明治二十年発行の『普通讀本四編上』を紹介します。なお、読み易くするため、地の文は平仮名に統一し、文字化けを防ぐため、漢字は所々新字体に改めます。
第十課 學問の心得。
學問とは、唯むつかしき字を知り、解し難き文を讀み、若くは詩歌を巧にし、文章を善くするのみを謂ふにあらず。此等の事も文學の一科にして、固より無用の事にはあらざれども、畢竟不急の一藝たるに過ぎざれば、此等の學は後にして、實用の學を先にすべし。實用の學とは、先づ簡易なるものにては、往復の文書、帳簿の書方、珠算筆算の法、度量衡の名稱、用法等を心得、尚ほ進んでは地理、歴史、及び理科の學を學ぶべし。地理は、日本及び世界萬國の風土、形勢、人情、物産等を記せるものにして、歴史は古今の沿革、治亂、興廢等を載するものなり。又理科は天地、萬物の理を講究して、之を實事に施すの學なれば、何れも日常缺くべからざる者なり、殊に修身に至ては、身を立て人に交り、四民齊しく世を渡るべき道を説きたるものなれば、最も深く意を留めざるべからず。少年の時學問するは、農工商の別なく、生長の後、父祖の家を續ぎて、夫々の業を執り、各良民たるの本分を盡すべき爲めなれば、能く其心得を以て勉むべきなり。
【私なりの現代語訳】
学問とは、ただ難しい単語を知り、難解な文章を読み、もしくは詩歌を巧く作り、文章を上手にすることだけを言うのではありません。これらの事も文学の一科目であって、言うまでもなく無用のことではありませんけど、結局は急いで身に付けることのない一技能に過ぎず、これらの学は後回しにして、実用の学を優先しましょう。実用の学とは、まず簡易なものとしては、往復文書や帳簿の書き方、珠算や筆算のやり方、度量衡(計測単位)の名称や用い方などを習得し、もっと進んでは地理、歴史および理科の学問を学びましょう。地理は、日本および世界の国々の風土、形勢、人口、産物などを記載したものであり、歴史は昔から今までの沿革、治世と戦争、勃興と滅亡などを記載したものです。また理科は宇宙や万物の原理を研究して、それを実証する学なので、どれも日常生活に欠かせないものであり、特に修身(道徳)に至っては、自立して、他者と交流し、四民(士農工商)ともに生活できる道理を説くものなので、最も深く留意しないといけません。少年時代に学問をするのは、身分の区別なく、大人になった後、父方の家を継いで、それぞれの職業に従事し、各自が善良な民となるための本分を全うすることができるためなので、しっかりとその心得をもって勉強しましょう。
【私の一言】
国語や文学より、算数(数学)、地理、歴史、理科など実学の重視を説いています。しかし、実学の基礎には正しい文章の読解力や論理的思考が必要であり、むしろ国語を優先すべきです。また道徳のみならず、古今の文学作品に接することで深みを増す哲学がなければ、視野の狭い専門バカに陥る危険があるので、文学も軽視してはいけないと思うのです。
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