【民話】鬼の女房 | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

民話(動物) 鬼の女房

 

 むかしコある所に、ほいど(けち)な「てで」が一人暮していました。これまでに何人も「あば(嫁)」を貰ったが、飯を食わせるのがいたわしい(惜しい)ので、すぐ追い出してしまうのでした。飯は食わせたくないが仕事をさせたいというわけで、飯を食わないで働く「あば」をさがしていました。

 ある晩、「今晩は」と女の声で戸口をたたく音がします。「てで」は、しめたっ、と胸をおどらせ戸を明けると、きれいなおなご(女)が立っていました。そして優しい声で「おればおめえ(お前)のあばにしてけゃんせ、飯は食わないでうんとかせぐから」というのです。

 「てで」は喜んで承知しました。ええおなごで、うんとかせぐ上に飯もくわないというのが「てで」ののぞみであったからです。するとそのおなごは「てで」に一つ約束してくれといいました。

 それは「十日に半日だけ、おれを一人にしてけれ」ということでした。

 なあに十日に半日だけなら差しつかえないと約束をして夫婦になりました。

 あばは大変な力持ちで炭俵を二俵も三俵も平気でかつぎ働きます。それでも飯は全々食わないので「てで」はもう有頂点になって喜んでいましたが、約束の十日目になると「てで」は、あばを家に残して山へ行って働いていると、昼になるとあばは熱いにぎりめしを持って山へ登って来て、てでに食わせ一生懸命かせぐのでした。だが不思議なことに少しも米は残らず暮しは楽になりません。

 「あばの奴きっと十日に一回好きな男を家に引き入れ、米をくれているのかも知れない」と、やきもち心がおきてきていました。

 そこで「てで」は次の十日目の朝、山へ行くふりをしてそっと、はり(天井)にかくれて様子を伺っていました。すると、あばはどこからか大きな釜を持って来て飯をたきました。えろり(いろり)端にすわり自分の黒髪をバラリと解き、すき櫛でていねいにすき始めました。そして、ぶるんと髪を一振りすると、中じりに大きな赤い口がポカリと開いていたのです。そしてたき上がった飯の前にすわってあばは、手に水をつけつけにぎり飯をにぎり頭のてっぺんの大きな口にポンポンとほうり込むのでした。飯の湯気がもやもやと立ちこめる中で飯をほうり込むあばの形相はものすごく、口が耳までさけ、するどい角が生えた恐ろしい鬼女と変っていたのでした。

 「てで」はあまりの恐ろしさに「あっ」と声を出してしまったのです。

 「てでだな」とらんらんと光るまなこ(眼)で天井を見上げるので、「てで」は煙出しの窓から這い出し命からがら逃げて行くと、鬼のあばは「てで、待て待て!」と髪をふり乱して追いかけて来ます。息もたえだえになった「てで」は「しょうぶ」と「よもぎ」の生い茂った中に身をかくしていると、鬼女は「てで」にどうしても近よれません。「しょうぶ」と「よもぎ」は鬼の身体に毒でその身がくさってしまうからです。

 「しょうぶとよもぎが邪魔だ、鬼の身がくさる」とつぶやき、すごすごと立ち去ったということです。今でも五月の節句になると軒先に「しょうぶ」と「よもぎ」をさして「魔よけ」とするのはこの事から始まったということです。

 その後、鬼は「てで」と暮した住家に戻り、火を放ち住家と共に自分の身を焼きほろぼしたというが、その灰は風が吹くたびに舞い上り、蚊となり虻と化して四方へ飛び散り、今でも人間や動物の血を吸って生きているのも、鬼の灰から生れた生物だからといわれています。

 

【私なりの解説】

阿仁町伝承民話第一集にある民話です。「二口女」の秋田弁バージョンと言えます。鬼の女房すなわち鬼嫁と聞いて思い出すのは元プロレスラーの北斗晶ですね。

 

 

 

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