いまだに日本の暗部は不変「金環触」 | 流浪の民の囁き

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映画を通した過去・現在・未来について、なぐり書き

折りしも汚染米で、批判の真っ只中で行なわれている自民党総裁選だが、

流石に国民の関心は政治にはなく、汚染米とか小児殺害の報道へ向いている。

それでも紙面を埋めるためか、はたまた国を牽引しているという自己満足を持つ

メディアは、一応それらの報道には時間や文字を割いている。

そんなメディアという、「第四の権力」とも揶揄されるものも、はっきりと「汚い奴等」

と文字にして政治家達の暗躍と、その権力抗争を描いていたのが、この映画「金環触」

である。

時は、「もう戦後ではない」と言い放つ者が、高度成長する日本を背景にして贈賄・収賄

に巻き込まれ、その上で時の総理・総裁選を戦っている昭和三十年代後半である。



金環触


http://jp.youtube.com/watch?v=n8njgEI-cyc

「金環触」  七十五年公開作


原作は石川達三で、批判精神もまた鋭い視点も併せ持つ人物の小説は、陰謀渦巻く

政界と経済界、そしてもっとも唾棄すべき言論界の暗部を明快に書き、それを映像化

したものであり、登場人物の濃いキャラクターも相まって、ほのぼのした「三丁目の夕日」

の時代に、政界やそれを取り巻く世界では、権力に魅せられた人々の醜い争いが繰り広

げられていた。

登場人物がどいつもこいつも「悪党」であり、しかしその悪党ぶりは凶悪な犯罪者と言うより

利益追求のためなら、何でもやる。どこかしら人間臭さが滲み出る。言い換えればとても人間

くさい「汚い連中」となる。

勿論架空の物語と銘打っているから、登場人物名も架空で政党も架空なのだが、そこは勿論

当時の自民党の人物のレプリカと分かる設定になっていて、濃いキャラクター達の仕草や口癖

で誰であるかが、観客に分かるようになっていた。

悪党ぶりはそれぞれの立場で、汚い工作とも映るのだが、ここで達三の風刺精神は、政界や経

済界の汚さとともに、もっとも国民に知らせなければならない責務がある言論界の「汚さ」も描い

ている点には、他の政界陰謀小説とは違った趣きがあり、みんな汚ければ、「赤信号、皆で渡れば

怖くない」となって、不信感が観客にもたらされる・・・。

で、これに関連して「便所の落書き」程度の記事があったので、それを引用。


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●マゾ気質でこびを売る

 自民党の麻生太郎幹事長が、また舌禍だ。こうなると、クセというより病気ではないか。
 名古屋駅前で行った14日の街頭演説で、「岡崎の豪雨は1時間に140ミリだった。
安城や岡崎だったからいいけど、名古屋で同じことが起きたらこの辺、全部洪水よ」
と言ってのけたのだ。これに被災地の岡崎市と安城市はカンカンで、16日になって麻
生サイドに抗議文を送付する騒ぎになっている。
 今回の総裁選は麻生の勝ちが決まっている。そのため、麻生とその周辺は、票数より
も失言を気にしてきた。麻生本人も慎重に、注意深く発言してきたはずだ。それでも、
このザマである。痴漢で何度も逮捕される男と変わらないのではないか。
 臨床心理士の矢幡洋氏が言う。
「麻生さんはべらんめえ調で豪快なイメージがありますが、よくよく観察すると卑屈な
ところが目立ちます。“事故死した弟の方が優秀だった”とか“学習院ではビリから5
番以内”とか劣等感を隠さないし、街頭演説では『永田町で嫌われている麻生太郎です』
『みんなに心配されている麻生太郎です』などと自虐的に話す。その上で、相手にこ
びを売り、過剰に褒めようとするのです。今回の暴言も、名古屋を日本の大事な拠点と
持ち上げようとして失敗した。自らを下に置こうとするマゾ気質が招いたと分析できま
す」
 こんな人物にリーダーが務まるのか。オタクにこび、官僚にこび、米国にこび……で
は、日本の将来は真っ暗だ。

(日刊ゲンダイ2008年9月17日掲載)
http://news.www.infoseek.co.jp/gendainet/society/story/20gendainet02038392/

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この記事なんて、さて達三が生きていれば「渇」を入れそうな、悪意に満ちた「落書き」で

とても報道とは呼べないものだ。

この映画の当時のメディアも、知っていながら知らせないという選択をするから、達三は

それに噛み付き、汚さは同等とこき下ろしていたものだ。

だけに見ている客は、政界のパワー・バランスの駆け引きと共に、メディアのいい加減さも

同時に理解出来るとなっていた。

何より題名が「金環触」という命名に、達三の批判精神が宿っていた。

これは太陽の周期で起こる月との現象で、周囲の炎の明るさと、真っ黒になっている内部の

表面を飾っていても、その内面は「黒く」汚らしい・・・。

で、今ではその書籍のほとんどが絶版になっているらしい達三の小説群だが、辛辣な文章に

触れるのは、今の甘っちろく偏向や捏造がまかり通るメディアの当時の「暗部」を、より醜悪に

した部分に目を向けるにもいいことだとは思う。


生きている兵隊


上の「生きている兵隊」は、あの南京プロパガンタで「三十万」説を大笑いできるものである。

中央公論の派遣員として南京侵攻に従軍したルポであり、その辛辣な筆を持つ達三が、狂気に

満ちていく兵隊のそのさまを描写している。

そして敵を殺戮する方法もリアルに書いているから、この作品は出版禁止になったものである。

ただ出版禁止とは、その狂気の行動が引き起こされる要因も丁寧に描いているから、今となって

は理解出来る狂気なのだが、当時としては「皇軍」の兵は取り乱したり残虐に殺さないという日本

のプロパガンダからの圧力であって、中共の喧伝する「大虐殺」があったからではない。

良く社会派と呼ばれる達三の作品だが、大衆という庶民に向けた「正義」や人間のもつ弱さやそれ

から来る反社会的行為に厳しい目を向けて、読者に対して反面教師的趣きが垣間見えて、リアルな

書体が、いつの間にか心地良くなる・・・。

「青春の蹉跌」の主人公の傲慢さが、最後には意にも止めない「忘れる女」の裏切りでとか、「僕達の

失敗」に見る、男女の対等の意識に隔たりがあり、実質結婚が破綻する様とかには、自分が過ごした

時代から見る若者の甘っちょろさに対しての優しさが見える。

「四十八歳の抵抗」とか「人間の壁」とか、良質な作品が多いし、そのほとんどが映画化されている。

にも拘わらず、今では忘れ去られて、小林多喜二の「蟹工船」が受けるとは・・・。

あれは単に悲惨な搾取される者と搾取する者という二極に単純化することで、帝政ロシアに対して

奮起させた労働者の共産主義の賛歌でしかなく、二極に分けられたものの考え方が、その後どうなっ

て行ったか、前に書いた「レッズ」のアメリカ人の惨状、ましてロシア革命に狂喜した人々が、スタリーン

の台頭によって「大粛清」されてしまった蛮行も、また内向きな共産主義のなせる業であるのを知れば、

時代的には、石川達三が再び、脚光を浴びてもいいと思うが・・・。

何しろ「共産主義は偽善だ」と、モスクワで堂々と演説して見せた反骨精神こそ、今日本に必要な精神

な気がするからだ。

ここはどこでもない「日本」であり、日本人である・・・。

その達三の第一回目芥川賞受賞作が、下の「蒼茫」であり、自らブラジル移民船に搭乗して、感じた

暮らしぶりを描いた作品で、日本で食えない人々の、移民の選択に厳しいが優しい眼差しを向けている



蒼茫


で、これは秋田にある「石川達三記念館」からの拝借した画像です。

移民で思い出すのは、「愛と悲しみの旅路」の映画だが、そこの子孫、要するに孫が

歌ったものが「ケンジ」で、そこには日本の移民達の波乱に富んだまた悲惨な待遇にも

歯を食いしばって、そこで生きた日本人がいたのを誇らしく、祖父・祖母にリスペクトする

日系三世の姿がある。


http://www.youtube.com/watch?v=hbcn-DPUQD0&feature=related

「ケンジ」 フォート・マイナー


フォート・マイナー/ザ・ライジング・タイド(初回限定バリュー・プライス)
¥2,180                                    といったところで、またのお越しを・・・。