俺は健全だし生きている、そして自由だ「ミッドナイト・エクスプレス」 | 流浪の民の囁き

流浪の民の囁き

映画を通した過去・現在・未来について、なぐり書き

刑務所というところは、犯罪を犯した者がその犯罪の「重さ換算」について自由を
拘束し、自らの反省を促しまた被害の状況とかに対する「贖罪意識」をもって、犯罪
行為との等価を斟酌して、刑期となす場所という理解をしているが、その場所でも、
やたら人権を持ち出し、手続き上の優遇でもないだろうに、相当な「わがまま」と映る
受刑者の記事があった。

-------------------------------------------------------------------
仙台弁護士会は14日、男性受刑者が申し出た民事訴訟の抗告状発送にすぐに
対応しないなど、裁判を受ける権利を侵害しているとして、宮城刑務所(仙台市)に
文書で警告した。
同弁護士会によると、男性受刑者は昨年2月、自らが当事者である慰謝料請求訴訟が
仙台簡裁から徳島簡裁へ移送されることになった決定を受け、即時抗告を決意。
期限前日の午前8時ごろ、翌日必着と伝えて抗告状を出すよう申し出たが、刑務所側が
守らず、期限経過で即時抗告は却下されたという。
同年3月には、この受刑者が絡む仙台地裁での民事訴訟で、受刑者が決定に不満が
あったため期限2日前に抗告状の提出を申し出たが、刑務所側は期限2日後に発送。
また、所有が認められているはずの裁判関係書類の保管を制限するよう求められ、
従わなければ懲罰を科すと告げられたこともあったという。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090514/trl0905141644004-n1.htm
--------------------------------------------------------------------

こういった記事を見ると、日本の刑務所は「隔離された別荘」かと思えてきてしまう。
ここに弁護士という「人権商売」がはびこるから余計なのかもなのだが、その昔、環境劣悪
で無慈悲な刑務官に牛耳られたトルコの刑務所の実体の恐ろしさを映像にしたものがあった。
そんなものを見てしまうと、この記事の受刑者は「天国の住まい」に不満と映る。
その映画とは「ミッドナイト・エクスプレス」という実話を元にした映画である。


流浪の民の囁き-mid




「ミッドナイト・エクスプレス」 七十八年公開作

混沌とした中東情勢の七十年代、テロと麻薬が蔓延して国際社会から厳しい目で見られていた
トルコにおいて、ほんの出来心で「麻薬の配達人」を引き受けたアメリカ青年の悲惨な物語。
監督はアラン・パーカーで、心臓の鼓動が聞こえてきそうな緊迫感に充ちた映像は、最後の
最後まで見ていて気が抜けない作品だった。
とはいえ、最初は「麻薬の運び人」を選んだ青年の「軽さ」こそが原因であり、青年に感情移入
出来るものではなかった。
それが不条理極まりない獄中生活をしだしてから裁判を経て、それまで考えたこともなかった自
由への束縛と、何より人間としての尊厳を脅かす刑務官の醜悪な対応とかで、徐々に主人公の置
かれた立場へと感情移入して行くと、トルコの刑務所の異常な状態と、再び麻薬の厳罰化へ向か
う司法の転向で、三年程度の刑期があと少しで終わるという光が見え始めた時、下された新たな
司法判断が終身刑となって主人公は発狂し、告げ口の男によって連れ去られる同胞の様に、その
告げ口男をさんざに痛めつけ、最終的に舌を噛み切って死に至らしめてしまう。
ここら辺への作りに戦慄を覚えつつ、主人公の心臓がいつ止まるかとスクリーンから鼓動が聞こ
えてきそうな緊迫感が迫ってくる。
何より精神病棟に移ったあたりの表情は、正に狂人と化していて・・・。

流浪の民の囁き-mid grass

この映画の特に秀逸でショッキングなシーンは、面会に訪れる恋人とのガラス越しの対面で
ある。それまでのなぶられで狂気を身につけた男が、その性本能と愛情から恋人に脱ぐよう
に哀願し、恋人が胸をあらわにすると、自慰をおっぱじめる映像にはそのリアリティに震え
が来た。「性本能が男を正気にさせる」・・・、生き抜くことに掛ける男の執念は、金での
買収から一転思わぬ形で「自由への扉」が開いてしまう。
刑務官買収の金を用意して貰って・・・、その金を差し出す主人公を狡猾で非情な刑務官は
受け取りながら「男色」の餌食にしようと・・・、それを拒否する主人公の思い切りの抵抗
が刑務官を死に至らしめてしまう、逮捕前の男だったらそれに怯むだろうが、過酷な体験は
「自由の身」への欲望で死んでしまった刑務官の制服を着込み、隠語の「ミッドナイト・エ
クスプレス」脱獄を敢行する。そして・・・。映画はこの脱出までを描いて終る。
実話はこの後、ギリシャへ渡り、そこからアメリカ本国へと帰りつき、そしてその体験を小
説にしたためた・・・。映画はフィクションだが、本の内容に迫る映像でドキュメンタリー
とみがまうスリリングで生への希求の願望と絶望を、映像に詰め込んで最後まで緊迫感を持
続して、見事なまでに主人公へに感情を傾斜させてくれている。
特に男の舌を噛み切る刹那の狂気と、恋人の前での自慰には「生きることの本質」を見事な
までに描き上げていた。


この映画を思い出したのは、新聞記事もあるが下にリンクした「ガラス越しの再会」である。
検索をかけたのは「自衛隊もの」なのだが、そこの関連でこの動画を見つけた。



「ガラス越しの再会」

時はベトナム戦争、消滅してしまった南ベトナム、そこから日本に留学していたベトナム人
と祖国を逃れてカナダ移住する弟の成田空港での、階を違えた出発ロビーでの再会・・・。
国が消滅してパスポートが無効になった兄は、日本から出られない。
同一空港でも、ガラス越しで日本と異国の壁・・・、そこでの再会・・・。
これも何気なく見ていて、胸が熱くなった。
「ミッドナイト・エキスプレス」のガラス越しの対面も、異常な状況なのに恋人の涙と自慰
をし涙する男の哀切な表情・・・、薄いガラスが物凄く強固な壁を物語る状況には、涙しか
ない。


ミッドナイト・エクスプレス

¥2,093
Amazon.co.jp
                      といったところで、またのお越しを・・・。