
森見 登美彦 著 きつねのはなし (新潮文庫)
ホラーというほど恐ろしくはないのだがひょいと置いてきぼりをくらわされたような
宙ぶらりんの居心地の悪さ・・・不安感がつきまとう怪談・・・いや、奇譚連作4編だ。
舞台は京都。それぞれ主人公は違うのだが
古道具屋「芳蓮堂」、得体のしれない「胴の長いケモノ」、水や龍のイメージ、幻灯機など
共通した存在が「きつねのはなし」「果実の中の竜」「魔」「水神」という4作に
関連したりしなかったりしながら登場して独特の世界を醸し出している。
先日の京都旅行以来、なんとなく地理や位置関係がイメージできた分だけ
物語の世界により浸れた気がするな(笑)。
歴史ある古き街だが、確実に現代の人々が生活する街。
各話の主人公によって淡々と、そして丁寧に語られる「京都」の日常生活。
その日常が少しだけ歪み、部屋の隅の暗がりが漆黒の闇に見える瞬間。
まっすぐだと思った路地がゆるやかに曲がり、下って別の世界につながっていたかのよう。
ショッキングなことは何もないのに、何故かいつしかうすら寒くなる感触。
そんな空気感が全体を覆っていて、直接的な怖さはほとんど語られないまま
言いようもない不安がじわりじわりと主人公とともにこちらを包んでくる。
表題作「きつねのはなし」で出てくる古道具屋「芳蓮堂」主人「ナツメ」さんの
儚げなそれでいて謎めいた存在感がエロティックだったように(・・・俺だけかも(笑))
なんとなく湿り気のあるエロティシズムをそこここに感じとれるのだが
まったく色っぽい話にはならず、女性たちもただ淡々と主人公の前を通り過ぎていく。
しんしんと忍び寄る冬の寒さ。じっとりとまつわりつく夏の湿り気が不快感を増幅させ
そして、謎解きも解決もないそれぞれの話の終結がこちらに想像力をかきたてさせてくれる。
ブログ書き始めた前後に読んだ「木島日記」に似た感じを持ったが
もっと日常的な分だけ、何とも言えない不安定さが尾を引く感じだった。
すっきりしない結末が、各話がファンタジーではなく今もまだ続いている「物語」に読めるのだ。
ホラーや不思議な話が好きな俺に「これは好きかもよ」と
ちょうど京都旅行の後、かみさんが勧めてくれた一冊だった。
本来、森見 登美彦の作品は他のものも京都が舞台らしい。
それもあるけど、もう少し追っかけてみたい作家を見つけた感じだ。
もっともその他の作品はユーモアだったりほのぼのだったりの作風で有名らしい。
『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル賞を、『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を
それぞれ受賞してるそうだが、自分はこの作品が初めて。
もしかしたら順番を間違えたかもしれないな(笑)
今後もチェックしてみます。