砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード | B級パラダイス

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本当は昨日到着して楽しむはずだったマカロニウエスタンDVD-BOX、なんと到着したのが注文したのと違うもので、ガッカリしながらオークション元に再発送依頼及び返送したりと予定が狂った昨日。「キングダム」も観てきたけど、金曜夜観たこいつをレビュー。

砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード1970 The Ballad of Cable Hogue


監督 : 製作: サム・ペキンパー    製作 : ウィリアム・ファラーラ   製作総指揮 : フィル・フェルドマン   脚本 : ジョン・クロフォード、エドマンド・ペニー    撮影ルシアン・バラード    編集 : ルイス・ロンバルト、フランク・サンティッロ   音楽 : ジェリーゴールドスミス

出演 :ジェーソン・ロバーズ、ステラ・スティーヴンス、デイヴィッド・ワーナー、ストローザー・マーチン、LQ・ジョーンズ、スリム、ピケンズ、マックス・エヴァンス、ピーター・ホイットニー、RG・アームストロング


俺の好きな映画ベスト10から30年以上外れたことがない「ワイルドバンチ」。その次がこれだもんな。ペキンパー懐が深いわ。


ペキンパーと言えばその「ワイルドバンチ」やその後の数々の映画でも魅せた「死の舞踏」と呼ばれる血糊を飛び散らせながら、のけぞり倒れる様をスローモーションでとらえるショットが有名だが、この作品ではそもそも双方が撃ち合う「銃撃戦」さえ皆無だ。


砂漠の真ん中で仲間に裏切られ、水も奪われ置き去りにされたケーブル・ホーグ。復讐を胸に砂漠を彷徨い、もはやこれまでいう時に奇跡的に水を掘り当てる。そこが隣町との60キロある駅馬車の街道の中間点であることに目をつけた彼は、その「水」を元手に、休憩所を作り、いつか出逢うであろう、自分を置き去りにした2人組への「復讐」の時をひたすら「待つ」。


復讐のためにに「流れ者」になる作品は数あれど、そこに居座って相手を待つなんて。公開時の邦題、偽りありだ(笑)。

公開時のポスターも、数少ない銃を構える姿をモチーフに「アクション作」と謳っているのも、この地味な作品を売るための苦労の跡がうかがえるくらい、アクションとは程遠い作品だ。


その代わりに漂うのはユーモアに彩られた、消えゆく「西部」への詩情。そして、ペキンパーのどの作品にも貫かれた「ある男の生きる姿」だ。


アクションが好きなので、所謂正統的なアメリカの西部劇より、悪人や賞金稼ぎが跋扈するイタリア製西部劇のマカロニ・ウエスタンが好みの自分だが、ペキンパーのウエスタンは別だ。

去りゆく者の、滅びの美学にいつも胸が熱くなってしまうのだが、この作品は更に一味違う。


砂漠のど真ん中のケーブルの泉には、インチキ臭い牧師ジョシュアが現れ意気投合したり、町で出会った気のいい娼婦ヒルディーも転がり込んで一緒に暮らし始めたりと、復讐のことなどこちらも忘れるくらいの、のんびりペース。2人との絡みなんてもうコメディのような可笑しさなのだ。

スローモーションのハードな銃撃戦ではなく、早回しでコミカルなシーンを演出してくるなんてなあ。正に一本取られたって感じ(笑)。


学もなく紳士的でもない、決して善人でもないが、悪人でもないケーブル・ホーグ。

そんな表も裏もない、人間臭い(実際砂漠暮らしで臭い(笑))ケーブルに、皆が何か惹かれてしまう様も納得がいく。


特筆すべきは娼婦ヒルディ演じるステラ・スティーブンスの可愛さ!

もう身悶えしてしまうくらい(笑)。決して名女優ではないが、この作品ではステラのキュートさが炸裂している。

俺の中では「ある日どこかで」のジェーン・セイモアの美しさと同じく「B級女優(失礼)一世一代の魅力」の双璧なのだ。

彼女の姿を見るだけでもDVD購入の意味はあったと強く思う。その後「ポセイドン・アドベンチャー」で、アーネスト・ボーグナインの妻(元売春婦!)やってたあの女優って言ったらわかってくれるかな?(笑)


そんなケーブルとヒルディーのラブストーリーとも言えるこの地味な作品、ペキンパー自身が最高作と言っているようだ。


この後、70年代前半は「わらの犬」、「ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦」や「ゲッタウェイ」、「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」とヴァイオレンスに彩られたり、詩情豊かだったりの男たちの姿を描くペキンパーの快進撃が続き、大傑作「ガルシアの首」に繋がるのだが、改めて観ると、この「一人の男の生きる姿」(「生き様」って言葉が嫌いだから敢えて(笑))の原点のような一本だった気がする。


前述のステラの素晴らしさに、オーメンで首チョンパされてたデヴィッド・ワーナーの怪しい牧師も最高。

思えばストローザー・マーチン、LQ・ジョーンズ、スリム、ピケンズ、RG・アームストロングなど、ペキンパー映画の常連というか、西部劇でしか見たことない顔が勢揃いして、そんな意味でも愛すべき一品なのである。


「復讐」を遂げ「時代」に負けるケーブル。でも観ているこちらも思わず微笑んでしまうようなラスト。俺も最期はあんなのがいいなあ。としみじみ思える傑作。

地味だけど、見かけたら是非。損はさせません。特におっさんには(笑)