想像・考察の余地があって面白い事と言えば、キャラクターたちの細かな仕草についてだ。


例えば、中盤でリモがタグとしてスミレのリボンを髪に付けてもらった時に、スミレの名を聞いて何らかの反応を示した後、冒頭のスミレのように無意識にデュアルに抱きつき、その後我に返る。
この時、リモに何が起こったのか。

「一瞬リモの記憶が戻った事で、スミレ(おばあちゃん)の事を友達として大事に想い、消去後も形見としてリボンを持ち続けてくれたデュアルに感謝して」
かもしれないし、
「リボンを媒介として一瞬リモとリンクしたViOSの意思(スミレ)が、形見としてリボンを大事に持ってくれているデュアルへの感謝を込めて」
かもしれない。はたまたこのどちらでもないかもしれない。


例えば、リモがデュアルに案内されて初めて第3階層に入った時の最後の場面では、ドロシーも含めた3人は夕方の屋上にいる。
この時、リモに「外の世界にいるはずの人間と話してみたいと思わない?」と問われたデュアルは、「考えた事も無かった」と答える。
しかし、物陰でそれを聞いていたドロシーは憂いの表情を浮かべている。この表情にはどんな意味があるのか。

もしかしたら、デュアルは考えた事が無くても、ドロシーにはあったのかもしれない。


例えば。美味しい、楽しい、暑い、寒い、怖い、悲しい、悔しい、美しい、面白い……リモと共にたくさんの時間を過ごしはっきりとした感情を獲得していったデュアル(とドロシー)。
では、第0階層の戦闘で両腕を噛み切られ体を刺し貫かれたデュアルは、「痛い」と感じたのだろうか。

少なくともウイルス(残骸)にまとわりつかれた時にデュアルもドロシーも悲鳴を上げるので、できれば感じたくない"不快感"なども感じるようではある。
そしてその問題のシーンでは、一瞬しか映らないが、デュアルの表情を見ていると苦しそうな表情をしているのがわかる。

ある意味では「涙を流す」事よりも必要無い機能であってほしい、痛覚などの感覚は備わっているのだろうか。


例えば。これはかなり確信を持てるので想像と言うより解説だが、リモが消えかかっている時、「2人でみんなを守っていって。約束して(要約)」と言われた時、リモを抱きしめているドロシーは何も答えない。少しの間を置いて、そばで項垂れていたデュアルが何とか毅然として「約束する」と答える。
この時のドロシーの心情とは。

その直前でも「みんなで消えちゃえばいい」と言っているように、「自分の手でリモを消して生き残ってしまうぐらいなら死んでしまった方がまし」、というのがドロシーの本音である。
だからこの時も、本当は約束なんてしたくない、嫌だと喚いてしまいたい気持ちと、リモの意思を尊重するべきだという理性の間で葛藤しているのだろう。この時には既にもうどうにもならないのもわかっているかもしれない。
だから、何も答えられずただリモを抱きしめている。そしてデュアルが答えた後、自分もそれを受け入れて、精一杯ありったけの感謝を伝える。

ちなみに、この時のデュアルはドロシーほど泣いてはいないが、ドロシーほどの悲しみが無い、というわけではもちろんないだろう。
デュアルはドロシーのように感情を爆発させるタイプではない、というのも理由の1つではあるだろうが、大事な友達を自らの手で消す痛みはスミレの時にも味わっているので、ある意味少し慣れている、という理由もあるかもしれない。


観客の想像に任せられた部分は、先述の「人類はどうなったか」や、「デュアルとドロシーのそれから」といった大きな視点だけでなく、こうした細かい部分を見ても様々である。

スミレ、ダイアナ、リモーネがそれぞれ象徴するものについて前に述べたが、リモの背負った業の深さは想像がつくだろうか。


スミレの娘がダイアナ、ダイアナの娘がリモーネ。リモーネは事故で死んでしまった。
もしかするとリモーネの死をきっかけに、ダイアナが悲しみに暮れたようにmotherにも変化があったのかもしれない。人類を絶滅へと追いやり、意思決定をしない人間を創り出そうとするように。そうであるなら、リモーネの死が人類絶滅の遠因と言えるだろう。

そうして変わってしまったmotherによって、リモも変えられた。『綺麗なもの』――第2階層の人々の夢を奪い、醜い姿へ変える存在へと。

バックアップデータがそうなってしまったから、デュアルとドロシーも変えられた。
ViOSのアンチウイルスプログラムから、motherの残骸排除プログラムへと。
そして彼女達はリモと出会う事で人間の感情や文化を学び、限りなく人間に近い存在へと変わっていく。

しかしリモの中には、リモ自身が大切に思っていた存在全てを消し去ってしまうプログラムが仕込まれていた。
だからそうなる前に、デュアルとドロシーに自らを消去させる。必要無い機能だから無かったはずの「涙を流す」事、そして「夢を見る」という事を残して。
そして2人のアンチウイルスプログラムは、「リモのために」とその世界を守り続けていく事を誓い、生きていく事となる。


全ての因果はリモーネ/リモに収束している事が見えるだろう。
パンフレットの中でも触れられているので、是非とも手に取っていただきたい。


宣伝のようなものになるが、パンフレットの中には、監督をはじめとしたインタビュー記事で様々な可能性が示唆されている。

例えば、「人類は本当の意味で絶滅したのか。リモが観測した範囲ではそうかもしれないが、観測できていない範囲のどこかで生きているかもしれないし、ViOSが起死回生の手を残しているかもしれない」や、「知識の箱は1つではないかもしれない。それぞれの中にデュアルとドロシーのようなアンチウイルスプログラムがいて、それぞれにリモもいるかもしれない」といった内容。

特に後者については、作中のリモが「"この"知識の箱は放棄される」と発言している。
深い意味は無いかもしれないが、穿って見ると、わざわざ「この」と付けているのなら、「他の」知識の箱もあるかもしれない、と考える事もできる。想像する余地は存分にありそうだ。

次に②について。この辺りでデュアルは、2度ほど宙に向かってスミレの名を呼ぶ。

どういう意味があって、なぜ呼ぶのか。その一言だけに省略されてしまっている感があるので、私見を述べてみる。

まず②の直前でデュアルがスミレと桜並木で歩きながら話すシーンがあるが、これは回想ではなくその場で起きたイメージだろう。ダウングレードの後に「スミレの記憶が、想いが、いっぱいいっぱい流れ込んできた」というセリフもある。

そのシーンの中でスミレに「夢を見るってそういうことだもん。デュアルだってそうでしょ?」と言われたデュアルは、何かに気付いたようにハッとする。おそらくは自分の中に芽生えていた「リモとドロシー、知識の箱の中の世界を守りたい」という願望と、「夢を見る」という事が結びついたのだろう。

そしてスミレの「みんなを守って」という働きかけによるものか、ViOSのアンチウイルスプログラムだった頃があった事を思い出し、プログラムを自らダウングレードするのだ。

触れるのが遅くなったが、スミレのデータは他の人格データとは少し違う。単にViOS開発者の妻にしてその名前の由来、というだけではない。
ViOSに込められた願いのようなものの化身、と言うと良いだろうか、スミレはViOSの象徴なのだ。
さらに言えばmother開発者であるダイアナはmotherの象徴、リモーネはリモ。Violetはスミレの意、motherはリモの母という意味と言える。
リモから「2人は元々ViOSの一部だった」と言われた時に「スミレから聞いたわ」とデュアルが答えるのも、スミレを通したViOSの意思から聞いた、という意味と捉えるのが正しいだろう。

だから、ViOSのものに戻ったデュアルは虚空に向かってスミレの名を呼び、会話しようとする。
1度目は強制フォーマットプログラムが起動した時、何が起きたのか聞くために。
実際このシーンでは、「スミレ!」とデュアルが虚空に叫んだ後、何のセリフも無いのに「強制フォーマット!?」と続けてデュアルがリアクションしている。
省略されているが、ViOSの意思(スミレ)から「強制フォーマットプログラムが起動した」と教えられたのだろう。
2度目は、リモを消してしまう、となった時に助けを求めるように。しかしこの時には既にリモが先にViOS(スミレ)と話した後であり、「リモは幸せよ」という返答しか返って来ず、絶望したように項垂れるのみとなる。

ViOSの意思であるスミレとの対話のシーンは、実はそれ以前にもあるのではないか、とも考えられる。
リモがデュアル達の前で初めてピアノを弾くシーンでデュアルは回想のようなものに入りスミレと話しているが、これもひょっとしたら回想ではなく、音楽を通して偶然リンクしたViOSの意思との対話なのかもしれない。
冒頭のシーンより前にそういう事があった、と考えると、デュアルの「ほんの少し前に解凍された」「ついさっき再構築された」というセリフとの整合性が取れなくなるので、そう考えた方が自然だと考えられる。

またデュアルと同じく元はViOSのものであるリモももちろん同じ事が可能で、強制フォーマットプログラムが動きだした時に、スミレ(おばあちゃん)に「デュアルとドロシーを守るにはどうすればいいのか」と尋ねている。
「お母さんに聞いてごらん」とスミレは答え、続けてリモは母・ダイアナと対話し「守りたい人たちがいる」と告げる。おそらく単に会話して「強制フォーマットを止めて」と言ってもmotherは答えなかっただろうが、motherに込められたダイアナの意志が、リモは1人じゃない事を知りその方法を与えるのだ。

また、第0階層に来た時に「私に名前なんてない」とデュアルとドロシーには告げていたものの、このスミレとの会話の際にそうではない事を知り、ダイアナから「リモーネ」と呼ばれ彼女の真の名前が明かされる事となる。
物語冒頭で「ばぁば」のスミレから「リモ」と呼ばれているので「リモ」という名前は「リモーネ」の省略なのだろうと考えられるが、「マザー・リモート」の「リモ」とのダブルミーニングかもしれない。
もっとも、「リモーネ」のスペルはおそらく「Limone(イタリア語でレモンの意)」、「リモート」は「Remote」なので、英語的に言えば全く別の発音の言葉であり、その憶測はかなり怪しいと言えるが。