
日本の暗黒街を取りまとめる“頭取”から、10億円もの大金を奪おうとする男・石川五郎。彼は5人の様々なプロフェッショナルたちと共に砂走刑務所を脱走、10億円の奪取を図るが……(Yahoo!映画より引用)。1966年公開作品。監督は古沢憲吾で、出演は植木等、ハナ肇、谷啓、犬塚弘、桜井センリ、石橋エータロー、安田伸、野川由美子、藤あきみ、進藤英太郎、青島幸男、由利徹、左とん平、人見明、益田喜頓。
クレージーキャッツが出演する「クレージー」シリーズの一作です。監督が古沢憲吾で、脚本に笠原良三、田波靖男、坪島孝が参加しており、これまでの「無責任」シリーズや「クレージー」シリーズの作り手による集大成的作品と言えます。
野川由美子が演じる姫子は、頭取(進藤英太郎)の側に付いて、石川(植木等)を騙して裏切ったりします。まるで『ルパン三世』の峰不二子のようなキャラクターです。セクシー・コメディエンヌとして優れた野川がもっと遅く生まれていれば、多くの人が納得できる「実写版・峰不二子」を実現できた気がします(本作で脚本を担当した坪島は、後に『ルパン三世 念力珍作戦』を監督します。同作の峰不二子役は江崎英子で、物足りなさを否めません)。
古沢監督のせっかちな性格は本作でも活かされ、何かと盛り沢山なストーリーが、サクサクと進んでいきます。後半の大金を巡る逃走劇は、そのスピード感のおかげでハラハラする緊張感を生んでいます。
また、クレージーキャッツの歌唱シーンに入ると、前後の繋がりを無視して、ステージと衣装が突然変わるのは、『ニッポン無責任時代』でも見られた古沢監督流の演出です。これもまた古沢監督のせっかちな性格のなせる業です。細かく言えばリアリティーの欠落ですが、ノリや勢いの良さで、それを感じさせません。
日本でミュージカル映画が成功しづらい理由に、演者が突然歌って踊り出すことの不自然さを挙げられがちです。しかし、古沢監督の「無責任」シリーズや本作を観れば、その不自然さは解消されていたことが分かります。日本でミュージカル映画が成功しづらいのは、70年代以降、理屈っぽい映画監督がリアリティーを重視し始めたり、映画界が斜陽産業化して貧乏臭い画しか撮れなくなったりしたからではないでしょうか。
古沢監督流の演出は、後世の日本映画界ではなく、他業種である漫画界に継承されました。70年代に登場した山上たつひこの『がきデカ』、鴨川つばめの『マカロニほうれん荘』、江口寿史の『すすめ!!パイレーツ』では、ギャグの場面で登場人物の衣装や背景が突然変わるからです。漫画は最低でもペンと紙があれば、何でも表現できるので、そうした演出が自由自在なのです。そうなると、日本でミュージカル映画が作られなくなったのは、セットや衣装を用意する製作費が高額になるからというのが一番の理由なのかもしれません。
本作を含む「クレージー」シリーズが作られ続けたのは、製作費を贅沢に使えたからです。そこから、クレージーキャッツの国民的人気の高さと、彼らが所属した渡辺プロダクションの業界内勢力の強さを窺い知ることができるのです。
★★★☆☆(2019年3月14日(木)DVDで鑑賞)