民話(動物) 茂吉の猫
むかし、小沢に茂吉という酒のみがいた。酒ぐせが悪いので嫁にくる人がないのか、猫と一しょに暮していた。月末になると、酒屋の小僧が酒代をとりに来る。ある月末の勘定は、自分の飲んだ心勘定とくらべてどうも多い。茂吉はおこって酒屋の主人に談判に行った。
「おら、のんべで知らねべと思って、酒の銭(ぜん)コよけいに取る気だな」と座敷に上がって文句をつけているうちに、日も暮れて夜になってしまった。
すると、どうっと風が吹いてきて、店先に赤いハッピを着た童(わらし)が入ってきた。そして一升どっくりを出して、「おど、酒一升たもれ、銭コあどで茂吉払うのだがら」酒をもらうと、またどうっと風の音して、わらしの姿が消えて行った。
茂吉はあっ気にとられて、文句のつけどころもなく、だまって勘定をすませて酒屋を出た。
家に帰った茂吉は、柱につるしてある赤いハッピを見ると、すそが少しぬれているし、それに猫の姿が見えない。
茂吉は、「ははぁこれはあやしい、猫が化けるもんだと聞いてはいたが、あのわらしコの酒買い、猫はいないし……」
茂吉は独言いいながらうなずいて、その日は酒を飲まないでねてしまった。
翌日、夜になって茂吉は炉ばたへごろりと横になって、ぐうぐう空(から)いびきをかき眠(ね)たふりをしながら、うすく目をあけたり猫をみていると、部屋のすみコにうずくまっていた猫も片目を少しあけたり茂吉の様子を見ているらしい。そして茂吉が眠ってしまったと見てか、急に猫が背のびして立ち上がると、そろっと歩いて柱の赤いハッピに前足をかけた、と同時に、これだとみて「この酒泥棒!」と叫んでいきなり手にしていたキセルを思いきり投げつける、ギャッ!猫は一間も跳び上がって、どうっと風をおこして逃げ出した。
茂吉も飛び出して追いかけた。猫は体からパチパチ火花を散らして火の玉のようにとんでいく、茂吉は光をたよりに夢中で追っかける、と、ぴたりと火の玉が消えてあたりは暗やみ、場所はどこともわからない。
茂吉はまごまごしていると、あたりがぼうっと明るくなって、青い火、赤い火とピカリピカリこちらに近づいてくる。
見れば広い野原で、さてはばけものずくしの野原といって、おばけの集まる所で、ここを見た人間は必ず死ぬといわれていた。
茂吉はどうしたらよいかうろたくばかり、しかし、かくれてじっと様子を見ていると、赤い火、青い火、黒い影、それが飛んだり跳ねたり、間もなくお化けが輪になって、うたったり、おどったり、さけんだり、大へん楽しい、いや大へんなさわぎの様子に、茂吉は念仏を唱えながら、ふるえを鎮めるように見ていると、とら猫に三毛猫、そこへ茂吉の猫がやってくると、猫たちは、ごろごろのどをならしながら、
「茂吉の猫きたど」「酒コもってきたが」「茂吉の猫、さあ酒コのんで笛吹いでけれ」
ところが茂吉の猫は口から血を流して「おれのおやじの貧乏神にただがれて、今夜は酒コもねぁ笛も吹けねぇ」
見ると前歯が欠けている。
すると猫どもは、「なんと、これだばひでぇ」「のんだくれの茂吉め生かしておかれねぇ」「んだ、茂吉どご殺すべし、殺すべし」と一さわぎしてから、急に静かになってひそひそ相談、茂吉は一心に聞き耳を立てていた。
年とった婆猫は大きくあくびしてから、
「さあ、これで話がきまった、茂吉の猫はな、あしたおやじの飯の上をぼんととべ、そのぜんの飯を食った茂吉は、その日のうちに死ぬんだ」
茂吉はすべてがわかった。
次の日の朝、茂吉が飯を食べようとすると、そばにいた猫はぴょんとおぜんの上をとんだ。茂吉はその飯を食べるのを止めたという。
阿仁鉱山の小沢では「猫のまたいだ飯は食わない」という言い伝えがある。
【私なりの解説】
阿仁町伝承民話第一集にある小沢地区に伝わる民話です。この話を聞くと、公園などで見かける猫たちの集会が怖く感じられます。また、その後の茂吉と猫の関係がどうなったか気になります。

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