大正ロマンの異形「恐怖、奇形人間」 | 流浪の民の囁き

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映画を通した過去・現在・未来について、なぐり書き

「ノートルダムのせむし男」がでれば、それから連想されるのは、江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」

で描かれる精神の病んだ権力者と、哀しい宿命を悟ることになる兄妹の花火によれ肉片となって

昇華してしまう「恐怖奇形人間」である。



奇形人間


海外版のジャケット写真だが、今一インパクトが足らず映画のおぞましい

面白みが表現されていない。



奇形

http://jp.youtube.com/watch?v=D5LfxHovmtI

「恐怖奇形人間」  六十九年公開作


エロ・グロナンセンス的映画を量産した監督石井輝男が江戸川乱歩作品のエッセンスを

「パノラマ島奇談」をメインにして、作り出したフリークス映画。

それにしてもこの「奇形人間」という言葉の持つインパクトは衝撃的で、一体どんな・・・。

もっとも昔は、サーカスでも見世物小屋でも日本で普通に興行として、こういった人々を

扱い金を稼ぐ人はいて、興味本位の域を出ることなく、またその人間に同情するとかの

気持ちも働かないのが一般的で、この映画もエロ・グロナンセンスがどうしても匂うのだが

意図しているかいないかは何とも解釈に困るが、見方によればホラーではくくれない人間の

哀しき性を見せ付けていて、作りもチープなのだが、そこはかとなく戦前の日本における人間

関係の濃密さがそこに描かれているように思う。

ましてごった煮のようにあらゆる性向がバランス良くちりばめられていて、人間の持つ裏の心

を垣間見えるといった知りたくない恐怖もあり、カルト人気を得るだけの魅力がある。

で、大正ロマンと書いたのは、明治でもない昭和でもない色々なものに対する感じ方が、タブ

ーに対する好奇心という言葉で納得出来るように思う。

猟奇的とかもとより持っている人間の性向を赤裸々に文字にすれば、それは冒険を伴うがそれ

を易々と本にしてしまった大正・昭和初期とは、今より自由な時間を繰り広げていた。

それが本の世界だけであっても、大衆雑誌が売れているとなれば・・・。

この当時にやはり夢野久作という作家がいた。

こちらは精神を完全に病んでいるかのような世界を繰り広げる「ドグラマグラ」なんて難解というか

意味不明という、チンプンカンプンな異常な世界を描いて見せたり、「人間腸詰」とか「少女地獄」と

か、やはり今でいうどこか「逝ってる」小説が多いのだが、人間の根本的な邪悪さや変態性を否定

することなく・・・、乱歩の「人間椅子」なんて完全変態の男だろうが、何か惹き付けられるし、無意

識の意識にはもしかしたらあるのではないか、なんて考えてしまう・・・。

で、この映画、フリークスを作り出すというおぞましさと引き裂かれる情を猟奇的描写をもって描い

て言葉がない。

だからだろう、海外で発売したら通販で一位を獲得している・・・。

ここらは勿論なくならない好奇心とかも手伝って、おぞましいが最後はほろりとさせる稀代の映画

なのではないだろうか。

にしても左翼の人々が叫ぶ「戦前の封建制」とかの欺瞞が、江戸川乱歩や夢野久作を読んでいると

ウソで、それぞれに最低限のモラルをもって、いや好奇心をもって作品を描いていたとなれば、ぎす

ぎすした社会を想像することは難しいのだが・・・。

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Amazon.co.jp                 といったところで、またのお越しを・・・。