彼から「今度、食事でも行きますか?」と言われた後、僕はすぐ準備に取り掛かった。
僕のほうが彼より年齢は上だったので(こちらの世界の経験は足元にも及ばない気はしたが)、待ち合わせ場所や食事をするお店を選ぶのはこちらに一任してもらった。
いくつか頭の中で店をチョイスして、彼に食事の好みを聞いて、お店の予約をした。確実に緊張することがわかっていたので、普段から飲み会などで利用している行き慣れた和食の店を選ぶ。
服もそれまでは「清潔ならいいや」程度の認識だったにも関わらず、必死に手持ちの服の中から「まともそうなもの」を自分なりに選んで用意する。
…うん。改めて文章にすると、わりと必死だったなぁと思う。
そうして可能な限りでの準備万端?で当日を迎えるも、やはり全力でテンパリながら待ち合わせ場所へ。待ち合わせ時刻より30分前に現地へ到着し、もう一度予約した店への道順を実際に歩いて確認する。いや、僕は自他共に認める驚異的な方向音痴なので…。
合流は比較的スムーズに済んだ。赤い奴でみた写真と、現物の彼はかなり違った(良い意味で)けど、しっかりとした口調で生真面目な印象が伝わってきた。むしろ僕の方がギクシャクしてた、気がする。
案内した店では彼の方が「こんなお店入ったことないです…」と若干気おされ気味だったが(そんなべらぼうに高いお店とかじゃないんですが)、軽くお酒を入れて、リーズナブルな値段の割りに美味しいものを突付いているうちに、自然といろいろ話すことができた。
そして改めて、自分が「ゲイであること」を隠すのに大きなエネルギーを使っているんだなぁと感じた。隠すことが当たり前なので普段は認識していないだけで、ゲイである自分を隠さずに話せるということは、すごく楽なことだったんだな、と。
彼は第一印象の通り、しっかりした青年だった。
礼儀正しく、自分なりの考えを持ち、そして時々毒を吐く(笑)。
僕よりよほど頼りがいのある青年なんじゃなかろうか…と思ったり。
18時過ぎにお店に入ったのに、結局その日は飲み屋→喫茶店と場所を変えつつも、終電ギリギリまで彼との会話を楽しみ、どことなくふわふわした気分で僕は帰途についた。月並みな言葉だけど、すごく楽しかった。
だけど、この時もまだ、やっぱり恋心ではなかったんだ。