どうも。3月4日(月)に衆議院で来年度予算を議決する与野党の約束を反故にして、3月2日(土)に議決することを突発的に決めた岸田首相は、休日出勤を強いられる霞が関の官僚の恨みを買ったでしょう。「安倍さんの頃が良かった」と思っている官僚に足元をすくわれるかもしれません。
それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『痴人の愛』です。
右足が不自由な学生ケアリーは学校近くの料理店で働くミルドレッドに一目惚れした。1934年製作のアメリカ映画で、1935年日本公開作品。監督はジョン・クロムウェルで、出演はレスリー・ハワード、ベティ・デイヴィス、フランシス・ディー、ケイ・ジョンソン、レジナルド・デニー。
邦題を見れば、谷崎潤一郎の小説が原作だと早合点します。しかし本作はサマセット・モームの小説『人間の絆』を原作とします。紛らわしい邦題です。
繊細な性格のケアリー役をレスリー・ハワードが、感情的なミルドレッド役をベティ・デイヴィスが演じるのは配役として成功です。ケアリーに感情移入すれば、ミルドレッドは嫌な女に見えます。ミルドレッドに感情移入すれば、ケアリーが頼りない男に見えます。それほどキャラクターの対比が明確です。
生まれつき足が不自由なケアリーは、その劣等感に抑圧されながら生きています。ケアリーがミルドレッドに恋しているにもかかわらず、彼女が好きになるのは財力のあるミラー(アラン・ヘイル)や社交的なグリフィス(レジナルド・デニー)です。財力も社交性も乏しいケアリーにとって、ミルドレッドの行動は更に劣等感を強めるものでしかありません。
ケアリーは女流作家ノラ(ケイ・ジョンソン)や知人の娘サリー(フランシス・ディー)と交際します。それでもミルドレッドへの思いを断ち切れません。東日本大震災以後、ポジティヴな意味で用いられる「絆」という言葉は、本来「家畜を繋いでおくための綱」というネガティヴな意味であり、ケアリーを束縛するミルドレッドとの関係は本来の意味で「人間の絆」です。
ケアリーはミルドレッドの死によって解放されるまで「人間の絆」に束縛され続けます。この二人の関係に似たものが日本映画にもあります。日頃姿を見せないのに気まぐれに帰って来ては周囲に迷惑をかける馬鹿な兄と、迷惑を被りながら切っても切れない「家族の絆」に束縛される健気な妹の関係です。『男はつらいよ』シリーズの設定に本作(の原作小説)は影響を与えたのではないかと思えてしまうのです。
★★★☆☆(2024年1月30日(火)インターネット配信動画で鑑賞)
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