よもやロシア・プーチンがウクライナに侵攻するとは思わなかった。

どんな理由を付けても許されない「ウクライナ侵略」である。

 

しかし衝撃的な事態ではあるが複雑な心境だ。というのもなぜロシアがいとも簡単にウクライナに侵攻したのか、よくわからないからである。

ウクライナとロシアの関係について、全く勉強不足であることが一番の理由だが、何年も前からアメリカも挟んでごたごたしていたことぐらいしか分かっていない。

 

ウクライナに関して記憶にあるのは、欧米寄りのユシチェンコと親露派のヤヌコビッチが争って、2004年のオレンジ革命でユシチェンコが大統領になった。しかし、その直後に毒を盛られてダイオキシン中毒によるアバタ顔になってしまった。また金髪美人のティモシェンコが首相になったり辞めさせられたり、その後ヤヌコビッチが大統領になったりとテレビ報道だけでは何が起きているのかサッパリわからなかった。

 

しかし、2014年2月のクーデターというか騒乱についてはよく覚えている。

真偽は不明だがネオ・ナチを主力とする勢力がクーデターを起こし、暴力的かつ謀略的にヤヌコビッチ政権を倒したのだった。そのウクライナでのクーデターを成功させたのは、アメリカのバラク・オバマ政権であると言われていた。ウクライナでネオ・ナチを手先として使い、クーデターを成功させたのはヒラリー・クリントンとネオコンのビクトリア・ヌランド国務次官補(当時)と言われている。

 

櫻井ジャーナルには「ヌランドがジェオフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使と電話で「次期政権」の人事について話し合っている音声が何者かによって2月4日にインターネット上へアップロードされ、その中でヌランドが推薦していたアルセニー・ヤツェニュクは実際、クーデター後に首相となった。

 ヌランドはパイアットとの会話の中で「EUなんかくそくらえ」と口にしたが、これは話し合いでの解決を模索していたEUへの不満から出た言葉。ヌランドはあくまでも暴力で決着をつけたがっていた。カダフィと同じようにヤヌコビッチを処分したかったのかもしれない。」(2016.6.7)と書かれている。

 

つまり、ウクライナの反露派路線は8年前にアメリカの画策によるクーデターによって暴力的に成立したと言える。

つまりロシアの庭先というか玄関口まで反露派政権が伸びてきていて、プーチンは国家安全保障に非常な危機感を持っていたのである。

 

既に今回の侵攻で報道されているが、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連も解体した当時、「NATOは東へ拡大しない」という約束がドイツとロシアの間でなされていた。

櫻井ジャーナルより。

「…ドイツの外相だったゲンシャーは1990年にシェワルナゼと会った際、「NATOは東へ拡大しない」と確約し、シェワルナゼはゲンシャーの話を全て信じると応じたともいう。(“NATO’s Eastward Expansion,” Spiegel, November 26, 2009)

 それだけでなく、アメリカのジェームズ・ベイカー国務長官がソ連側に対し、統一後もドイツはNATOにとどまるものの、NATO軍の支配地域は1インチたりとも東へ拡大させないと1990年に語ったとする記録が公開されている。イギリスやフランスもNATOを東へ拡大させないと保証したが、言うまでもなく、こうした約束を守らなかった。1インチどころか1000キロメートル近く東へ拡大、ロシアとの国境は目前に迫っている。そして2014年のウクライナにおけるクーデターだ。」

 

ここまで見てくると、ロシアの侵略は間違っているとはいうものの、そこに至るプロセスもまた見ておく必要がある。そうでないと、複雑な国際政治を、単に悪のロシアとだけ叩いていればいいという単純な見方になってしまう。

マスコミはロシアの情報戦に注意を喚起するが、米国大統領不正選挙に典型的に見られたように欧米も当然情報戦を仕掛けている。つまり情報統制をしているのであり、それこそ悲惨な戦闘シーンだけでなく、背後についても目を凝らすべきなのである。

 

しかし、それにしてもプーチンがいくら欧米の東への進出が国家安全保障上憂慮すべき問題としても、それが即ウクライナ侵攻に結びつけるのは不可解と言うしかない。

評論家の宮崎正弘氏はプーチンの計算を次のようにみる。

「戦争前のプーチンの思惑は以下の計算で成り立っていた、と思われる。
 ・ウクライナに打って出ても西側は軍事介入はしないだろう
 ・ドイツはガスの元栓をしめると脅せば、手も足も出せないだろう。
 ・中国、インドなどは国連でロシア擁護に廻ってくれるだろう
 ・ウォール街、シティはSWFITからロシア排除に反対するだろう。
 ・カザフスタンはよもや裏切らないだろう。
 ・NATOは参加国が増えたため、かえって結束しないだろう
 ・ロシア国内の反プーチンデモは盛り上がるまい       」

 

宮崎氏によるプーチンの思惑の想定は少し安易というか浅すぎるように思われるが、宮崎氏はその結果を次のように続ける。

「思惑は九割方外れた。
例外は「バイデンが無能」という実態が浮き彫りになったことだ。

 プーチンの予測と事態は逆に回転した。
 ドイツはウクライナにスティンガーミサイルなどを供与するとした。シュルツ首相は国防予算を大増額し、13兆円とするとした。欧米はSWIFTからロシア排除を決めた。ロシア・ルーブルは唸りを上げて大暴落。カザフスタンはロシアからの派兵要請を拒絶し、ドンバス地方の独立を承認せず。
 ウクライナの正規軍、志願兵は強い抵抗を示し、ロシア軍の被害甚大となった。ロシア軍の進行速度が鈍り、キエフ陥落は望み薄となった。
 ロシア国内で反プーチンデモは数十の都市に拡がり、かつプーチン辞任を求める署名に数十万人がすでに応じた。ロシアの知識人等著名人170名が連名で辞任要求を突きつけた。150のロシアの地方都市、自治体がプーチンに戦争やめろと要求書を出した。
 日本を含む世界各国で激しい反ロシア運動が拡大した。とくにベルリンでは十万を超える民衆が集結した。英国BPはロシアのロフネフツ株250億ドルを売却すると発表。「友軍」で出撃基地となったベラルーシも制裁対象となり日本も応じた。

 EUは580億ドルの武器援助(ジェット戦闘機を含む)。ロシア機の上空通過禁止。スエェーデンも武器輸出解禁に踏み切ると発表した。同国はNATO未加盟である。

デンマークは志願兵のウクライナ義勇軍参加を黙認するとした。國際義勇軍が編成される可能性が出た。
情勢はプーチンの描いた方向とは逆方向に向きを変えた。ロシア1憶4400万国民のなかで、ウクライナ侵攻に賛成する層が、予測を遙かに下回っている実態も表面化した。」

 

宮崎氏は「例外は「バイデンが無能」という実態が浮き彫りになったことだ。」と書くが、これはもう規定事実だ。バイデンは最初から米軍はウクライナには送らないと言明していた。NATOも。

 

しかし、ここで立憲民主党などの左翼と同じ軟弱な発想になってしまい、この考えがいいのか悪いのか分からなくなってくるのだが、もしバイデンが、好戦的なネオコンの言いなりになって、あるいは戦争大好きなヒラリー・クリントンが大統領だったとして、ウクライナの正義のために悪のロシアを叩くぞ、と大軍を派兵又はロシア軍部隊にミサイルを撃ちこんでいたらどうなるか。

それは第三次世界大戦の始まりになる可能性がある。今後もその可能性は否定できないが少なくとも現時点では、大国間の戦争は回避されている。

 

つまり、変な言い方だが、実は「バイデンが無能」でよかった、のかもしれないのだ。

国際政治評論家の伊藤貫氏は、核保有論者で勢力均衡論者なのだが、政治家のバイデンを一点のみ評価している。それは戦争嫌いだということだそうだ。

オバマもヒラリーも戦争が好きで、この二人が米国の指導者として戦争を起こして多くの民を死に至らしめているが、政権にいたバイデンはその戦争にはことごとく否定的であったという。

だから、今回も確かにバイデンは無能なんだが、そもそも政治信条として戦争忌避者であったことは幸いだったといえるのではないか。

 

戦争はチキンゲームだ。突っ張り過ぎてしまえば破滅に向かう。プーチンも今チキンゲームをしているところだが、その本気さに眉をひそめながらも、政治的には負けている。だから、強力な経済制裁だ。

 

ふつう戦争を止めさせるのに経済制裁は効かない、と言われている。

しかし、ロシアは経済的には中小国だ。資源があるだけで経済的にはみるものがない。つまり、ロシアに対しては、強力な経済制裁は効き目があると思うのである。

北朝鮮にも永らく経済制裁を続けているが、何故かいつまでも頑張っている。それは、独裁国家であることと、元々超貧乏国家であることから経済制裁にも耐えている。

しかし、ロシアはプーチンの独裁と言っても、北朝鮮ほどではない。一応選挙とか制約されてはいるが言論の自由というものがあり、且つある程度豊かな生活を享受している。こんな国が世界から総スカンを食ったら内部から崩壊するだろう。資源がいくらあっても買ってくれなければ宝の持ち腐れだ。

(話は逸れるが、ドイツはロシアから天然ガスが止められて痛い目に会えばいい。それにより、今のグリーンエネルギー政策が間違いだと気が付けばいいのだが。)

 

それはリアリストプーチンもよくわかっているはずだ。それでもウクライナに侵攻しないといけなかったのか。もっと粘り強い交渉はできなかったのか。

 

ウクライナのゼレンスキーも今や愛国英雄なのだが、EU やNATOに加わることがウクライナにとって良いことなのか考えるべきではなかったか。NATOには加盟しないと言明できなかったのか。

EUはもう崩壊しているし特にユーロ圏に入ることは、貨幣の国家主権を放棄することであり、ドイツのいいなりとなり、ギリシャ化の可能性すらある。

また、NATOに加盟しても助けてくれないということがよくわかったのではないか。勿論今はウクライナはNATOに加盟していないから助けに来ないが、加盟したら助けに来るのか。NATOにロシアと全面戦争する気なんてあるのか。

 

その昔、ポーランドにヒトラーは攻め入ったが、その際ポーランドが強気だったのは、英仏がポーランドを助けてくれるという約束があったからだ。そしてポーランドは蹂躙され、英仏が参戦し、第二次世界大戦に突入した。それを知っている欧州はウクライナのために第三次世界大戦を戦う意思があるのだろうか。(それは日米安保にも言えることだが)

 

ウクライナも欧米を理想化することなく現実を見るべきだった。プーチンはソ連崩壊後のエリツィンの欧米化つまり新自由主義経済の急速な導入により、ロシア国内は大混乱をきたした。これをプーチンは知っているのである。

ウクライナも国民の為にもう少しEUの現実、新自由主義経済の現実をみてからでも遅くなかったのではないか。

 

プーチンは、確かにやり過ぎた。戦争は脅しのままにすべきだった。

ウクライナ、ガンバレと応援したい。

停戦交渉が早く合意できるように祈りたい。

 

しかし、なんだかしっくりとこないのである。

 

(追伸)2024.1.14

ロシア侵攻直後は何も分からず

「どんな理由を付けても許されない「ウクライナ侵略」である。」とか

ウクライナ、ガンバレと応援したい。

なんて書いていた。

今となっては恥ずかしい限りだが、記録に留めておこう。

ただ、最後のところで

「しかし、なんだかしっくりとこないのである。」

と書いていたのは救いと言えるかもしれない。