「ウォールフラワー」という青春映画が評判だ。
僕が司会を務めるWOWOWぷらすとでの年間ベストにもチャートイン。
オトメのハートを持つぷらすと映画部のみんなの支持を集めた。
ウォール=壁
フラワー=花
壁にもたれた花とは、パーティーの中に入ることもできず、ただ壁にもたれ、シニカル気取り、
息をひそめて学園生活をやりすごすこと。
吉本を選んだのは、高田文夫先生率いる東京芸人に異様に憧れていた僕にとって、それこそがカウンターだと思ったからだ。
自意識の塊だった僕は大好きな浅草キッドさんやフォークダンスDE成子坂さんや
海砂利水魚さんのライブに通いながら、ここに入ったら終わりだなと思ったのだ。
(結果、吉本に入って極楽とんぼという衝撃に出会い、打ち負かされ、一生賭けて目標になる存在ができたのだけど)
その人になりたかったら、その人を否定するしかない。そう思ってた。
芸人なんて眼中になかった。
中学生のころは毎日死にたかった。今の相棒の大地に出会って、そのかぶれは少し和らいだけど、高校生になると死にたい気持ちは具体性を帯びはじめた。生きてる意味が分からなかった。まいった。
そっちに入っては抜け出て、また入っては抜け出ながら生を延長した。
ビートたけしが浅草(芸人)を死に場所に選んだんだという話を思い出した。
お笑いライブを生で初めて観て、その手があったと思った。セックスするまでは死なないぞって思ってたけど、これで決まった。
死に場所として芸人だと思った。
2013年の新年を迎えるそのとき、その前日、僕らダイノジは岩手県宮古のライブハウス、
そしてカウントダウンを大船渡のライブハウスを選んだ。
そこを選んだ理由は何度も書いた。
宮古で初めてのジャイアンナイト。
地元の高校生は壁に張り付いたままだった。
それがクライマックス、うちの常連さんの踊る真ん中に飛び出てきた。
一歩踏み出した。
壁の花が一歩踏み出したのだ。
そのとき、芸人になったときを思い出した。
人前で道化をやる。
本当かよ。俺が?
ガキの頃は他人の家に入ることもできなかった。
目立つってことは、複雑な家庭環境や貧しさをいじられるときだった。
嫌だった。人の視線が嫌だった。
その俺が人前に出てお笑いをやるだなんて。
いつしかその道化は小さな自分の拠り所になった。
僕は一歩前に出ては、また壁にもたれかかった。
20年芸人をやった。
水道橋博士さんは何年だろう?
僕の大学の先輩でもある博士さん。明治大学を選んだのは僕と一緒でビートたけしさんに憧れてたからだろう。
僕は卒業したけど、水道橋博士さんは中退し、たけしさんの弟子入りというイニシエーションを選んだ。
明治大学で観た、浅草キッドさんの60分近い漫才は、お世辞抜きで腹がよじれるほど面白くて泣いて笑った。
笑いをとる芸人はかっこいいなと思った。
2013年、そんな博士にトークの相手に指名された。
僕はオールナイトニッポンのパーソナリティーになっていた。
僕は僕なりに笑われることを覚悟で一歩踏み出した。
僕は今年、壁にもたれないようにひたすら忙しく、慌ただしく、喋りつづけた。
俯瞰で見るんでなく、笑われる場所、痛くて寒い場所に身を置いて、ただひたすら汗をかいた。
壁の花は鼻で笑われてた。失笑されていたことだろう。
僕はそれでいいと思った。
片思いでいいんだと思った。
気に入られなくてもいい。
ただ僕の熱量は異常なほど熱くなっていった。
もうそこに未練はなかった。
僕はからっぽの男だ。
東京芸人のエッセンスなんて実はない。
そもそもからっぽだ。
サブカルでもない。
映画「モテキ」の主人公がうらやましいって思うくらい、
そっち側でもあっち側でもない。
完全に浮きに浮きまくってる。
でも、思う。
どうでもいい。
いや、本当にどうでもいい。
こっちが好きなだけでいい。
片思いってのがあったなと思った。
よしもとでももう逃げ場はいらなくなった。
嫌われても浮きまくっても結構。
でも正しいことをやる。
ここでいう正しいとはそのときそのときで自分が思った通りにやるってことだ。
そしたら逆になぜか味方が増えた。
なんでか面白がって近寄ってくる人が増えた。
壁で傍観して、自分だってセンスあるんだって嘯くより、
そこはなんだか面白い匂いがした。
いいんじゃないの!
ひょんなことから明日の幕張でのカウントダウンで
水道橋博士さんがダンサーで踊ることになった。
毎日のように懸命に愚直に練習を重ねる博士の不格好さに泣けた。
しびれた。
どうかしてる?
熱量は伝染していく。
僕があなたの歌なんです、歌詞を覚えて歌ってくださいと言った曲。
その歌詞を書いたメモを観ながら練習してた写真がついたつぶやきを、
その歌の作者であるマキシマム ザ ホルモンの亮さんがリプしてきた。
2013年、僕の脳みそを貫いて頭蓋骨から僕の胸に届きまくった傑作。
博士の異常な熱量は半笑いと懐疑の視点に包まれながら徐々に徐々に伝染していってる。
面白いじゃないか。
全部面白いじゃないか。
その姿はまさに壁の花が一歩踏み出していくさまだった。
元祖文系芸人が身体を動かし笑われにいく。
そこには多くのズレが生じ、笑いが生じる。
好きさえ徹底すれば滑稽になる瞬間がある。
僕が尊敬する東野幸治さんに、”ボス”だの”熱”だのをいじってもらえたように。
映画「ウォールフラワー」の主人公は息をひそめながら暗黒の高校生活をやり過ごしていた。
そこであったある出会いから彼は一歩を踏み出すのだ。
ぶるぶると震えながら、生の息吹を感じるのその場所へ足を踏み出すのだ。
変わりたくないか?君も変わりたくないか?
漫画家の花くまゆうさく先生は今年の傑作映画の共通項はどの映画も
一歩踏み出すっていうことがテーマだと言った。
僕は2013年一歩だけ踏み出した。
その歩みはのろのろだけど、
確実に僕の世界を変えたと思う。
次はあなたの番だ。
2013年の最後は幕張のその場所で壁からあなたが一歩踏み出す番だ。
その先には汗ダラダラでみっともないダンスを踊る”芸人”がいることだろう。
そう、俺らの死に場所はここなんだ。
地獄へようこそ。ここは元から地獄だ。
そこだけが悲しい記憶に勝つ。
俺ら今日勝つのだ。
不良芸人を読んでくれている読者の皆さんへ
よいお年を。
では、地獄へ行ってきます。
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