祖国を持たない者達の哀愁「エレジー」「路」 | 流浪の民の囁き

流浪の民の囁き

映画を通した過去・現在・未来について、なぐり書き

以前であれば流浪の民といえば、ユダヤ人であったが今現在、人口的にも

世界で一番多い民族は、クルドの民であろう。

そのクルドの民が分布する地区は、トルコ・イラン・イラクの山岳地帯で、

その昔はクルド人の共和国も一年ではあるが建国されていた。

もっとも当時東西冷戦の只中にあり、ソ連の後押しによって強引に建国

されたが、もとより上記に示した三カ国にすれば、領土問題である。

簡単に国は潰され、クルドの民はそれぞれの国に帰属して生きながらえている

のだが、民族的差別は凄く、イラクにいたってはあのサダム・フセインによって

大虐殺をされている。そしてそこの紛争地区がゴラン高原で、日本の自衛隊も

国連の平和維持軍に加わり、監視活動をしていた。

そしてそんなクルドの民でもトルコの地に生を受けたユルマズ・ギュネイが監督

した映画が「エレジー」「路」である。



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http://www.youtube.com/watch?v=yFjqCC9-2Ig&feature=related

「エレジー」 七十一年製作

この映画も、「群れ」「敵」という監督作品と共に、八十二年に「路」が

カンヌ映画祭で賞を取らなければ、日本で公開されることもなく終わった

映画ではないかと思うのだが、これがなかなかに面白い作品だ。

まぁ、山岳地帯の西部劇風とでも言うか、アウトローの賞金首とそれを追う

憲兵隊や対立するならず者達との戦い、そして何よりクルド人の草木の生

えていない岩がゴロゴロの荒地、で主人公を監督自身が勤めていて、日本

の雨合羽みたいなガウンを纏い、徒歩・・・。

徒歩で村々を、そして国境を行き来し非合法だろうがなんだろうが、生き抜く

ために幾ばくかの金を得るため・・・。

ドンパチもあるのだが、そこは当時の流行のマカロニ・ウェスタン並に、拳銃

発射音が渇いて響く。

で、一応アクション映画に、お色気もちらっとあり、また女医とのラブ・ロマンス

というには渇ききっているのだが、渋いセリフを吐いたりもする。

「別れを言いに来た。その黒い瞳や整った眉にではない。人間扱いしてくれた

女医さんにだ・・・」と、そこにはモロなクルドの民の置かれている立場を裏に含

んだ物言いで、別れを告げて出て行く・・・。

そのニヒルな風貌はマカロニの域なのだが、マカロニの似非でないシリアスさが

クルドの民にあり、ラストでは壮絶な憲兵隊との撃ち合いもある。

が、山岳地帯での撃ちあいはいつしか岩の崩壊をもたらして・・・。

ここらにこの監督の真骨頂が表現されて、ちまちました争う等、自然の前には

取るに足らない事柄であり・・・。



http://www.youtube.com/watch?v=kyu0smba47g

「路」  八十二年製作

こちらの作品は五人の囚人の、五日間の特別仮出所のそれぞれを行動を辿った

群像劇であり、これが因習に縛られた者達の悲しいさだめをまざまざと見せてくれる。

あるものは大切に育てた「カナリア」を持ち郷里へと、しかし許可証を紛失して断念さ

ぜるえなかったり、不義蜜通を咎められ八ヶ月も地下牢に閉じ込められている妻を

しきたり通り「殺さなければならない」だったり、銀行強盗で妻の兄を見殺しにしたへた

れぶりを家族は許さず、彼は妻を伴って遁走を図るも、列車内で長年の欲情を禁じ得

ずトイレで情交に及ぼうとするが、乗客に発見されとたんにリンチ(公序良俗を乱した)

を加えられるも、車掌の計らいで難を逃れるが、後を追ってきた妻の弟に、妻もろとも

撃ち殺されたりと、斯く斯くのエピソードがどれも特異で、衝撃的である。

中でも不義密通の妻に愛おしさを感じて、殺すのに偲びず出身地の村に送り届ける。

もっとも一度村を出た、要するに出戻りは許されない村の掟があるが、幼い子もあり

男は八ヶ月の拘束で歩けなくなった妻をおぶりながら、村を目指す。

苦難の末、たどり着いた村の手前で妻は「凍死」していた・・・。

図らずも掟は守ったが・・・。

要するに獄に繋がれていようが、下界に出てみたが、そこには全く自由はなく、因習や

規則に縛られた不自由な人々の群れが・・・。

という、獄中で監督指示した人の発想らしい・・・、が、やはり根底にはクルドである。

そこに強烈な意識があり、特に「凍死」の苦難は、リアリズムが映像になった趣がある。


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画像は、イラク難民のクルド人。


とまぁ、トルコの映画という珍しいものだが、トルコといったってクルドの民にすれば、

「貧困と犬どもが、俺達を山に追いやった、人間らしい扱いをしてくれれば・・・」

という、もろな積年の恨みを、映画に叩きつけるから・・・。


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