H先生の涙 | 周ちゃんのブログ

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 私は中学生の時、放送部でした。主な活動内容は、お昼の校内放送、そして学校行事などでは、音響機材の管理、設営、後片付けなどをしていました。

 H先生は音楽教師。本来は声楽家で、イタリアに留学したこともあると聞いたことがあります。

 H先生の企画で、全校生徒で喜多郎の「シルクロード」を演奏しようという事になりました。体育館に集まってソプラノ・アルト笛で一斉にです。H先生は音楽の時間に、生徒11人を指導して全員が「シルクロード」を吹けるようにしました。

 当日、私は放送部でしたので、演奏には参加せず、1人で体育館の放送室でマイクの音量のチェックなどをしていました。

 演奏が終わった後、誰かが放送室に駆け込んできました。H先生です。泣いていました。大人が泣いているのを初めて見ました。訳が分からなかったですが、私は見つからないように気配を消して、物陰に隠れました。H先生が泣き止み、放送室を出て行くまで隠れていました。そして、その事を誰にも言いませんでした。涙を隠すために、放送室に駆け込んだのだ、ということは分かりましたから。

 私は今、当時のH先生と同じくらいの年齢になりました。何故あの時、H先生が泣いていたのか、やっと分かったような気がします。

 私が通っていたような地方の中学校の音楽教師という立場は、もしかしたら、イタリアに留学までしたH先生にとっては、夢見た未来ではなかったのかもしれません。声楽家として別の未来を目指していたのかも知れません。しかし、その別の未来では、中学生11人を丁寧に指導して、一斉に、体育館で演奏するという出来事はなかったでしょう。当時は子どもの数が多かったですからね。全学年集まると、何百人にもなったのです。何百人が一斉に演奏する姿は壮観だったでしょうね。

 H先生は合唱部の指導もされていて、先生が来てから我が校は合唱の強豪校になりました。中学生にラテン語の歌を歌わせていたりしましたよ。

 私も今、若い頃思い描いた夢とは、違う人生を歩んでいますが、思いの外楽しいこともたくさんあります。

映画やドラマでは夢が叶う物語が多いですが、夢が叶わない人生も充分ドラマチックなことがたくさんありますね。

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イラスト by mr jun