あの谷間をでてからどれくらいたっただろう?
最近、ゲンゾウの様子がおかしい。
大型犬ぐらいの大きさになったゲンゾウは黒々と輝く翼も成長した。鼻ものびてシュッとスマートになりたてがみは美しい銀色になった。
もとからリィーを拝む人々はゲンゾウもおそれながらも敬っている。
ゲンゾウのおかげでイノは村人たちとうちとけるようになっていた。
体は大きいが優しいゲンゾウは子供達の大人気だ。
『恵みの月』をむかえて、家畜の出産や農作物の収穫でいそがしい大人たちにはおおだすかりだ。
ゲンゾウが来てからは村の子供がやれ迷子になったと大騒ぎがなくなった。
「イノ、お前も嫁もらったらどうだ?」
シンがイモのツタにてをかけながらいう。 遠くで赤ん坊を背負った女性がイモを干している。
シンの妻のダイアだ。
イノもシンももとはコスモの地球からきた移住民だ。
シンは地球で幼い頃は狩りをして畑をして育ったのでここの暮らしにもなじんでいる。
「いや俺は一人でいいんだ。ゲンゾウもマリアもいるしな。」
引いてもビクともしない大根と格闘しながら答える。
「おまえなあ、たしかにマリアは綺麗な馬だけど、子供はつくれねえだろ。」
シンが掘ったイモの大きさにビックリしながらいう。
「なんか今年は野菜も生きがいいよ。大地の聖獣がいるからかね。」
シンの隣で仕事していた娘が言う。
ゲンゾウが血を引いているタイガーというのは大地の聖獣らしい。
普通は白くてたてがみがあり地球の虎とにているらしい。
「アラアラ、イノさんだいじょうぶかい?」
気合いを入れて引っ張り抜けた拍子にみごとに後ろにひっくり返ったイノを女性が助けおこす。
「がんこのわりには貧弱な大根だなあ。」
まわりに笑われイノがとれた細い大根をあげる。
「これはこういう大根なんだよ。干して漬物にするんだよ。」
女性が言ってさらに笑われる。
シンはもう腹を抱えて大笑いだ。
「イノがひっくりかえるなんてはじめてみたぞ。さすがサホの大根だ。イノをすっころばすとは。」
からかうシンの頭を葉っぱでたたく。
「まったくあんたは品がないね。イノさんやジェイドさんと同じ仕事してとは思えないよ。」
サホも村の衆もみんなシン、イノ、ジェイドが同じ組式で地球を救うために戦ったことを知っている。
ジェイドは村の暮らしより谷間にいるほうがいいと帰ってきていない。
「ジェイドかああいつみてねえな。」
シンはジェイドが旅立ってからは会っていない。
昔の同志はほとんど村から去ってしまったのでイノとシンしかいない。
村で戦いの犠牲になった同志の子供を支え移住して残っている人々を支え生きていくときめたシン、イノはなじんでもやはりあわないと思う。
俺はこれ以上ここにいれないな。
マリアとゲンゾウを連れて穫り入れが終わったらでていこう。
イノの中にはどうしてもネオスからきた住民の姿が忘れられずにいた。
自分は秘密を抱えてしまったそのせいもある。