民話(人物) 夢買長者
昔、旅の男が二人で歩いていた。
すると一人は「ああ大分くたびれた、ここらで休むかな」と、二人は木かげにねころんで昼寝をした。ぐっすりと寝入ってからまた出かけた。しばらく歩いてから年上の男があたりを見て、
「はあ、ここだ、ここだ、このあたりだ」と言って、不思議そうに見まわしているから、
「何だ、急に夢みたいなことを言って」と立ち止まると、
「いや、さっき昼寝してたとき、おかしげな夢みたども、その時の景色とそっくりだ、このあたりの沢も、おかしもんだ。」
「へえ、それぁまだ、どんたら夢であったわげ。」
「つまらねぇ夢であったども、おれ小豆餅くいくい凧あげしてだわげ。」
「ふーん」と若い男はあたりをじっと眺めて考えこむと、いきなり
「どだぁ、その夢おれさ売らねが」といい出した。
「ほう、夢など買ってどうする気だ。」
「どうでもいいがら売ってけれ。」
「せば、何んぼで買うんて」
「米一俵……。」
それならと、これで話がきまると、若い男は、いそがしい用があるからと二人は別れた。夢見た男は、夢なんか買ったりして馬鹿を見たと気の変らないうちにと大いそぎで行ってしまった。
さて夢を買った若い男は、それから、そこら辺の人を集めてあちらこちらと掘りはじめた。男は金掘りであった。
それから 小豆(ひ)といって、小豆餅のようにピカピカ鉱石の入っている大した鉱脈にぶつかった。
「直利だ、直利にあたったど」と村中大さわぎになり、淋しかった村も鉱山が開けて、若い男はたちまち大長者になったという。
【私なりの解説】
阿仁町伝承民話第一集にある銀山地区に伝わる民話です。夢を買うという話は他の地域にもあります。ただし、それを阿仁鉱山の始まりと結び付けるところにオリジナリティーがあるのです(阿仁鉱山の始まりについては諸説ありです)。

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