IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 | B級パラダイス

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三連休ゆっくりしたなあ。

土曜は字幕版が観たくて福島までこれを観に行ってきた。

IT/イット THE END “それが見えたら、終わり。 (2019)

IT: CHAPTER TWO 


監督 : アンディ・ムスキエティ 製作 : バルバラ・ムスキエティ、ダン・リン、ロイ・リー 製作総指揮 : リチャード・ブレナー、デイヴ・ノイスタッター、ゲイリー・ドーベルマン、マーティ・ユーイング、セス・グレアム=スミス、デヴィッド・カッツェンバーグ 原作 : スティーヴン・キング 脚本 : ゲイリー・ドーベルマン 撮影 : チェコ・バレス プロダクションデザイン : ポール・デナム・オースタベリー 衣装デザイン : ルイス・セケイラ 編集 : ジェイソン・バランタイン 音楽 : ベンジャミン・ウォルフィッシュ


出演 : ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャステイン、ビル・ヘイダー、イザイア・ムスタファ、ジェイ・ライアン、ジェームズ・ランソン、アンディ・ビーン、ビル・スカルスガルド、ジェイデン・マーテル、ワイアット・オレフ、ジャック・ディラン・グレイザー、フィン・ウォルフハード、ソフィア・リリス、チョーズン・ジェイコブズ、ジェレミー・レイ・テイラー


あれはもう30年くらい前になるのか。スティーブン・キングの原作は文庫になってすぐ読んだ。分厚いのが全4巻。読み終えて少し泣いたのを覚えている。


キングの作品は初期の短編集から「キャリー」や「シャイニング」などいくつか読んだものの、「IT」が一番好きだった。もっともこれ以降はほとんど読んでいないのだけど()


元々キングはモダンホラーの旗手と呼ばれ、丹念な日常の描写の中に少しずつ不穏な空気を忍び込ませ、日常のすぐ裏側に「異なるもの」がいることを描写するのが新しかった。さらにその「異物」が、すでに当時は手垢にまみれた、かつて恐怖の対象だった幽霊や吸血鬼だったりしても、その存在に新たな魅力と説得力を加え、丹念な日常描写から登場人物の存在感も増して、彼らの恐怖や不安にこちらも容易に寄り添うことができたのだ。


余談だがキングの「シャイニング」を読むと、キューブリックの「シャイニング」は、映画としての凄さは認めるが、話の中の「登場人物の切なさ」がすっぽり抜け落ちていて、キングが「気に入らない」と言うのも肯けるのだ。


さて、そんな「IT」。当時から気にはなっていたがティム・カリーがペニーワイズを演じた90年のテレビドラマ版も観てなかった。

この頃からドナルド・マクドナルドをはじめピエロが苦手なのを自覚してたな()


そんなわけで2017年の一作目は初めて触れる映像化だったわけだ。

ありゃ、ちょうどブログ書いていない時期だったからレビューしてなかったな()


原作では過去と現在を行ったり来たりしていたのを、思い切って子供時代のみでまとめたのは、わかりやすくて良いなーと思いながらの前作は、ルーザーズクラブの面々がほんと愛おしくて。

彼らの不安、恐怖につけ込むペニーワイズに、子供たちが勇気を振り絞って戦う姿もさることながら、それぞれが辛い現実を抱えながら、絆が増していく様が微笑ましくもちょっと切なく「スタンド・バイ・ミー」のような青春映画の手触りを感じたものだ。またビル役のジェイデン・マーテルとビバリー役のソフィア・リリスの瑞々しさ(&そこはかとないエロティシズム)が良くて、原作を読んだ時の気持ちを思い出したものだった。

この1作目は静岡で観たのだが、鑑賞に付き合ったかみさんが「ビックリはするけど怖くなかったねえ」と言っていたのを思い出したぞ。

うん、それは今回も同様。


それが見えたら、終わり。」なんてサブタイトルはついているし、ペニーワイズは凶悪かつ不気味で、確かにひゃあひゃあ言いそうになる演出はある。「来るぞ」と分かっていてもバーン!となる演出にはやはり自分も含め場内「うわわ」となっていたけど、予算がかかっているショック描写や、何より犠牲者も多いから「ホラー」であることは間違い無い。

かつての子供達との対決を楽しみに、27年後に復活、「帰ってこい」という1作目以上に禍々しいペニーワイズ。

変な婆さんの動きなど、ところどころユーモアも差し込みながら、再会場面のフォーチューンクッキーや、遊星からの物体Xかよ!的クリーチャーなどショック場面も飽きさせない。


だが、この続編にして完結編も、1作目同様、“ルーザーズクラブ”の面々の「絆」の物語だった。


再び現われたたペニーワイズに立ち向かうべく再結集した大人になったルーザーズ・クラブの仲間たち。

ペニーワイズに引導を渡すためのそれぞれの「思い出の品探し」=「過去の恐怖の克服」があるから、前作より過去と現在が交錯して原作に近い感触があるのも好み。

当然尺は長くなるけど、それを持ち寄ることでかつての絆をどんどん思い出すところなど、掃いて捨てるほどある盆百のホラー映画と「キング原作」印との違いなんだろうなあ。


「彼らが大人になったらこうなる」に、なんの違和感もない、ジェームズ・マカヴォイをはじめとするキャスティングには拍手。若干一名劇的変化がいるが、こういうことは実際にあるからねえ(笑)。こうした違和感のないキャスティングへのこだわり、日本映画も見習って欲しいぞ。


「過去との対決」で、改めて彼らが幸せな子供時代を送っていなかったことを思い出すが、大人になった今も尚、問題がある連中ばかり。そう言えば誰一人「子供」がいないんだよね。彼らの「子供時代」に決着がついていないが故にってことなんだろな。


ホラー的要素を含んでいるが、やはり本作は原作通り、子供時代のトラウマを乗り越え、仲間と共にペニーワイズとの対決を経て本当の大人へと成長していくドラマと言える。

ああ、そうだ。いじめられっ子だった皆が人を嘲り笑わせる「クラウン」であるペニーワイズを「笑われる」方の「ピエロ!」と罵っていじめるのは痛快だったぞ()

ビルの救えなかった弟への想い。街に戻って吃音症も戻ってしまったビルが、かつて自分が乗っていた自転車を見つけて購入(余談だが、キング御大のカメオ出演も楽しかった)、かつての感触を思い出しながら街を走るシーンの開放感。

大人になってもDVから逃れられないある意味一番過去が重いべバリーの、心の拠り所だった「詩」の存在と未来への選択。(原作のようにDV旦那が追っ掛けて来なくてほんと良かった()

そのべバリーへの秘めた恋心を持ったまま大人になった、内気なベンの決着。

子供の時のまま変わらぬ眼鏡のリッチーと神経質なエディ2人の「らしさ」もいい。橋の横の木にリッチーが彫るイニシャルも泣ける。

一人街に残り、ずっと「その時」のために準備していたマイクの解放と旅立ち。

そして皆の元に駆けつけることのできなかったスタンリー。彼が残した、仲間の絆を深める秘密基地で見つかる物とラストの2つの「置き土産」が泣けるのだ。


原作と違うところはいっぱいある。何より「町自体がペニーワイズに囚われている」描写が少ないが故に大崩壊にはならなかったがこれは自分としては全く問題なし。

かつての子供時代を50年代から85年にしたのも、こちらも思い入れが寄り添い易くて大正解。

「シャイニング」や「メグ・ライアン」「エルム街の悪夢5」など、原作ばりにオリジナルオマージュもいっぱい2時間50分。俺には決して長くはなかったな。


原作を知らなくても映画好きなら楽しめること請け合い、何より「怖くないホラー」であり、過ぎ去った日々を思い出すような切ない物語であることも太鼓判を押しておく。

できれば、もし観ていないようなら1作目も観て、鑑賞前にはトイレに寄ってからご覧になることをお勧めします(笑)。