ウォッチメン | B級パラダイス

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健康優良不良中年が、映画、音楽、読書他好きなことを気まぐれに狭く深くいい加減に語り倒すブログであります。

昨日購入した「映画秘宝」の表紙も「デッドプール」、マーベルの「シビル・ウォー」関連作品も楽しみだし、もうじき「バットマンVSスーパーマン」も公開だし・・・と、思えば「アメコミ映画」もすっかり1ジャンルになったものだ。
 80年代後半に発表された人気グラフィック・ノベルを映画化した本作。以前中古屋で安く買ったのだが162分という長尺に驚いて手が出ずにいたのだが、ようやく鑑賞。
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ウォッチメン (2009) WATCHMEN
監督:ザック・スナイダー 製作:ローレンス・ゴードン、ロイド・レヴィン、デボラ・スナイダー 製作総指揮:ハーバート・W・ゲインズ、トーマス・タル 原作:デイヴ・ギボンズ(画) 脚本:デヴィッド・ヘイター、アレックス・ツェー 撮影:ラリー・フォン 編集:ウィリアム・ホイ 音楽:タイラー・ベイツ
出演:マリン・アッカーマン、ビリー・クラダップ、マシュー・グード、カーラ・グギーノ、ジャッキー・アール・ヘイリー、ジェフリー・ディーン・モーガン、パトリック・ウィルソン、スティーヴン・マクハティ、マット・フルーワー、ローラ・メネル、ロブ・ラベル、ゲイリー・ヒューストン、ジェームズ・マイケル・コナー、ロバート・ウィスデン

いやあ、良い意味で、思っていたのと全然違う映画だった(笑)。時は80年代後半。ニクソンが3選を果たし未だに大統領でいるという並行世界のお話。1930年代に結成されたヒーロー達の集団「ミニッツメン」 。その後メンバーはレズの女性ヒーローは存在を快く思わない何者かに殺されたり、犯罪者に報復されたり、精神病院へ収容されたり、引退したりと、ある意味生々しい最期を遂げているのだが、その後も第二世代の「スーパーヒーロー」達が新たな組織「ウォッチメン(監視者)」としてベトナム戦争、キューバ危機、ジョン・F・ケネディ暗殺事件とアメリカ近代史に関わっていく様を、ボブ・ディランの「時代は変わる」をバックに紹介するオープニングが秀逸でぐぐっと引き込まれた。

アメリカ政府は「ウォッチメン」たちを政治の道具として利用した揚句、1980年代までに、ニクソンはヒーロー達に自警団行為を禁止する条例を制定し、彼らの存在は非合法化されてしまっている。その頃、合衆国とソビエト連邦間の冷戦は続き、互いの核攻撃寸前のレベルまで緊張が高まっていた。

そんな背景の中、映画の冒頭に「ミニッツマン」からの生き残りのヒーロー「コメディアン」が何者かに殺される。彼の死を「ヒーロー狩り」だと睨んだ顔の無い男ロールシャッハ(彼は引退することを拒み非合法に活動を続けている)が捜査をしながら、かつての仲間たち、すなわち引退して穏やかな生活をしているダニエル・ドライバーグ(ナイトオウルⅡ世)、自らヒーローであったことを公表し、今は企業を経営しているエイドリアン・ヴェイト(オジマンディス)、そして政府の傘下に入った、もはや人間とは言えない神に近い能力を持つジョン・オスターマン博士(Dr.マンハッタン)、その恋人であるローリー・ジュピター(シルク・スペクターⅡ世)に警告を発し始めるのだが・・・。

とまあ、話はミステリ仕立てで、画面も含め暗いことこの上ない。まるで先日観たシン・シティmeetsアベンジャーズ的な雰囲気なのだ。震えるほど興奮した「ダークナイト」のように、あくまで「人間」であるヒーローたちが、陰謀の謎解きと核戦争回避のために動き、各々の「正義」のあり方で対立するラストまで、長尺を感じさせない面白さだった。

絵空事ではあるのだが、前述のアメリカ近代史に関わる様(アンディ・ウォーホールの作品のモチーフになるカットまである)が説明されているが故に、リアルに感じられるのがいい。
彼らが関わることでベトナム戦争に勝利するも、コメディアンがベトナムの女性を孕ませ殺すと言うヒーローにあるまじき行為と、戦争での「殺し」が「国の大義」であることと比較して見せたり、少女を殺した犯人を捕まえて警察に渡すこともできるのに、憎しみの余り殺してしまうロールシャッハの姿など、一筋縄ではいかない「ヒーロー」とその「正義」を示したエピソードがどれも重く、暗いのがいい。

多くの犠牲の元に回避される核戦争。その「陰謀の上になりたった平和」の危うさ。あくまで己の正義を貫こうとするそれぞれのヒーロー。正直知っている俳優がほとんどいないのも俺にとっては良かったが、特に懐かしやジャッキー・アール・ヘイリーが、暗く沈んだ声で語るロールシャッハを演じていて、そのハードボイルドな立ち位置に嬉しくなってしまった。

ロールシャッハ絡みのバイオレンスシーンから、青く光るDr.マンハッタンが股間ブラブラしているのがありゃまあだったり(笑)、ヒーロー間でのレイプ未遂やらセックスシーンまで、とてもお子様には見せられないヒーロー物ってのも思い切りが良くていいやね。

と言う訳でアメコミ、やはり侮れず!の1本。日本でも「原作通り」ならいくらでもこのレベルの話があり、アニメでは良いのも多いのに、頑張って実写にするとトホホな話になっちゃうのが多いのが悲しく辛いなあ。