夏休み真っ盛りのこの時期、都会から田舎に向う家族も多い。
そんな人々が抱く田舎の風景は、いつまでも変わることない原風景を
思い描いて、変わって欲しくない願望もあり、そこにほっとする気持ちが
溢れてきて、まったく民族も違うのに、描かれている風景や人との交流に
「忘れていた日本の原風景」を見た思いになる・・・。
そんな映画がこの台湾製の映画である。
製作は八十四年だが、日本公開は九十年となっている。
幼い妹を連れて都会の台北から、母の病気のため、おじいちゃんの田舎へ
「夏休み」期間、やって来る。
デティルが似ている日本の映画があるが、それについてはアニメと実写映画
の違いから言及せずに、この日本の忘れ去られる「原風景」が、台湾に息づ
いているのには、はっとさせられる。
「仰げば尊し」の卒業式からして、少年の成長を追う物語なのをさりげなく映
像化して、都会の風景から田舎へと流れていくうちに、日本の観客はもうとっ
ぷりとノスタルジィーに浸り、乗り違えで駅で待つ羽目に陥った二人が、おじ
さんを待つ間、ラジコンで遊ぶという都会と田舎の遊びの違いもさりげなく描き、
都会っ子にとって、田舎は異国の地みたいな面持ちで降り立っても、そこはそ
れですぐに子供同士が仲良く遊びまわるという、本来の好奇心と偏見のない心持ち・・・。
の割りに、妹を救う知的障害者の登場で、のんべんだらりとした田舎暮らしにアク
セントを、またこの障害者に対する人々の接し方も、「腫れ物に触るでなく」、そこ
は差別意識もあるが、この妹のように少々の違和感は簡単に乗り越え、変な連帯
感を漂わすところには、色眼鏡でない幼い人間の無垢な精神が垣間見え、また
それとは逆な対応をする大人の醜さも描いていて、それらを含めた風景が、暮らし
の一場面であると、静かに描く手法は、古来から日本映画にあったものであり、それ
がよりノスタルジィーを感じさせてしまう遠因にもなっている。
頑固なじいさんや、病弱な母、穏やかに流れ行く田舎の暮らし、そこで起こる出来事
を通して少年は、少しづつ何かを感じ、夏休みを通して中学に入る前に、程度はあるが
責任感も自立も学ぶ・・・。
と、少年の物語は「少年時代」でもそうだが、どこかにほろ苦い思いも重ねて、それで
いて取り返せない時間を懐かしむという、映画による癒しの魅力が、とっぷりそれに浸かれる・・・。
最後に流れる「赤とんぼ」には、不覚にも涙が溢れてしまう・・・。
あの少年時代の、ガキ大将の追っかけてくる汽車に被さる井上陽水のようだ・・・。
- 冬冬【トントン】の夏休み
- ¥3,864 といったところで、またのお越しを・・・。