
母親の苦悩が母乳を通して子どもに伝染する「恐乳病」という南米ペルーの言い伝えを基に、残酷ながらも感動的なストーリーを紡ぐ寓意劇(Yahoo!映画より引用)。2011年日本公開作品。監督はクラウディア・リョサで、出演はマガリ・ソリエル、スシ・サンチェス、エフライン・ソリス、マリノ・バリョン。
本作はペルー映画です。正直なところ、ペルー映画は初めてです。更に、本作は監督・脚本(クラウディア・リョサ)、撮影(ナターシャ・ブレイア)、音楽(セルマ・ムタル)、主演(マガリ・ソリエル)が女性という、文字どおり本物の女性映画です。本作は二重にレア物ということになります。
本作は田舎(ペルー)の風景をバックに、画を固定して長回し撮影するシーンを多用し、BGMが少なめという、いかにも国際映画祭ウケが良い作風になっています。現に本作は第59回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞しています(だからと言って、その作風を真似れば、どんな映画監督でも国際的評価を得られるとは限りません)。
主人公が母乳を通じて伝染した母親の悲しみとは、反政府極左ゲリラによるレイプ体験です。主人公は母親の死によって、その悲しみが自分一人の物になったと思い込みます。そして、レイプされないためのおまじないとして、自分の膣にジャガイモを詰めており、物語の途中で何度か股間から伸びたジャガイモの芽を切ります。これらの「恐乳病」やおまじないは非現実的であり、本作が寓意劇である理由です。
悲しみを背負った主人公は一切笑顔を見せません。母親の埋葬費用を稼ぐために白人女性ピアニストの家政婦として働くことになっても、自分の殻に閉じこもって笑顔を見せません。スランプに陥っていたピアニストは、主人公が口ずさむ歌を聴いて復調しますが、もはや用済みと見れば、薄情なことに主人公をクビにしてしまいます。これは白人による原住民(インディオ)差別であり、ペルーの悪しき歴史です。主人公は母親の体験した女性ゆえの迫害と、自らの原住民ゆえの迫害を一身に負うことになります。それでは笑顔を見せないはずです。
心に深い闇を抱く主人公は、周囲の人々の優しさによって、少しづつ光の射す方へ心を開いていきます。ラストになって、ようやく主人公は微かな笑みを浮かべます。この抑制した演出も国際映画祭ウケする作風ですが、寓意劇でありながら安直に単純明快なハッピーエンドを選ばないことで、本作に説得力を付与する効果を生んでいます。
★★★☆☆(2017年8月22日(火)DVD鑑賞)
アニメ映画『千と千尋の神隠し』もベルリン国際映画祭金熊賞受賞作です。