
'62年ボルチモア、高校生のトレイシーとペニーはTVの人気ダンス番組“カレンズ・ショウ”の大ファン。番組主催のパーティで飛び入りで踊ったトレイシーは、一躍皆の注目を集め、夢に見た番組レギュラー“カウンシル”の一員の座を射止め、人気者となる。ところが、番組には表面に出ない、黒人差別規定があり、黒人の親友のいる彼女は素朴な疑問から抗議の行動に出る……(Yahoo!映画より引用)。1989年日本公開作品。監督はジョン・ウォーターズで、出演はリッキー・レイク、ディヴァイン、デビー・ハリー、ソニー・ボノ、ジェリー・スティラー、レスリー・アン・パワーズ、コリーン・フィッツパトリック、ルース・ブラウン。
伝説の変態映画『ピンク・フラミンゴ』のジョン・ウォーターズ監督がメジャー初進出した作品です。主人公トレイシー(リッキー・レイク)の母親役を演じる、マツコ・デラックスみたいな容姿のディヴァインは、メジャー進出前からウォーターズの同志というべき存在でしたが、本作が遺作となりました。
ダンスシーン満載のミュージカル映画で、本作公開後に舞台化され、リメイク版も作られています。リメイク版の監督は振付師出身のアダム・シャンクマンなので、本作よりダンスシーンが良く出来ています。それでも、本作のダンスシーンもノリノリで見応えがあります。
主人公のトレイシーは、ぽっちゃり体型なのにダンスが上手という設定です。もし日本版を作るなら、今よりふくよかだった頃の柳原可奈子に演じさせたかったです。渡辺直美の方がダンスは上手でも、トレイシーのイメージとは少しズレます。
ミュージカルという娯楽作品でありながら、テーマは黒人差別です。ウォーターズ監督は、黒人差別する白人を徹底して滑稽かつ醜悪な愚者に描いています。更に黒人差別とは他人を外見だけで判断することであり、トレイシーの容姿を揶揄して嫌うアンバー(コリーン・フィッツパトリック)を性格ブスにしているのは、彼女が黒人差別主義者と変わらぬ心根の持ち主だからです。
しかし、それだとステレオタイプ的な差別糾弾映画になるところを、ウォーターズ監督は捻りを加えています。トレイシーの母親役であるディヴァインが、黒人差別主義者である市長を一人二役で演じているのです。理性に基づいて差別を嫌悪する寛容な心も、それでも無意識的に差別してしまう不寛容な心も同じ一人の人間の中に同居しているということです。
本作で使用されるロックもR&Bもルーツは黒人音楽です。この流れが現在では定着し、もし世界中の音楽から黒人音楽の影響を排除したら、よほど味気ないものになるどころか、成立しないでしょう。それと同様、日本文化から中華文明の影響を排除したら成立せず、嫌中派のネトウヨは日常生活から漢字、それから派生した平仮名と片仮名、更に中国由来の熟語を排除してみてはいかがかと、馬鹿にしてみたくもなるのです。
★★★★☆(2018年3月19日(月)DVD鑑賞)
リメイク版でトレイシーの母親役を演じているのはジョン・トラヴォルタです。