実家へ帰ってからもずっと会いたい気持ちが強かった。
出来る限り連絡をとっていた。彼は当時、ファミレスで夜勤のバイトをしていた。
バイトが終わるのが夜中の3時だったり残業で5時になったり…

それから連絡していた。学生にしかできなりリズムだ。


ある日の電話で
『早く会いたい』
というと、

『新宿まで迎えにいくよ』
と言ってくれた。

私は夜行バスで東京へ向かうことを決めた。
今思えばあなたに会いたかったからいつも東京へ向かっていたな。

一週間ほどで東京へ戻った。


朝五時半、新宿に着いた。
彼は夜勤明けでそのまま来てくれた。


都庁の方を散歩した。

今思えばどこかを歩いたかはわかるけど、あの時の記憶はスモークがかってよく覚えていない。


幸せだった。
彼の地元に行って朝からドーナツを食べた。

ぽかぽか陽気もあいまって、彼はコーヒーを飲みながら寝てしまった。それを見ているだけで幸せだった。



残暑が厳しい中、季節は秋に向かっていく。

十一月の学祭にむけてのリハーサルが始まった。

今回は私が好きなアーティストをやろうと決めていた…だからといって、一年生から16人の大所帯バンドはやり過ぎたと今は思う…(笑)


アーティストはスピード。

スピードのライブを見て、ホーンセクションも入ってカッコイイと思っていて、是非やりたかった。

無知ながらどうやら上手い先輩達を選んでしまったようで…

みんなの予定があわなくて、かなり苦労した。

結局、朝7時~9時でというのがリハーサルの常になった。


みんな眠そう。
タマピーも家で休んでいく回数が増えた。


でも思えばここから私の浮気生活が始まる。
タマピーやトミー達はサークルの合宿へ行った。


私は外人の友達との日々を過ごし、夏の音楽フェスにもいき、満喫した。


そんな中、タマピーとは毎日メールや電話をした。

合宿は新潟だったので星が綺麗だという話をよくした。


時々寂しい声を出すタマピーの真意を探った。


九月一日、みんなは帰って来た。その日は私は夜行バスで実家に帰る予定だった。


みんなが乗るバスが遅れていたが、私は10分しかない空間にタマピーに会いに行った。


タマピーは少し痩せていた。


触りたかった、会いたかった、気持ちが込み上げた。


近くの神社により、話すことにした。サークルの人達の目から離れたかった。


仮にもタマピーは人の彼氏だから。


タマピーに言いたかった。
好きだと。
勇気や心配はいらないからと。


ただあなたが私を思ってくれる気持ちがあるなら…それだけでよかった。


でも何しろ時間はない。


何も言えず、静かに時間はながれ、突然私からキスした。



タマピーはびっくりした顔をして…

一言。

『溶けた』


と言った。



心が溶けた。


私はあなたを溶かしてあげられる。



バスの時間。

私は名残惜しさはなかった。
気持ちがすっきりして晴々していた。


私は実家へ帰り、トミーに電話でタマピーが好きな事、グダグタした関係を終わらせる事を伝えた。

お盆最終日から外国の友人が二人日本に来ることになった。

本当は共通の友人の家に泊まる予定だったが、彼女が一ヶ月中国へ留学するとのことで半月だけ二人は私の一人暮らしの家に泊まることになった。


帰国子女のトミーと浅草に詳しいジョーに頼んで一緒に浅草を回ったりした。

外人二人はたびたび帰ってこず、よく困った。


そんな中、タマピーとは毎日メールしていた。

会いたかったけど、あう理由がなかった。

思いついた・・・・。


「タマピー、今度の日曜暇ですか?海に落ちに行きませんか?」


とメールをした。

タマピーと海に行きたかった。

返信が来た。


「落ちる?どういうこと?」


「水着は要りません。その代わりに着替えとタオルは必要です。泳ぐんじゃなくて落ちるんです♪」


「なんかわかんないけど、おもしろそう♪了解!車はなんとかします!」


・・・・・お!やったー!!!!!


未来、デートの誘いに成功しましたぁぁぁぁぁ♪


るんるんでしたが・・・・・ほとんど家に泊まっていたトミーになんてうそをつこうか・・・・・悩んでいた。

結局、朝からバイトということにした。


きっとばれてたよね。


八月最後の日曜。

タマピーは寝坊して、家に迎えに来てくれた。

目的地は熱海方面。


途中でどこでもいいから海に落ちる・・・・私はそう思っていた。



途中で遊泳禁止の岩場があった。

そこで車をとめて、二人で岩場におりた。


小さい蟹がいたり、海苔で遊んだり楽しかった。

だいぶ前にメールでタマピーって呼ぶのを変えたいって話をしていて、

名前で呼びたいなぁと少し言っていた。


玉木裕貴。

今日こそ裕貴って呼ぶんだと思っていた。

そして・・・・・海に落としてやるんだと思っていた。ww


海辺で蟹を追いかけていた裕貴を呼んだ。


「裕貴」


振り返った彼をそのまま海に突き落とした。



つもりが・・・・・肩を抱かれた私は一緒に落ちていた。


裕貴に抱きしめられていた・・・・

泣けるくらいうれしかった。裕貴のにおい、ぬくもり、泣きたかった。

けど、二人ともびちゃびちゃのその状況の面白さにそのドキドキはぶっとんでした。


大爆笑。


予告どおり、海に落ちた私たちは車にビニール袋をしいて座り、立ち寄り温泉をめざした。

熱海でよいたちより温泉を見つけてさっぱり。

服も着替えて昼食をとった。


いろんな話をして、熱海の街を歩いた。あんまり何もなかったけど、楽しかった。

夕食もとり、車に戻った。

そうすると海岸で打ち上げ花火が始まった。


熱海の花火の日だったのだ。偶然。

私達はそれを車の中から見た。後ろのガラスから。


綺麗だった。

海、花火、全てかなった。


手を握った。肩に頭を寄せた。

けど、それ以上もそれ以下もなかった。

本当に薄い壁が私たちにはあった。


帰り、渋滞にはまってしまった。


裕貴、私の気持ちわかってるよね?

話の中で、そんな雰囲気になった。

私は気持ちを直接伝えることはなかった。けど、一緒にいて幸せなのはきっと私だけじゃないと思っていた。



「未来、ごめんな。多分・・・・・。俺にお前を受け入れる覚悟がないんだろうな」


何も言えず、黙ってしまった。

そんな覚悟いらないよ。私が裕貴を受け止めるよ。

そう思った。


予定より大幅に遅れて家の前に車がついた。

けど、降りたくなかった。


わがままをいって近くのファミレスで話し、また車に戻った。


我慢してたけど、泣いてしまった。

「覚悟なんてなくていいよ。一緒にいたい。」


それが精一杯だった。


夜が明け始め、車は家族から借りたものだったとかで、いったん、彼の実家に向かった。

車をおり、近くの公園で話し始めた。


遊具が結構あって、滑り台やら・・・・・・。

そんな中で、遊具に腰掛、話して・・・・・。

とっても近くで話した。


キスしたかった。

けど、彼には彼女がいる。わかっている。

顔を見つめて、・・・・時間が流れた。

そしたら彼が

「多分同じこと考えてるよ」

と言った。


「え?」


と言ったその瞬間。


チュッ


とっても軽くて何があったのかよくわかんなかった。

じわじわと・・・・幸せな気持ちがいっぱいになった。


好き。


もうとまらないよ。

とまらないよー!!!


家に帰ったら朝8時ころ。

トミーは待っていた。

バイトの人たちと朝までのんでいたと嘘ついた。

でも、もう気持ちは固まっていた。