昨日の伊藤貫氏の動画の続きのようなものです。

伊藤貫氏の「大手メディアでは報道されない米露関係の今」の20分前後にとても大事なことが語られていますので、文字起こしをしておきたいと思いました。

 

 

そこには、なぜロシア人がアメリカ人やユダヤ人が嫌いになったかが説明されているのですが、それはソ連崩壊後のエリツィン政権が行ったアメリカ風資本主義の導入、国有企業の急激な民営化によってロシアの経済が破壊され、国民生活も破壊された。そして自然資源の多くが米国に盗まれたというロシア人にとってはとても許せないことが行われたということです。

そしてそれを立て直したのがプーチン大統領であるということです。

 

    エリツィンからプーチンへ

「(伊藤貫)1992年の2月にアメリカ政府は当時まだブッシュ政権ですけれども、戦後の世界をどういうふうに支配するかというんでディフェンス・プランニング・ガイダンスという国家の機密文書を作ってディフェンス・プランニング・ガイダンスには、冷戦後のアメリカは、ロシア、中国、ドイツ、日本が独立した軍事力を持ってリージョナルに地域的な覇権国となることを絶対に阻止すると、仮想敵国と指定してこれらの4カ国が強国になるのを防ぐということを決めてたわけですね。

だからこの時すでにアメリカ政府はNATOを拡大してロシア封じ込めたいというふうに考えてたわけですだけど、ブッシュ政権は口先ではNATOの拡大はあり得ないというふうに言ってたわけです。次のクリントン政権はご存知だと思いますけどNATOの拡大を始めたんです。

 

 それと同時にショック・セラピー(トラ注)というロシア経済の改革をというか改革っていうよりももう突然民営化してロシア国有資産、特に自然資源を実際の価格の2~3%です本当に、実質価格の2~3%の値段で民間に自然資源を買わせて、2~3%の価格で巨大な自然資源を買い取った連中はみんなあっという間に1、2年で数千億円もしくは数兆円の財産を持つオリガーキーと呼ばれる人になったんですね。

でこのクリントン政権がショック・セラピーというデタラメな民営化政策をやらせたせいで、ロシア経済っていうのはたった4、5年でGDPが半分になっちゃったんです。しかもロシアの男性の平均寿命っていうのは、1987年には67歳だったのに10年後の1997年には57歳になってしまったと。

平均寿命が10年間で10歳も下がるっていうのは歴史的に前代未聞なんですよ。それぐらい多くの人がもう病気になったり栄養失調になったりして、それからもう医療機関も全部破産したり、まともな医療が受けられなくなりましたから、だからものすごい悲劇的な状態ですよね。

平均寿命は10年間で10歳落ちるっていうのは、こういう状態にしてはっきり言ってロシアを裏切ったわけですね。このショックセラピーをやったせいで大儲けしたのがゴールドマンサックスとかジョージソロスとかいうアメリカのヘッジ・ファンド業者とアメリカの投資銀行で彼らは日本円にするとたった数年で50兆、80兆 の利益をアメリカに持ち帰ってきたと。

これに関してちょっと話は長くなっちゃいますけど、フリッツ・エアマウスという当時のアメリカのナショナル・インテリジェンス・カウンセルっていうアメリカの17のスパイ機関をコントロールしてるトップの情報機関があるんですけど、そこのチェアマンのフリッツ・エアマウスっていう人が1999年の9月に2回証言して、「アメリカ政府がロシアでやったことは犯罪行為である」「ロシアの富を盗むためにクリントン政権は犯罪行為を起こした」というふうに証言して、ますそういう風にしてクリントン政権は完全にロシア人を反米派にしたわけですね。

 

ですから1990年代のエリツィン政権が終わった時にはロシア人の9割が民主主義はひどい制度だと、それからロシア人の9割が、我々はアメリカが大嫌いだと、それからロシア人の9割が我々はユダヤ人は大嫌いであるという風になったわけですね。

なんでユダヤ人が嫌いかっていうと先ほど言った非常に価値の高い自然資源を実質価値の2、3%の名目価格でオリガーキーと呼ばれる連中に乗っ取らせたんですけれども、このロシアの自然資源を乗っ取ってオリガーキーになった人たちの8割がユダヤ人なんです。だから普通のロシア国民はユダヤ人にしてやられたと思ってユダヤ嫌いになったんです。」

(引用終わり)

(トラ注)

ショック・セラピーについて書かれたとてもよいブログが見つかった。

7回も連載されている。これは別途まとめて紹介したい。

 

 

このロシアの悲惨な経験はほんの30年前のことでほとんどのロシア人の記憶に残っているものである。しかし、このことはほとんど世界に知らされていない。当然ながら日本でも教えられていない。親米ロシア専門家は絶対にそのことを言わない。だから多くの日本人も知らない。佐藤優氏も余り触れていなかった気がする。(佐藤は駐ロ大使館にいるときエリツィンの高官を情報源としていたようだからエリツィンの悪口はあまり言わないからか)

私もエマニュエル・トッドが語ってくれるまで知らなかった。

 マリン・カツサ「コールダー・ウォー」(渡辺惣樹訳草思社)の本にはこのあたりのことがやや詳しく書かれていた。ネットで見つけた「人は見たい現実しかみれない」のなかの「ロシアで起きたショック・セラピー」はかなり参考になりそうだ。

 

BUSINESS INSIDER JAPAN の記事より

「ロシアの新興財閥「オリガルヒ」の歴史…彼らが制裁を受ける理由は」

「…ソビエト連邦崩壊後、ロシア経済は混乱に陥っていた。当時のエリツィン大統領率いる政府は、資本主義への移行を目指し、経営状態の悪い国有企業の民営化を進めようとしていた

これを実現するための株式貸付制度を通じた国営企業の民営化が「loans for shares」と呼ばれるもので、1994年にオネクシム銀行が導入したアイデアだ。

ロシアの銀行は、国有企業の株式を一時的に取得する代わりに政府に資金を貸し付け、その株式は不正なオークションで投資家に格安で売却された。もし政府が債務不履行に陥れば、銀行はその株式を手に入れることができる

その結果、投資家の中には、オネクシム銀行の社長だったウラジーミル・ポターニン(彼は現在、ロシアで最も裕福な人物と言われている)のような人物が、信じられないほど裕福になった。

1999年にプーチンが政権の座につくまで、ポターニンのようなオリガルヒは政治的、経済的に大きな影響力を維持していた。もっとも影響力のあった 「エリツィン時代」 のオリガルヒには、現在制裁を受けているミハイル・フリードマンとピョートル・アーヴェンがいる

プーチンは大統領に就任したとき、政府から汚職を排除することを約束した。この強い姿勢が、ミハイル・ホドルコフスキーやレオニード・ネフズリンといったオリガルヒを逮捕・追放することにつながった。(後略)」

(引用終わり)

 

石油王ホドルコフスキーの追放について、文春オンラインはホドルコフスキーを被害者として記事を書く。

「ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領が、最も危険視する人物がいる。新興財閥「オリガルヒ」の筆頭として知られる実業家、ミハイル・ホドルコフスキー氏(58)だ。

 ホドルコフスキーはソ連崩壊後、ボリス・エリツィン時代の民営化で国有資産を買収し、1990年代に30代の若さでユーコスを設立。同社はロシアの石油生産の2割を占め、彼は瞬く間にロシアNo.1の富豪にのし上がる。そして豊富な資金をもとに、政財界で影響力を強めた。

 だが、ホドルコフスキー氏はプーチンと対立するようになる。2003年、プーチン政権はホドルコフスキー氏を突如逮捕。彼はシベリアで10年間の獄中生活を送り、ユーコスは解体された。

(中略)

さらにプーチンは経済界に対しても圧力を強めてくる。

〈2003年にプーチンは私(ホドルコフスキー)を個別に呼び出し、「特定の政党を支持するな」と要求した。私はユーコスの資金を使って政党を支援しないと約束した。しかし、ユーコスの従業員や株主が自己資金で政党を支持するのを止めることはできないとも伝えた。私は企業経営について決めることはできても、従業員や株主の政治的な指向まで統制することはできないと考えていたからだ。

 プーチンはその時、黙っていた。だが後に彼の側近から、「大統領はひどく怒っている」と聞かされた。プーチンは、私が彼に挑戦しようとしているのだと決めつけたのだ。その時初めて、私とプーチンは市民の権利について根本的に考え方が異なっているのだと気づいた。〉

 それでもホドルコフスキー氏は粘り、プーチンの側近たちによる犯罪を指摘し「汚職と賄賂はもうたくさんだ」と訴えた。

〈ところがプーチンは一切耳を貸そうとしなかった。私はこの時、プーチンが汚職を政治の道具として使い、国を支配しようとしているのだと悟った。プーチンの本性を認識したその時からもう20年近く、私は戦っていることになる。〉」

(引用終わり)

 

ホドルコフスキーはプーチンに迫害されたとしているのだが、ロシア資源を盗んだ意識はこの男には全くないのである。ロシア国民は当然ホドルコフスキーの悪徳を知っているはずだ。

 

エリツィン時代のロシアをスルーした結果何が起きたか。

それはプーチンという政治家への偏見の見方しかしなくなったということである。だからウクライナ戦争も独裁者プーチンの悪だくみなんだと。

プーチンといえばKGB出身で反対派は粛清してのし上がってきた独裁者であり、ロシア国内の言論を弾圧して側近にKGB出身で固めて独裁指導者として君臨しているというものだ。

確かに当たっている部分はあると思われるが、国内生活が混乱の極みに落ち込んでいるとき、その原因つまり米国および米国の手先のロシア成り上がり者を排除したのは、国家の非常時には許される行為で、ロシア国民はそれに賛意を示したのである。

しかし、プーチンがロシアのために行ったことを理解してしまうと、プーチンは悪、独裁者、金正恩のような政治家というイメージがなくなってしまうから、そういう半面は隠ぺいしたのである。

だから、ロシア専門家も素人衆もプーチンがロシアで行った業績について全く知らないか無視を決め込んでプーチンを悪魔化するのである。

 

アメリカは覇権戦略上ロシアの弱体化を狙っているのだが、それ以上にプーチンが邪魔なのである。それは折角ロシアの資源その他を一度は大量に盗んだのにプーチンに妨害されたことが憎いのである。だから、夢よ、もう一度で、ウクライナ戦争を起こしてロシアのプーチンを排除して、またアメリカ風の経営・民営化を持ち込んでロシア資源の略奪を狙っているのである。