有名人も詐欺師に引っかかるととんだ訴訟に巻き込まれて大損する可能性もある。大谷翔平や大坂なおみのことだ。

 

ほとんど詐欺なのだが、先日、暗号資産(仮想通貨)のFTXが経営破綻した。損失は数十兆円の巨額になるという。それで損した投資家が「広告塔」の大谷翔平や大坂なおみなどを相手取り、損害賠償訴訟を提訴したというのだ。

大谷もかなり儲けているはずだが、FTXが詐欺会社なんて知らずに「広告塔」をやっていたはず。それでも訴訟に巻き込まれれば厄介だし、ヘタをすれば元も子もなくなるかも…

 

  

 FTXのCEO(元) サム・バンクマン-フリード

 

日刊ゲンダイ 2022.11.18

「まさかの事態だ。経営破綻した暗号資産(仮想通貨)の大手交換所FTXをめぐり、米オクラホマ州在住の投資家が同社CEOや「広告塔」の著名人を相手取り、損害賠償訴訟を提訴。同社グローバル・アンバサダーを務めるエンゼルスの大谷翔平選手や、同じくアンバサダーの女子テニス・大坂なおみ選手などが被告に名前を並べられてしまった。
 米メディアによると、原告は訴状の中で、FTXの〈詐欺的なスキーム〉によって、〈投資家が110億ドル(約1兆5400億円)の損害を被った〉と主張。被告に関し、〈顧客に数十億ドルの損害を負わせた責任がある〉と訴えた。賠償請求金額は明らかになっていないが、仮に数十億ドルが50億ドル(約7000億円)とすれば、乱暴に計算して被告1人あたり3.8億ドル(約533億円)。とてつもない額だ。
 気になるのは、大谷や大坂が賠償を支払わされるのかどうかだ。米国では過去にも似たようなケースで、セレブが罰金や制裁金を支払わされた事例がある。(後略)
(引用終り)

 

しかし、素人考えではこの損した投資家、八つ当たりというしかない。

プロの投資家のくせに、大谷が「広告塔」をやっていたからFTXを信用した訳ではあるまい。

儲けているときは何も言わず、損をしたら被害者づらするなんて余程の強欲野郎だ。

 

こういう手合いは日本にもいる。最近は余りニュースで話題にならないが、マルチ商法などに引っかかった者が、詐欺投資会社が破綻して大損することが分かった途端に被害者づらして、金を返せと騒ぐのである。

 

かなり昔(2016年9月28日)このこの件でブログに記事を書いたことがある。

 

 

ここでは、以下のように書いた。

「…当然詐欺師が悪いに決まっている。しかし全財産を失ったとか新聞やテレビで被害者が訴えているが、私はそういう被害者をみて、全く同情心が起きない。

確かに強欲の結果の自業自得なんだから自己責任なんだが、こいつら儲かったら何も問題にしないんだろうから。

 ねずみ講は理論的に必ず破綻するが、その中でも大いに儲ける奴がいる。

ババ抜きと同じで、ババを引かされた者だけが被害者となるが、この者もババを別の人間に送ってしまえば、被害者でなくなる。つまりは加害者側になる。要は加害者と被害者は紙一重の差なんだ。

バブルで儲かった人間とバブル崩壊で損した人間も紙一重の差であり、同じ穴の狢なんだ。

 だから、財産を失ったとかで被害者が訴えるのをみても同情が湧かない。お前も強欲で儲けようと張り切っていたんだろう。投資詐欺だということは薄々知っていたんだろう。早く抜け出せば勝てると思っていたんだろう。投資詐欺のお先棒を担いだんだろう。

 

 もし本当に詐欺に騙されたとして、全財産を注ぎ込んだとするなら、お前はこれまでどういう人生を送ってきたのか問いたい。投資詐欺を防ぐ格言は何ら難しい理論はない。

「甘い話は世の中にない」というだけだ。

甘い話があると思って騙されたなら、確かに詐欺師も悪いが騙されるほうもかなり悪いというしかない。

(引用終り)

 

まさに詐欺会社FTXに騙されて損をして文句を言う奴は、被害者でもなんでもない。詐欺するやつと同じ穴の狢(むじな)なんである

 

さて、青空文庫で明治の法学者穂積陳重(ほづみのぶしげ)の「法窓夜話」という随筆を読んだ。

江戸時代の逸話の紹介だが、この中でも、騙されて文句をいう輩のことが出てきて面白い。

 

 

 

穂積陳重「法窓夜話」   

一六 竹内柳右衛門の新法、賭博を撲滅す
 伊予の西条領に賭博が大いに流行して、厳重なる禁令も何の効力を見なかったことがあった。時に竹内柳右衛門という郡奉行があって、大いにその撲滅に苦心し、種々工夫の末、新令を発して、全く賭博の禁を解き、ただ負けた者から訴え出た時には、相手方を呼出して対審の上、賭博をなした証迹明白な場合には、被告より原告に対してかち得た金銭を残らず返戻させるという掟にした。

こういう事になって見ると、賭博をして勝ったところで一向得が行かず、かえって汚名を世上に晒さらす結果となるので、さしも盛んであった袁彦道(えんげんどう:ばくちのこと)の流行も、次第に衰えて、民、皆その業を励むに至った。

 この竹内柳右衛門の新法は、中々奇抜な工夫で、その人の才幹の程も推測られることではあるが、深く考えてみれば、この新法の如きは根本的に誤れる悪立法といわねばならぬ。法律は固もとより道徳法その物とは異なるけれども、立法者は片時も道徳を度外視してはならない。
竹内の新法は、同意の上にて悪事をともにしながら、己れが不利な時には、直ちに相手方を訴えて損失を免れようとする如き不徳を人民に教うるものであって、善良の風俗に反すること賭博その物よりも甚だしいのである。

これ、けだし結果にのみ重きを措き過ぎて、手段の如何を顧みなかった過失であって、いにしえの立法家のしばしば陥ったところである。立法は須(すべか)らく堂々たるべし。竹内の新法の如き小刀細工は、将来の立法者の心して避くべきところであろう。

(引用終り)

 

今の愛媛県西条市での出来事。江戸時代の伊予で賭博が大流行していくら禁止しても効果が上がらなかった。ときに郡奉行の竹内某という男がいて、どのようにしたら賭博を撲滅できるか考えあぐんだ。ようやく一案が浮かんだ。それは、賭博を禁止せず、賭博お構いなしにする。ただ負けた者が訴えてきたら、その時は賭博を認定して負けた者に、勝った儲けを返戻させることにする。そうすれば、賭博に勝手も儲からないから、賭博なんて誰もやらなくなるだろうと。

 これは奇抜な法律ではあるが、穂積氏はこの法は悪立法であると断じる。

穂積は言う。

「立法者は片時も道徳を度外視してはならない。竹内の新法は、同意の上にて悪事をともにしながら、己れが不利な時には、直ちに相手方を訴えて損失を免れようとする如き不徳を人民に教うるものであって、善良の風俗に反すること賭博その物よりも甚だしいのである」

 

これをマルチ商法やFTX詐欺に当てはめると、「同意の上にて悪事をともにしながら、己れが不利な時には、直ちに相手方を訴えて損失を免れようとする」つまり儲けているときは黙っていて、損をしたら訴えるなんて道徳に反するし、もっての他である、ということだ。

 

これに似たようなものに、大麻の合法化もあるかもしれない。アメリカのいくつかの州では完全合法化しているようだが、大麻で精神に異常をきたして、殺人や暴行を犯したとき、訴訟社会アメリカなら、大麻を販売した店を訴えるかもしれない。

これも穂積の言う「同意の上にて悪事をともにしながら、己れが不利な時には、直ちに相手方を訴えて損失を免れようとする」可能性がある。

 

穂積は更に言う。

結果にのみ重きを措き過ぎて、手段の如何を顧みなかった過失であって、いにしえの立法家のしばしば陥ったところである。立法は須(すべか)らく堂々たるべし。竹内の新法の如き小刀細工は、将来の立法者の心して避くべきところであろう。」

 

結果ばかり追うと弊害がでるという警告ですな。

 

全然話はずれるけど、スシローの最近の不振も、結果ばかり追ったアメリカ的経営の失敗じゃないだろうかねえ。