大学初めての夏は確実に近付き、あっという間にやってきた。

奨学金の生活に困り、バイトをし始める事にした。


一年生は意外にお金が必要なものだ。
バンドリハーサルのスタジオ代やら…食費やら…なんだかんだて底をつきはじめる。


バイトなんてしたことないしー…
近場でいいやー。

…と思い、バイト雑誌を開く。
近くで…できればまかないつきの飲食店。

ここだー。
と面接したのはホントに近くの焼肉屋。

面接では落ちる気がしない!が私の強味。
もっちろん採用。


次の日から出勤だか…覚える事多くて…

初出勤の日の帰りにその店に置いてある求人情報誌を持って帰ったのは、のちにバイトの伝説になりました。


夏の始まり。本格的な恋の始まり。

夏のイベントで私がコーラスでタマピーとバンドが一緒になった。

彼はドラムで参加。


彼はジャズ研と掛け持ちしていた。

六月、
トミーと一緒にジャズ研の定期演奏会に行った時に彼はピアノも弾けるんだと知った。

そこに彼の彼女も来ていたんだとのちに知った。



七月、私はドラムの彼とバンドのリハーサルに入っていた。


コーラスは思ったより難しい。

コーラスは一個上の先輩と同じ歳の女の子:カオリだった。


同じ時期にアマチュアバンドのコンテストにでることになり忙しくすごした。

そのときにもタマピーは私を支えてくれた。

コーラスで音を取れない私に特訓してくれたりしていた。


七月の終わり、近くの川で大きな花火大会があった。

その日はバンド練習の終夜練習。夜0時~朝六時まで。


花火にトミーと一緒に行き、練習に向かうことにした。

トミーは好きだけど、タマピーが気になって仕方なかった。

タマピーは練習前に彼女とデートだと言っていた。

花火に集中できなかったのを覚えている。

早く会いたかった。


時間になり、タマピーに車で途中で拾ってもらった。


「彼女と楽しかった?」

「うん。ご飯食ってきた。花火楽しかった?」

「うん、楽しかった。」


そんな普通の会話。

二人はさぐりさぐりだったと今は思う。

車にコーラス陣をそろえて、練習前にコーラス特訓を受けた。

私は一緒に入れるだけでうれしかった。



八月頭、ライブ。必死にやったけど、失敗しまくりで・・・・後半泣きたかった。

その日はタマピーの彼女が来ていた。


泣きそうで耐えていた。

ライブが終わり、片づけが始まるときにステージ上のタマピーの視線を追っていると、口がパクパクしていた。


(カエル?)


と言ったように見えて、その先をみると女性がいた。

彼女だ。

私が彼女にあったのは今日まででこれが最初で最後になる。


どうしたらよいかわからなくなった。



打ち上げに向かうとそこにはタマピーがいた。

彼女を送って一緒に帰ったのだと思っていたからうれしかった。


酔っ払いながらたくさん話した。

悔しかったことも話した。

少しなみだ目になって・・・・

そんな私のほっぺに小さくキスしてくれた。


誰も見てない。秘密のしぐさ。


「写真とって」

と、向かいに座っていた同期にカメラを渡した。


カシャ。


初めてのツーショット写真。

今見ても、二人とも若い。

お気に入りの写真になった。


トミーがそれを気にしていたのか、一緒に帰ろうと誘ってきた。


トミーとタマピーと三人で電車に乗り込む。

タマピーは実家へ。

私はちょうど母が家に来ていたので、トミーとその夜を過ごさずにすんだ。

ほっとした。


気持ちがとまらなくなるのを感じていた。

タマピーとのバンドリハーサルは凄く厳しかった。

コーラスなんて慣れてなくて回りに合わせるのに四苦八苦。


夜通しのバンドリハーサルの後にさらに特訓なんてざらだった。

でも私は嬉しかった。一緒にいられるから。



彼女がいる人を好きになると辛い。

でも優しいタマピーに小さな可能性を感じていた。

私はタマピーの心を探った。


ある日、タマピーは車で学校へ来ていた。

メールをした。


『タマピーに会いたいよー』

かわいい一年生の戯言だ。

『おー☆今、学校。車だからドライブでもすっかー?』

早い&嬉しい返信。

待ち合わせて車に乗り込んだ。


運転席のタマピーはかなりかっこよかった。元々ジャニーズ系の顔だか、さらにかっこよく感じた。

あてもなく車は走った。一度は家の前に止まったが、私が降りなかった。

タマピーの心が知りたかった。


そのうち、自分がどうしたいのか定まらなくなる。
気持ちを伝える事が全てよいとは限らない。


悩んでいると車が再び走り出した。


山をどんどん登っていく。


「どこいくの?」

「いいとこ♪」


着いたのはフェンスの前。


「のぼれるか?」


ほえぇぇ・・・・・これを越えても草むらなんだけど・・・


「うん。大丈夫。こういうの得意www」


といってフェンスをよじ登り、草むらを書き分けると・・・


そこは小高い丘だった。


街を一望できて夕日でかわがキラキラ光っていた。


「ここはね、耳すまの丘だよ。」


耳すま・・・・・ジブリの耳をすませばのこと。


ラストシーンの丘。


初めてなのに懐かしくて不思議な気持ちになった。


自分が何のために東京に来たのか、この先どうなっていくのか・・・・実家に帰りたくなった。

あるべきところへ・・・・・・。


タマピーの肩で泣いた。

彼はいいこいいこでしくれた。


耳すまの丘には耳すまノートがあった。


「いよいよ今日だね。」

と書いてあった。


私たちの前に来た人だろうか?

今日?

よくわからなかった。


彼のバイトの時間があったので帰ることにした。


帰りの車の中で

「彼女はどういう人なの?」

と勇気を振り絞って聞いた。


「大きい人だよ。彼女しか俺には付き合えない。」


どんな言葉よりショックだったのを覚えている。

彼女しか俺には付き合えない。

でも少し悲しそうな顔をした。

助けてほしいの?????


よくわからなかった。


車をおり、家に帰ると泣いたせいか疲れて眠ってしまった。テレビをつけたまま・・・・。


「雫ー!!!」


そんな声でふわぁぁっとメが覚めるとテレビでは耳すまがやっていた。

びっくりした。


こんな奇跡あるんだ。


私はバイト中の彼にメールしてその喜びを伝えた。

幸せな奇跡だった。


素敵な恋心・・・・・・だと信じた。

新入生歓迎ライブで仲良くなった同期のベース:トミーとギタリストのジョー。

彼らとは仲良くなってその後のイベントでもよくバンドを組むようになった。


トミーとは特に気があって一緒にいることが多くなった。

溜まり場でも「付き合ってんの?」と聞かれることがおおいほど。

入学して1ヶ月、そのころから彼氏とは連絡を取らなくなっていた。

一緒に上京してからわずかな時間なのに、私って軽いなぁと思った。


トミーとジョーはよく家に泊まっていた。朝起きてまずするのは楽器を弾くことという二人は

本当に寝て起きて楽器をひくという私の周りにいないタイプだった。


私はトミーに恋していた。けれど、付き合いたいとは思わなかった。

彼氏もいて、それを裏切ってトミーと付き合う・・・・・・という考えはなかった。

好きだけど、付き合う相手ではないって単なる感覚なんだけど、そういうのあるよね?



夏のイベントで私たちはバンドを一緒に組んだ。

そして、また私は先輩に誘われて「いいこいいこしてくれる先輩」がいるバンドにもコーラスで参加した。


そこでようやく覚えた先輩の名前。

玉木先輩。ちっちゃくてぴょんぴょんしてる先輩。おもちゃみたかった。

タマピーと呼ぶようになった。


トミーとジョーとタマピーもまた仲良く家にいた。

三人で家で女装したりとかもしてた。


今思えば、タマピーが引っかかっていたから、トミーとは付き合えなかったのかもしれない。

でも、どっちにしろ心は彼氏にはもうなかった。

彼氏には高校一年から二年半、付き合っていた彼女がいた。

私と彼氏は小六の時に出会い、いつも思いは一方通行だった。

私が彼を見ていたころは、彼には彼女がいて、彼が私を見ていたころには、私に彼氏がいた。

そうやって食い違ってきた気持ちが高3のとき、やっと合致した。

彼は当時の彼女と別れて私を選んでくれた。

誰かの恋愛が成就するときには必ず誰かの涙を伴うのだとそのとき思った記憶がある。


彼氏と別れた。

「おまえが幸せならいい」

とだけ、いってくれた。出来た19歳だ。


中学・高校と私は二股をかけられていても全く気づかなかった。

そのころから私は

「約束は信じない、叶わないから。人は信じない、裏切られるから」と思っていた。


トミーとは付き合うことはなかったがダラダラと一緒にいた。

けれど気づけば心の中はタマピーでいっぱいだった。

タマピーにもまた高校のときから5年も付き合っている彼女がいた。

タマピーへの気持ちを認めたら私は幸せにはなれない。


心がぐちゃぐちゃになっていた。

トミーはそれを察知しているようでもあった。


そんな中、ある日、トミーとタマピーが家に泊まっていったことがあった。

朝、トミーは授業のため先に家を出た。

タマピーはバンド練習のギリギリまで寝ていた。

時間になったのでタマピーを起こして、玄関まで見送った。

扉を閉めて・・・・・・次の瞬間、また扉が開いた。

タマピーが少し悲しい顔をしていた。


「どうしたの?」

「今、未来の孤独を見た気がした。」

「え?」


・・・・・・・・・。


「ごめんね、大丈夫だよ。泊めてくれてありがとうね。」


「う、うん。」


扉が閉まる。

私は泣き崩れた。

寂しかった。ずっと寂しかった。

それが彼にはわかったのだろうか?

何が見えたかはわからない。くどき文句だったのかもしれない。

でも、これがきっかけでもなくそれ以上でもなく・・・・・・私は彼に気持ちを向けていた。