六十年代のアクション映画は、秘密諜報員ジェームス・ボンドが
大活躍したお陰で、それに類いする映画が大量に世に出回った
その中で、フランスにおける正義でなく、悪の権化としてつとに
有名なのが「ルパン」と共に「ファントマ」である。
http://www.youtube.com/watch?v=x9BevMqTwgc
「ファントマ 危機脱出」 六十五年公開作
千九百十一年に出版され、それまでのフランスでの推理小説に
なかった犯罪者を追跡するという設定が、また政情も不安定で
悪人が大活躍する暗黒小説的読み物で、この「ファントマ」は読者を
獲得していき二年間で三十二本の作が発表されていて、そのうち五
本が映画化されている。もっともこの映画は、十三年、十四年という
年代である。
そこから五十年の時を経て、甦ったものがこのシリーズである。
ゴムの仮面を被った犯罪者は素顔が分からず、そして何より犯罪が
鮮やかで、犯人が分かっているのに捕まえられない。
で、この犯人の後を追うのが新聞記者と、少しとろい警部率いる警察
で、この警部が毎度おなじみのテンポのずれた笑いを作り出す。
ここらは後に「ピンク・パンサー」なんてのも出てくるきっかけ作り的要
素があった。
にしてもこのゴム人間、最初に見た時はやたら恐かった。
何しろ眉毛がない、髪の毛がない(仮面なのだから当たり前だが)、その
異様な色と無気味な笑い、原作は古くともそれを時流にあわせれば、
最新兵器(勿論ジェームス・ボンドばりの・・・)を繰り出して、後を追う警部
達を煙に巻いてしまう。
ここらは「黄金の七人」と相通じる犯罪者のアンチ・ヒーロー物と言える。
にしても、この警部を演じるルイド・フェネスの体型と失敗の連続は銭方警
部並であるが、こちらはなんとも笑いがあざとく、あの「せんだみつお」のあく
のある笑いに見えて、だんだん笑えなくなる。
http://www.youtube.com/watch?v=cQ46IIsa8e0&feature=related
「ファントマ 電光石火」 六十五年公開作
こちらになると場所もパリを飛び出しローマになって、ファントマの武器も
相当に大げさになるし、何しろシトロエンが空を飛んでしまう。この場面は
笑い転げる奇想天外な発想だ。
どこにジェット・エンジンを積み込むスペースがあるんだか・・・。
もうマンガの世界が実写になってしまって、制作費という縛りのある映画は、
どこかに笑いが漏れるお粗末さが、笑いを取る。
にしてもファントマは相変わらず、恐い顔だ・・・。
http://www.youtube.com/watch?v=XYPeauoLqlU&feature=related
「ファントマ ミサイル作戦」 六十七年公開作
もうフランスでは捕まえるものもないファントマである。
海を渡ってイギリスに乗り込むことになる。
という設定で、今度は秘密兵器で世界の富豪を恐喝、マフィアまでと飛び
ぬけて大げさになってしまっている。
で、前ニ作にも劣らぬ警部の間抜けぶりがテンコ盛りで、単純に笑うには
もってこいの映画だ。
地域観光も含まれたスコットランドの風景と・・・。
で、危機脱出の手段が、今度はロケットと相成っておったまげたままラスト
で、結局は逃げおおせるという「ルパン三世」のエンディングである。
にしても、三作も続けるとどんどん兵器も脱出の仕方も大胆な発想になって
いつしか、製作者の頭を悩ますというジレンマが待ちうける。
と、シリーズものの難しさが如実に現れて・・・。
もっとも三作も笑いを作る警部も、いささかやり過ぎで、笑えなくなるのは、
あくの強さだったのかも・・・。
ただ、予算も限られそれでいて最新兵器を空想するという「円谷」並みの考え
方は映画作りの情熱を感じる。
娯楽作品にとって、観客をいかに楽しませるかは大変なことである。
で、この三作はリバイバルで上映会があったみたいで、「温故知新」を感じられ
ればいうことない・・・。