十三人の刺客 | B級パラダイス

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十三人の刺客(2010)
監督:三池崇史 原作(オリジナル脚本):池宮彰一郎 脚本:天願大介
撮影:北信康 美術:林田裕至 編集:山下健治 音楽:遠藤浩二
出演:役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、高岡蒼甫、六角精児、波岡一喜、
石垣佑磨、近藤公園、窪田正孝、伊原剛志、松方弘樹
吹石一恵、谷村美月、斎藤工、阿部進之介、内野聖陽、光石研、岸部一徳、
平幹二朗、松本幸四郎、稲垣吾郎、市村正親

いつものように「おお!男気映画じゃ!」と騒ぎたいところだが
この映画期待に違わず「『映画』を観た!」というずっしりとした重量級の満足度が支配した1本だった。

リメイク元であるオリジナルはビデオで以前観て、かなりお気に入りの作品だった。
以前から好きな工藤栄一監督の画作りに加え、個人的に大好物の「集団戦」モノであることや
当時の様式的なチャンバラから脱却したという、喚き腰が引けたまま本当に怖さを感じる「斬り合い」、
島田新左衛門(片岡知恵蔵)と鬼頭半兵衛(内田良平)の頭脳戦にワクワクしたものだった。
ただ、ストーリー自体はどうしても黒澤の「七人の侍」の個性豊かな面々が揃う導入部の楽しさと
乱戦の豪快さ、わかりやすさと同じものを求めた時点で消化不良は否めなかった。
特に13人の刺客たちが誰が誰だか区別がつく前に(未だに良くわかってない(笑))
大混戦になってしまうことには不満があったのを覚えている。
ただ剣豪平山(西村晃)の無様とも言える死に様と、ラストの敵侍の狂ったような笑い声には
カタルシスとは程遠い何とも冷え冷えとしたものを感じたもので、そこがまた魅力ではあったのだが。

そして今回のリメイクだ。話の大筋は原作である1964年版と同じだ。
将軍の弟である明石藩主・松平斉韶。この暴君の悪政を公儀に訴え切腹する明石藩江戸家老間宮図書。
ところがこの斉韶がその残虐な行いの咎めを受けるどころか、幕府の老中に内定していることを受け、
幕府老中・土井大炊頭は腹心の島田新左衛門に斉韶の暗殺を命じる。
新左衛門は御徒目付組頭、倉永左平太を参謀に、これぞという部下たちを刺客として秘密裡に集める。
これに新左衛門の人柄に惹かれた剣豪平山九十郎や新左衛門の甥 島田新六郎らも加わる。
新左衛門たちは斉韶が参勤交代で帰藩する途上間が唯一の機会と、暗殺に向け周到に準備を進めるが
若いころから新左衛門の好敵手でもあった明石藩御用人鬼頭半兵衛がこれに気づく。
天下万民のため、松平斉韶を討つことこそが命がけの務めと決めた島田新左衛門ら刺客たち。
どんな暴君でも主君は主君。その主君斉韶を守ることこそ侍の務めと定める鬼頭半兵衛。
侍が刀をいて斬り合うことさえ無くなっている太平の世に
(刺客側でも人を斬った経験があるのは平山くらいなのだ)、
男の、侍の矜持が激突する壮絶な戦い。13人対200人が中山道落合宿で繰り広げられる・・・

もうね、昨今のリメイクブームにはどうも冷たい視線を投げちゃう俺だけど
これはリメイクする意味合いがたっぷりある1本だと思った。

暴君斉韶を討つことの意義がこちら側にもグイグイ伝わる冒頭。これが前作より強いのだ。
後に重要な意味を持つ尾張藩士牧野靭負の娘夫婦の悲劇、切腹までした間宮図書の一家の末路、
そしてバイオレンス・ジャックのスラムキングを想い出す「人犬」にされた娘が
血の涙を流しながら訴える「みなごろし」の文字の怨みの強さ、おぞましさ。
可哀相を通り越して恐ろしさも覚えるこのあたりはまさに三池節だ。
あまりのことに呆れ怒る新左衛門のリアクションには、観ているこちらがドキリとさせられたよ。

必殺シリーズならここで小判5枚ってとこだが、これは公にはならずとも「侍組織内の粛清」なのだ。
新左衛門と同じ怒りをそのまま共有できるのは刺客たちではなく観ている我々だけで
集められた刺客たちはただ新左衛門の役目の大きさと覚悟に共感し、命を預ける。
応える新左衛門も、オリジナルでは報告を待つだけだった片岡知恵蔵と違って
最初から戦場のど真ん中で皆と共に鬼の形相で刀を振るうのだから刺客たちでなくとも納得だ。
「おまえたちより預かった命、使い捨てに致す!」と言い放つ新左衛門も凄まじいが
「お役目」のためという消極的な理由でなく、そこに自らの覚悟も決め、
死に場所を定めて勝ち目の薄い戦いに赴く面々が悲壮なまでにかっこいいのだ。

確かに13人を平等に描くのは厳しいがそれでも良いキャストが揃ってそれぞれが光っていた。
中でも伊原剛志!前作の西村晃に比べれば最後まで随分カッコ良いままだったが、
石まで使うその必死さに惚れたー。予備の抜き身の刀を何本も地面に刺して、
弟子(窪田正孝)に「我より後ろに行くものはすべて斬れ」なんていうとこなんざ鳥肌モン。
山田孝之はいつも顔の幅の広さが気になるのだが今回はさほどでもなく(笑)、
その存在感の無さが逆に良かったし、オリジナルでもあった「遅ければ次の盆に帰る」なんて
無茶苦茶カッコイイ台詞がちゃんと似合ってたのも◎だった。
それにつけても松方弘樹の殺陣は一味違う!とにかく決めの間がカッコ良かった!!
年季の入った流石の貫録だったなあ。一緒に行ったかみさんも感心しきりであった。

そう言えばオリジナルは東映だったのですっかりそのつもりだったがこのリメイク、東宝なんだよね。
松方がいるだけで東映かと思ってたのでなんか物凄く不思議だった(笑)。

13人目の刺客、伊勢谷友介はもうけ役。あのイケメン顔ですっとぼけた役回りでいい位置だった。
何より「山の民」と設定したのが正解。オリジナルの山城新五の地元郷士より
「侍」と距離の置き方がはっきりして、今回の暗殺の意味そのものを考えさせるのに効果的だった。
今回は彼が龍馬伝で高杉晋作役やっているのでお気に入りになった下の娘もついてきたんだが、
内容的には非常に大人っぽいところや、悪趣味スレスレの部分があってちょっとハラハラしたが、
まあ、俺が中学生の時はもっとヤバイのいっぱい見てたから良しとしよう(笑)。

オリジナルの内田良平とは違うが鬼頭半兵衛(市村正親)も凄く良かったし
松本幸四郎もさすがの存在感でもう大満足だったが、何といっても噂の稲垣吾朗!
確かに「こいつ、酷ぇ!」と万人を納得させる極悪非道の松平斉韶。それがハマってるから凄い。
なんていうか、「何も観てない眼」をするんだよね。あれだけ酷いことしておいて。
何も面白い事がないから自らわかって酷いことをしていたことが中盤からわかるのだが、まさに虚無。
オリジナルの菅貫太郎の狂気(これはこれで絶品)とはまた別の、
ある意味底知れぬ闇を垣間見せながら、共に哀しさもにじみ出ていて予想以上の好演だった。

オリジナルの面白さを損なわず、血みどろに彩られた今回のリメイク。
侍の生き方。いやさ、命を賭けることで本当の生を実感するかのように満足げに果てていく面々。
映画的な仕掛の面白さもさることながら、このいい顔の男たちの「必死さ」に惚れましたな。
大乱戦の長さに少々疲れるのと、火がついた牛と(笑)、山の民のラストに異議はあるけど
ずしりと手応えのある1本。「映画」を観たなあという気分に浸れ、大満足でありました!