チャイナで思い出した中国製の映画に「初恋の来た道」という
ピュアな精神を持つ少女の牧歌的映像に溶け込んだ、非常に
印象的な映画があった。
http://www.youtube.com/watch?v=zQco7M-YjWQ&feature=related
九十九年公開作
今ではコマーシャルでアジアの神秘と持ち上げられたチャン・ツィーのデビュー作
でもある。
山奥の風光明媚な村に住む少女と、そこに赴任してきた教師の淡い初恋を描いた
映像美が何より印象に残った映画であったし、この少女の待つ姿に感情移入して
愛しい少女像となって、余韻も「久しぶりにいい映画を見た」という、ほのぼのする感想
が漏れる作品だった。
これほどの相手を思う気持ち、待ち続ける純真な心・・・。
かつて日本の映画でもあった牧歌的で、そっと寄り添う夫婦の後姿が浮かんでくる。
と、映画はとても良かったが、さて老婆が回想する物語で四十年の歳月を甦らせる
ものだが、中国歴史を振り返るとこの映画が、監督の幻想と願望であるのが分かってくる。
四十年というのを差し引けば、丁度五十年後半になる。
するとその当時は、描かれている村など中国には存在しなくなるし、何より農民が牧歌的に
暮らしてはいない。
1958年 5月 毛沢東「社会主義建設の総路線」大躍進運動開始
8月 農村の人民公社設立、鉄鋼大増産の号令
1959年 4月 劉少奇国家主席就任
8月 反右傾闘争開始
9月 林彪国防部長就任
この年表のように、鉄鋼大造産の号令の元、農村は畑を耕すでなく鉄鋼を求めて鍬から
ツルハシに取って代わり、農作物に携われなくなる。
結果、食糧不足のため餓死者が大量に出るし、右傾闘争ではどんどん政府に反発する
人は拘束されていった・・・。
と、なってこの映画の舞台は存在し得ない。
ここに中共のずる賢い思惑が、折角の初恋の素晴らしい世界を興ざめにしてしまう作為が
現れてくる。
虐殺・血塗られた毛沢東革命を糊塗して、中国は昔から牧歌的な温和な人々が、こうして
暮らしていた国である。となるのである。
だからこそセリフにも「君は赤が良く似合うね」の何ともな言葉も吹き込まれている。
それに少しは反発した「あれは右ではないか・・・」の村人のセリフも含まれてくる。
右派闘争という思想犯に対する摘発は過酷であり、そう噂された人物が再び戻ってくることは
ない。それは今の「法輪功」の信者が、戻ることなく消えているのが物語っている。
言論統制のある国では、批判はご法度だし告発なんてものは踏み潰される。
「チャイナ・シンドローム」なんてのは、他の国だからであり、あの国では共産党から脱皮しない
限り夢のまた夢・・・。だからこそ監督は、その夢を追って・・・。
幻想と願望で、この映画を撮った・・・、メルヘンはどこまでもメルヘンで、しかし権力者の思惑と
庶民の乖離には、それを知ったうえで見ると、より「初恋」が貴重に思える・・・。