ある日、書店で一冊の写真集がふと目に留まった。ちょっと立ち読みしただけで懐かしさが込み上げてきた。これは貴重な一冊だと直感し、すぐに購入した。
本書は1981年から84年頃の国鉄両毛線前橋駅の駅舎や駅前風景、周辺の街並みなどをまとめた写真集である。当時、前橋駅を含む両毛線は高架化工事が計画されており、工事に伴い前橋駅舎は解体されることが決まっていた。中学生だった著者は写真部に所属し、「何かテーマを決めて撮る」ため前橋駅を撮影し始めたという。(あとがきより)
定点観測のように
タイトルからして鉄道写真集と思いがちだが、本書は鉄道の記録にとどまらず、駅を中心にした街の変化を定点観測的に記録した写真集としても貴重である。
本書に収録された写真は、報道写真のように細かい観察が行き届いている。駅舎正面の写真はもとより、駅構内の貨物、駅前のけやき並木通り、バス乗り場、台風で損傷した鉄橋、小さな無人踏切など、見過ごしてしまいそうな情景もとらえている。そして、枚数が多くなれば必然的に当時の人々の服装、広告看板、古い型の自動車なども写りこみ、1980年代前半の地方都市の光景や社会の世相も浮かび上がらせている。
演出控え目の自然な写真
この写真集に心打たれるのは、昔の記憶がよみがえるのはもちろん、どの写真も控え目の演出で、素朴なスナップ写真であることも大きい。
前橋駅に初めて特急列車「あかぎ」が登場した時や、天皇皇后が乗車した特別列車などは鉄道の記録として貴重だが、個人的には何気ない日常風景を写した写真に惹かれるものがある。というのも、作為的な構図で目を引いたり、見る人を誘導するような感情移入が感じられず、昔の自分がそこにいたような懐かしさを感じさせるのだ。どれも自然な写真で、自然な構成になっている。写真は無言だが、言葉とは一味違った深い味わいにあふれている。

(国鉄時代の前橋駅の硬券入場券。私には旧前橋駅の写真はないので、せめて昔の前橋駅を思い出すものと言えば、これしかない)
記憶の隙間
個人的なことを言えば、私は著者よりもちょっと下の世代である。少年の頃、親に連れられて旧前橋駅に乗り降りしたことが何度かあるが、駅の形をなんとなく覚えている程度だった。この写真集が前橋駅の細部まで伝えているのを見て、自分の知らなかった前橋駅と高架化前の前橋の街並みを知ることができた。曖昧だった前橋駅の記憶がしっかりとした形になった。





















