人間的なことだ」とその入植者は率直に認め、「しかし、よく考えてみれば、神がこの土地をユダヤ人に、そしてユダヤ人にだけ約束したという事実から、すべては必然的に導かれることなのだ」。

ガザへの攻撃とともに、イスラエル政府はヨルダン川西岸での恣意的な逮捕の数を著しく増やしている。アムネスティ・インターナショナルによれば、これらの囚人が拷問を受け、品位を傷つけるような扱いを受けている証拠がかなりある。

パレスチナ人にとってこの大惨事が繰り広げられるのを見るにつけ、イスラエルの指導者たち、彼らを擁護するアメリカ人たち、そしてバイデン政権に対して、私はひとつの単純な疑問を抱く。

「あなたに良識はがないのか?」

(引用終わり)

 

ガザのジェノサイド 

イスラエルのジェノサイドの場合リベラル主流派人権論者のほとんどが何も語っていない。

ジョン・J・ミアシャイマー
2024/01/05

 私がこれを書いているのは、現在進行中のガザ戦争に関心のある人なら誰でも広く回覧し、注意深く読むべき、本当に重要な文書をご紹介するためだ。

 具体的には、2023年12月29日に南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)に提出した、ガザのパレスチナ人に対しイスラエルがジェノサイドを犯したと非難する84ページの「申請書」に言及している。

12023年10月7日に戦争が始まって以来、イスラエルの行動はガザ地区の「パレスチナ人の国家的、人種的、民族的な集団だ。(1)この罪状は、イスラエルが署名しているジュネーブ条約のジェノサイドの定義に明確に当てはまる。

 この申請書はガザでイスラエルが行っていることの見事な説明だ。包括的で、よく書かれ、よく議論し、徹底的に文書化している。この申請書には三つの主要要素がある。

 第一に、2023年10月7日以降、パレスチナ人にイスラエル国防軍が行ったテロ行為を詳細に説明し、なぜパレスチナ人に更なる死と破壊が待ち受けているかを説明している。

 第二に、この申請書は、イスラエル指導者連中がパレスチナ人に対し大量虐殺の意図を持っていることを示す実質的証拠だ。(59-69)

実際イスラエル指導者たちの発言が全て綿密に文書化されているが衝撃的だ。「最高責任の立場」にあるイスラエル人がパレスチナ人への対応についてどのように語っているかを読むと、ユダヤ人への対応についてナチスが語ったことを思い出す。要するに、本文書は、ガザにおけるイスラエルの行動は、指導者連中の意思表明と相まって、イスラエル政策が「ガザのパレスチナ人の物理的破壊をもたらすよう計算されている」ことを明きらかにしていると論じている。

 第三に、この文書は、ガザ戦争をより広い歴史的文脈の中に位置づけるため、かなり時間を費やしており、ガザのパレスチナ人を檻に入れられた動物のようにイスラエルが長年扱ってきたことを明らかにしている。パレスチナ人に対するイスラエルの残酷な扱いを詳述した数多くの国連報告書を引用している。

要するに、この申請書は、イスラエルが10月7日以降ガザで行ってきたことは、10月7日よりずっと前に行っていたことの、より極端なものであることを明確にしている。

 南アフリカ文書に記述された事実の多くが、以前メディアで報道されていたのは疑いの余地がない。しかし、この申請書が非常に重要なのは、これら全ての事実を一か所にまとめ、イスラエルの大量虐殺に関する包括的で完全に裏付けられた説明になっていることだ。言い換えれば、文書は詳細を無視せずに全体像を描いているのだ。

 驚くことではないが、この告発を「事実や司法上の根拠がない」「血の中傷」だとイスラエル政府は決めつけた。更に「イスラエル国家の破壊を呼びかけるテロ集団に南アフリカは協力している」とイスラエルは主張している。

しかし、この文書をよく読めば、これら主張には根拠がないことが明らかになる。実際裁判が始まったら、イスラエルが合理的・法的にどのように自国を弁護できるかを見通すのは困難だ。結局、残酷な事実に異議を唱えるのは困難なのだ。

 南アフリカによる嫌疑について、更にいくつか見解を述べさせて頂きたい。

 第一に、ジェノサイドは他の戦争犯罪や人道に対する罪とは区別されるが「そのような行為全ての間にはしばしば密接な関係がある」と強調している。例えば、第二次世界大戦でイギリスとアメリカがドイツと日本の都市を爆撃した時に起きたように、戦争に勝つために民間人を標的にすることは戦争犯罪だがジェノサイドではない。イギリスとアメリカ合州国は、標的にされた国々の「かなりの部分」、あるいは全ての人々を絶滅しようとはしていなかった。選択的暴力に裏打ちされた民族浄化も戦争犯罪だが、ジェノサイドではないが、イスラエル生まれのホロコースト専門家オメル・バルトフが「あらゆる犯罪の中の犯罪」と呼ぶ行為だ。

 念のため言っておくと、バルトフが「大量虐殺の意図」と呼ぶものの証拠がイスラエル指導者たちで増えていたにもかかわらず、戦争最初の2ヶ月、イスラエルは重大な戦争犯罪はしたがジェノサイドは犯していないと私は信じていた。

しかし、2023年11月24日から30日にかけての停戦が終わり、イスラエルが再び攻勢に転じた後、イスラエル指導者たちが実際ガザのパレスチナ人人口のかなりの部分を物理的に破壊しようとしていることが明らかになった。

 第二に、南アフリカの申請書はイスラエルに焦点を当てているが、アメリカ、特にバイデン大統領と側近にとって大きな意味がある。なぜだろう。バイデン政権がイスラエルのジェノサイドに加担していることに疑いの余地はなく、これはジェノサイド条約によれば処罰されるべき行為でもあるからだ。

イスラエルが「無差別爆撃」を行っていることを認めながらも「我々はイスラエルを守ること以外何もしていない。一つも」とバイデン大統領は発言している。彼は言葉に忠実で、イスラエルに追加軍備を迅速に入手させるため議会を二度も迂回した。彼の行動の法的意味合いはさておき、ジェノサイド未遂の教科書事例の一つになりそうなものとバイデンの名やアメリカの名は永遠に結び付けられるだろう。

 第三に、ホロコースト生存者とその子孫で一杯の国イスラエルが重大なジェノサイド罪に問われる日が来るなど私は全く想像していなかった。

この事件が国際司法裁判所でどのように展開しようとも、アメリカやイスラエルが公正な裁判を避けるために用いる策略を私は十分承知しているが、将来的には、正統なジェノサイド事件の一つに、イスラエルには主たる責任があると広く見なされることになるだろう。

 第四に、国際司法裁判所が介入しない限り、このジェノサイドがすぐに終わると考える理由はないことを南アフリカ文書は強調している。

2023年12月25日のイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の言葉を2度引用し「我々は立ち止まらず、戦い続けており、今後数日間、戦闘を強化する。これは長い戦いで、終わりには近づいていない」と述べている。

南アフリカと国際司法裁判所が戦闘を止めることを期待したいが、結局、イスラエルやアメリカのような国々を強制する国際法廷の力は極めて限られている。

 最後に、アメリカは、世界中で人権保護に深く貢献している知識人や新聞編集者や政策立案者や評論家や学者で一杯の自由民主主義国家だと日頃喧伝している。

各国が戦争犯罪を犯した場合、特にアメリカや同盟諸国が関与している場合、彼らは非常に声高に主張する傾向がある。だが、イスラエルのジェノサイドの場合、ガザにおけるイスラエルの野蛮な行動や、指導者連中の大量虐殺の言説について、リベラル主流派人権論者のほとんどが何も語っていない。願わくば彼らがいつか不穏な沈黙を説明してくれるように。いずれにせよ、自国が恐ろしい犯罪に加担している間、ほとんど一言も発言しなかった彼らに対して歴史は優しくはあるまい。

(引用終わり)

 

(参考)

ミアシャイマー「イスラエルロビーと米国の政策」講演(2017年3月24日))

米国はイスラエルと、 現代史上類を見ない特別な関係にあり、それはほとんどロビー活動によるものである。

援助は無条件に与えられる。言い換えれば、 イスラエルはヨルダン川西岸に入植地を建設するなど、 米国が反対することをしても援助を受けられるのだ。

米国がほとんどあらゆる場面でイスラエルの行動を擁護することに深くコミットしていることに気づかないのは目も耳も不自由な人だけだろう。

イスラエルの評判を落とす重要な汚点は、パレスチナ人に対する残虐な扱いであり、アパルトヘイト国家と化している事実である。

この紛争が今後数十年でどこに向かうのかを言うのは難しい。多くのイスラエル人は、機会があれば大イスラエルからパレスチナ人を追放し、それによってアパルトヘイトの必要性をなくすことに確かに関心がある。しかし、そのような結果になる可能性は低い。

現在、大イスラエルの国境内には600万人以上のパレスチナ人が住んでおり、もしイスラエルがパレスチナ人を家から追放しようとすれば、彼らは間違いなく激しい抵抗を示すだろう。さらに、大規模な民族浄化はイスラエルの評判に大きく永遠に残る汚点となるだろう。イスラエルは単にアパルトヘイト国家のままであり、ロビーの助けを借りて、我を通し、世界のほとんどの人がイスラエルをのけ者国家だと考えているという事実をただ黙って受け入れる可能性の方が高い。

この紛争が最終的にどのように解決されるのか、あるいは解決されないのかを理解するまでには、おそらくあと20年か30年はかかるだろう。どのような結果になろうとも、この先数十年間はイスラエルと、とりわけパレスチナ人にとって大きな問題が待ち受けていることを、私は深く悲しんでいる。そしてアメリカもまた、イスラエル保護と特別な関係の維持のためにロビー活動が時間をかけて行われ、アメリカの政治だけでなく知識人にも害を及ぼす可能性が高い。