さて、流れをはっきりさせた上で、①と付けた、「友達や家族といった役割を与えられる理由」について触れる。

デュアルとドロシーは、リモと共に第3階層のデータを巡る中でも学生になったり店員になったりしているシーンがあるが、彼女達は元の役割ではない、その世界限定の役割を与えられ、所謂「ロールプレイング」をいくつもの世界で繰り返している。

その中でも、序盤に「バージョンアップしてから、最近なぜか友達や家族として組み込まれる事が増えた。前はそんな事無かったのに(要約)」とドロシーが発言しているが、その「なぜ」は本編で回答が語られない。なぜなのだろう。

そのシーンでは「人間てのはめんどくさいことしてくれるよね」とドロシーは続けるが、もちろんその頃はもう人間はいない。そのアップデートはmotherの意思を継いだ(継がされた)リモによるものであるが、ではmotherの意思でデュアルとドロシーはそうなっていたのだろうか。

これは完全に個人的な見解だが、おそらくmotherによるものではない、と結論付ける事にした。
motherによるものだとした場合、デュアルとドロシーを友達や家族として組み込む事には当然理由がいる。

先に述べたように、motherはデュアルとドロシーが自身の影響の及ばない所へ行ってしまう事を危惧していた。そうなる状況は、彼女達がヒューリスティック・エンジンによる学習の末に感情を獲得しmotherに反旗を翻す、とか、自らの本来あるべき姿や目的を思い出しmotherのために動く事が無くなる、といったものが考えられる。

わざわざ「友達や家族として組み込む」という、いかにも感情の発現を促しそうな事をmotherがするだろうか? しないだろう。

では、なぜ彼女達はそうして組み込まれロールプレイをしていたのか。

その理由は、ずばり「デュアルとドロシー自身の願望」だと考えられる。

本人達は全く意識していないが、物語開始時点で既に発芽していた感情から、本編で描かれる部分だけ言えばデュアルは「友達が欲しい」と思い、ドロシーは「家族が欲しい」と思うようになったのだろう。描かれてはいないが、ドロシーの発言からおそらくその逆もあったものと思われる。
さらに論拠を挙げるなら、リモと共に3人でバックアップの世界を巡っていた時は、3人ともそれぞれ学生になったり店員になったりと、やってみたい事を満喫しているように見える。店員はともかく、学生はそう組み込まれないとすぐにはなれないものだ。という事は、バックアップデータに入る際に彼女達はなりたいものになる事ができる、と考えられる。

であるから、無意識的にせよ、彼女達は「友達が欲しい」「家族が欲しい」と望むとバックアップデータの中でそう組み込まれるのだ。
お互いやリモの事は普通の友達や血の繋がった家族とはまた違う、特別な関係だと考えているからこそそう望むのだろう。
もっとも、物語初期のデュアルとドロシーはなかなかに険悪な関係だったが。

ともかく、そんな自分の願望から組み込まれた関係の相手を自ら消去しなければならない彼女達の心の痛みは、推して知る事ができるだろう。
デュアルとドロシーのアルゴリズムの変遷をここで一旦整理しておこう。彼女達は終盤で次々にコスチュームが変わるが、それが変化の象徴でもある。

変遷の流れは以下のようになっている。

ViOSにインストールされる。繰り返しになるが、デュアルとドロシーは「双対の鉄壁アンチウイルスプログラム」、2つで1つのソフトである。
 ↓
ViOSにmotherがインストールされ、環境と社会の管理が始まる。おそらくこの頃にViOSを守るためのプログラムだった2人は知識の箱に活動場所を移され、知識の箱を守るプログラムになっていく。
motherはリモのプログラムを書き換え、やがて人類と相撃つ(細かな流れはリモの該当記事参照)。
 ↓
持ち前のヒューリスティック・エンジンにより、自ら思考し学習しながら成長を続ける。その内自我が芽生える。
 ↓
リモからのアップデートによりバックアップデータの残骸をウイルスとして認識するようになる。
 ↓
アップデートを繰り返され、事実上motherのためのプログラムへと変えられていく。
 ↓
①第2階層のデータを解凍した時に友達や家族といった形で役割を与えられる事が増え始める。
 ↓
リモと出会い、人間の感情や文化を学びながら膨大な時間を共に過ごす。
 ↓
リモによって、自分達がウイルスだと思っていたものがウイルスではなかった事が明かされる。敵の大群が襲来する。
 ↓
②motherによって書き換えられる前の状態へ自らをダウングレード。
コスチュームが変化し、スミレの花の意匠が入ったものになる。
 ↓
リモによってプログラムを書き換えられ、強制フォーマットプログラムをウイルスとして認識するようになる。
コスチュームが変化、ウイルスへの反応・攻撃の際に側部のラインが光る。
 ↓
リモの消滅に涙を流す。夢を見るという事を知り、物語はエンディングへ。

という流れである。

①②と付けた部分については、この後の記事で解説していく。
突然だが、カードゲームには往々にして「リセットカード」というものが存在する。

場に出ている全ての、あるいはある一定の種類や位置にあるカードを敵味方もろとも全て破壊してしまう効果を持ったカードである。

その中でも、遊戯王OCGの《激流葬》というカードは、リモの中に仕掛けられた罠を説明するのにぴったりだと思われるので、これを題材にしてmotherの罠について説明してみようと思う。

まず基本的な話として、遊戯王OCGの基本ルールと《激流葬》というカードの効果を説明する。
遊戯王の基本ルールは単純、モンスターというプレイヤーのしもべを召喚し、相手のモンスターやプレイヤーを攻撃しダメージを与えてライフポイントをゼロにしたら勝利。モンスターカードの他に、プレイヤーが唱える魔法カードと、状況に合わせて仕掛ける罠カードがある。
《激流葬》というカードはその罠カードの1種で、モンスターが召喚された時に、敵味方問わず場に出ている全てのモンスターを破壊してしまうという強力なリセットカードである。

では、あなたが《激流葬》を仕掛け、発動するとしたら、どんなタイミングで発動するだろうか。
自分の場にしかモンスターがいない状況で発動するのは、基本的には自殺行為でしかない。
相手の場にしかモンスターがいない状況ならどうか。これは良い。敵味方問わず破壊する効果でありながら、敵のカードしか破壊しない上にそれを全部、である。2枚以上破壊できれば、自分が使うカードは《激流葬》1枚でありながら相手には2枚以上損させるわけで、自分は相対的に得をする事になる。

では、自分の場にもモンスターがいる状況ならどうか。これは悩む所だ。ある程度賢いプレイヤーなら、「自分の破壊されるカードと相手の破壊されるカードの釣り合いが取れるか相手の方が損をする状況なら発動する」と答えるだろう。
例えば、自分の破壊されるカードが1枚なら《激流葬》と合わせて消費は2枚だから、相手のカードを2枚以上巻き込めれば一応の等価交換か得をする、という話だ。

では、自分の場に時間をかけて育ててきたモンスターがいる状況なら、どうだろう。しかも、そのモンスターを育てるために費やした時間は膨大で、そのモンスターを失ったら勝ちが無くなるという状況なら。
そんな状況があるとしたら、《激流葬》を使うべきタイミングは1つしかない。
「自分がこれを使わなければ負ける状況に立たされた時」だ。
勝ちは無くなるかもしれないが、少なくともその場の負けは回避できる。まさに最後の手段である。

そんな状況を想定して、motherはリモの中に罠を仕掛けた。「デュアルとドロシーが自らの管理を外れた時、集めてきた『綺麗なもの』もろとも全てを無に帰す」《強制初期化(フォーマット)》という最後の手段を。

motherはデュアルとドロシーのヒューリスティック・エンジンを恐れ、無力化か、それが不可能となった時に知識の箱ごと消滅させてしまおうと仕組んでいた。具体的に何を恐れていたかと言えば、motherの手が及ばない所へ彼女達が自立的に行ってしまう事。
自らの力が及ばない範囲に人間の意思が存在するようになってしまう事は、自ら思考する人間を地球のために滅ぼしたmotherからすれば最も憂慮すべき事態である。

であるから、そのmotherにとっての最悪の事態になった時、全てを消滅させるリセットカードを残したのだ。しかも明確に人類の敵になっているmother自身の中にではなく、ViOSのプログラムであるリモの中に。