薔薇十字社一味最高(笑):「百器徒然袋―雨」 | B級パラダイス

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昨日、京極夏彦「百器徒然袋―雨」を読了。

京極堂シリーズは文庫になってから読んでいるけど「姑獲女の夏」「魍魎の匣」「狂骨の夢」「鉄鼠の檻」まできて、「絡新婦の理」は購入済ながら、ますます厚くなるんで手がでてなかったりするんだが(苦笑)。

通勤の電車ではいつも読書してるけど、このシリーズ読みだすとカバンは膨らむし、座れないで立って読みたくても片手だと辛いしで、結構気合がいるのだよ。

とかなんとか言ってるうちに「塗仏の宴」まで文庫になっちゃうし「陰摩羅鬼の瑕」「邪魅の雫」と新刊でちゃってるしって、まあ本棚がまた狭くなるのを今から心配するぞ(笑)。

で、シリーズに出てくる探偵「榎木津礼二郎」を主人公に、スピンオフしたこの「百器徒然袋―雨」、これがまた短編集なのに・・・3話収録なのにまた厚いっ(笑)。3話を1話ずつ別冊にすりゃあいいのにとも思ったが、この厚みが「京極読んでるなあ」っていう醍醐味にもなってるのも確かだな(笑)

 

 

内容は本シリーズの「京極堂シリーズ」同様「妖怪」が各話のタイトルにもなっていて、事件のモチーフにもなっているけど、より軽く、殺伐としていないのがいいね。もちろん事件はあるし、人も死んでいたりはするんだが。
京極堂シリーズ読んだことがあれば今回の主人公「榎木津礼二郎」がどんな人物かご存知でしょうが、一応紹介すると・・・

    「元華族、財界の大物「榎木津グループ」会長の榎木津幹麿元子爵の御曹司にして、

    秀麗眉目の美男子、そして“他人の記憶が見える”ある意味超能力者であるのに、

    「悪は滅びて僕は栄える」「自分は神、他人は下僕」と思ってるような傍若無人ぶりの

       『推理をしない名探偵』」

・・・なのだ(笑)。

まあ、こんなのが脇にいる京極堂シリーズも相当に怪しいものの、本当に規格外の設定なのは彼だけで、実は妖怪はもちろん心霊・超能力・オカルトじみたことも出てこない妙なテイストの推理モノなんだけど(彼の決めゼリフ「世の中に不思議なことなど何一つないのだよ」が全てを言い尽くしてる)、この「百器徒然袋」は榎木津が主人公なだけに京極堂シリーズより長ーい薀蓄が控えめな分、ハチャメチャ度は増加(笑)。しかめっ面の京極堂も一緒に加担していくような展開になってるのが面白いんだな。榎木津の無茶苦茶な言動と、それをとりまく連中の会話が可笑しいことこの上ない。作者が「どすこい」を著してるのも良くわかる(笑)肩に力が入っていない愉快痛快事件簿ってとこでしょうか。

「京極シリーズ」が古本屋「京極堂」店主=中禅寺秋彦を「探偵役」にして、事件の謎を明かす推理の過程を楽しむものなら、これは謎解きは京極堂が相変わらずするものの、それは読み手に事件解決を納得させるだけで、物語としては事件そのもの(=首謀者である悪人)を探偵である榎木津が文字通り粉砕する痛快さを楽しむモノになってるのが最大の違いとも言えるんじゃないかな。

 

第1話で探偵への依頼者の「僕」が3話ともでてきて、彼の一人称で話が進むのも「京極堂シリーズ」との最大の違い。彼が実になんというか1話だけでなく、その後も事件に巻き込まれるのでもなく、ただ榎木津のみならず薔薇十字探偵社の一味が面白くて近づいたあげく、個性的な面々に戸惑い、当然役にも立たず、名前も覚えてもらえないままいいように使われるのが可笑しいし、なんか親近感覚えちゃう寸法。榎木津の傍若無人ぶりは更に磨きはかかるわ、助手のバカオロカ益田、和寅はもちろん、取り巻く京極堂、相変わらずオロオロしてる関口、ヤクザ真っ青の木場刑事や、今川、河原崎など過去の作品に出てきた脇役がまた魅力的で、「僕」のみならず、そーっと面々を近くで見てみたいって気持ち、よくわかるわー(笑)。
逆を言えばこの作品単独ではその面白さが半減してしまうってことにもなるかな。「京極堂シリーズ」をひとつでも読んだ後に読むことを勧めます。


しかしこの「一味」が悪い奴を粉砕するために仕掛ける様・・・これは別シリーズの「巷説百物語」の小悪党又市とその「一味」の仕掛けにも共通するもので・・・もっと言っちゃうと、ある意味必殺シリーズや七人の侍、サイボーグ009やルパン3世の「各メンバーが得意な役目で目的を果たす」風味が、「京極堂シリーズ」と別の手触りで俺の琴線にピピっと来た読後感でありました。

 

映画化された「姑獲女の夏」はまだ未見ながら、「榎木津」を阿部寛が演じたとのこと。これは「TRICK」の怪演思えばベストキャスティングじゃないかなー(笑)。