【映画評】7s セブンス | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

どうも。春闘での賃上げ可否を経団連など使用者側に聞く報道が多いのは、賃上げを使用者からの「施し」や「お恵み」だと思っているのでしょうか。賃上げは対等な労使交渉で労働者が勝ち取るものです。労働組合など労働者側にも聞く報道が少ないのは変です。

 

それはさておき、映画の感想文を書きます。今回は『7s セブンス』です。

 

売れない映画監督のサワダは、自主映画でインディーズ映画祭のグランプリを受賞し、その賞金をもとにさらに大きな映画を撮ろうと決意。居酒屋で意気投合した小劇団のメンバーとともに、7人の天才詐欺師集団が主人公の映画「7s」の制作を開始する。ところが、俳優の遅刻やスタッフ同士のケンカ、制作部の失踪、突然のキャスト降板など、次々と問題に直面。ついには制作資金が底をつき、「7s」は未完のまま撮影が中断してしまう。それから3年、バラバラになったスタッフ、キャストは誰も「7s」の話をすることはなくなっていたが……(映画.comより引用)。2015年公開作品。監督は藤井道人で、出演は深水元基、淵上泰史、アベラヒデノブ、須賀貴匡、小林夏子、佐々木卓馬、サンガ、竹井洋介、網川凛、駿河太郎、斎藤工、瀬下尚人。

 

藤井道人監督が自身の経験も交えて描く、日本インディーズ映画業界地獄絵図です。『カメラを止めるな!』より生々しい底辺の世界です。映画人は映画について語るとき、雄弁になります。他の業界より、よく知っているからです。

 

映画業界に限らず、モデル、劇団員、一発屋芸人の残酷な現実も描かれています。やり手のプロデューサーみたいな業界人の食い物にされ、シングルマザーになる劇団員のエピソードは、漫画『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』を思わせます。芸能界では、よくある話なのでしょう。

 

よくある現実では「7s」撮影中断の時点で物語は終わります。「7s」は映画に関わったスタッフやキャストの黒歴史になるだけです。しかし本作では中断から3年後に撮影再開し、くすぶり人生を送っていた彼らが報われる展開になります。この展開は現実味に乏しくても、劇中の登場人物にとってエンターテインメントによる救いになります。それは藤井監督が現実に見てきた、夢破れた映画人たちにとっての救い、正しくは鎮魂でもあるのでしょう。

 

本作で大幅に尺を用いて描かれるのは夢と青春の墓場です。夢を追う者の愚かさを冷笑したり、嘲笑したりしてもいいでしょう。本作でも、病床の母親がいながら定職に就かず、死体役でしか出演できない兄が弟に非難される場面があります。但し夢を追う者がいない国は先進国どころか発展途上国でもない、夢も希望もないディストピアでしかないのです。

 

★★★★☆(2023年12月27日(水)インターネット配信動画で鑑賞)

 

 

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