民話(人物) ばか兄
むかしコ、あるところにばか兄とおんじの二人の兄弟がありました。
ある時、おんじが兄にいいました。
「兄 兄、親の仏コかくんて寺さ行って和尚さま頼んでこい」といいました。
兄は「そせば なんていえばいい」とききました。
おんじは「あした親の仏コかくんて来てたもれ」といえばいいというと、兄は「よしきた」と言って出かけて行きました。
途中柿の木の枝に鳥が止まっていて、こかぁーこかぁーと鳴いています。
兄は「子でねゃ、親だでばー」と言っても、こかぁーこかぁーと鳴くので兄は怒って石を投げつけ鳥を追っぱらって寺へ急ぎました。
帰ってくると、おんじはいろいろと法事の支度をしているところでした。
「兄 兄、はりから酒瓶おろすんて、しっかりしっかりつかまえでれ」と言って、おんじは高いはりの上へ上って行きました。
そして瓶に縄をかけておろしてよこしました。
「兄 しっかりつかまえだがー」「うん、よしよし」と兄がいいました。
「したら、縄コはなすんてしっかりしっかりつかまえでれー」と、おんじははりの上でさけんでいます。
「うん、しっかりつかまえたぞー」と、兄が大声で答えました。
おんじは、ゆっくりと静かに縄を離してやりました。すると、がちゃーんと大きな音がして酒瓶が割れて、酒が四方に飛び散りました。
びっくりして、おんじが下におりて来ると兄は自分のしりをしっかりとつかまえていたということです。おんじは「兄、なにしてら」ときくと「んが、しっかりつかまえでれというんて力せでおさえでら」と、すましていたということです。そこで、おんじは、
「兄 兄、酒コもないし風呂を沸かして、和尚さんに湯に入って貰うべし」というわけで風呂を沸かしました。
ぼんやりしている兄におんじはいいつけました。
「兄 兄、和尚さんに湯かげんをきいて、ぬるいと言ったら、そこらあたりにあるものをくべて、どんどんもやせ」というと、
「和尚さん、熱つがい、ぬれがい」とおんじのきく声がしました。
「うん、少しぬるいでゃ」と風呂場で和尚さんの返事がしています。
兄は、いわれた通りそこらにあるものをどんどんくべて火を燃やしてやると、和尚さんは「ああ、いい湯であった。からだの底からあたたまった」と喜んで湯から上がって来ました。
さて、衣を着ようとしてもぬいだ所にありません。
「兄 兄、俺の衣知らないがー」というと、「ああ、衣がい、和尚さんが湯がぬるいというんて、そこらあたりあるものくべてどんどん燃やせとおんじがいうがら、衣コ火にくべて燃やした」とすましていました。
和尚さんは、ふんどしもなく手で前をかくし、一目散に寺に逃げ帰ったとさ。
トッチンパラリのピー
【私なりの解説】
阿仁町伝承民話第一集にある三枚地区に伝わる民話を原文ママで転載しました。ばか兄は①鳥が「こかぁー」と鳴くのを「子かぁー?」と聞き違いして怒る、②おんじ(弟)が酒瓶をつかまえるように頼むと自分の尻をつかまえる、③和尚さんが入っている風呂を熱くするために和尚さんの衣服を燃やすという三つのばかを見せます。おそらく元々三つの話だったのを一つの話にしたのでしょう。それによって一粒で三度美味しいという出来になっています。
ところで題名を読んで思い出すのは、このばか兄ですよね。

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