
大担不敵で反逆精神旺盛な男が、海軍海兵団に入隊して、上官や刑務所監守を相手に大暴れする姿を描く(映画.comより引用)。1973年公開作品。監督は山下耕作で、出演は勝新太郎、松方弘樹、長谷川明男、三上真一郎、太田博之、森秋子、赤城春恵、須賀不二男、藤岡重慶、名和広、近藤宏、山本麟一、菅原文太。
勝新唯一の東映出演作品です。勝新の人気主演シリーズ『兵隊やくざ』の海軍版をやろうという企画です。他社のヒット作をちゃっかりパクる点は、東映らしいです。
それだけでなく、勝新と菅原文太が唯一共演した作品でもあります。本作が公開された1973年には、『仁義なき戦い』も公開されており、菅原の役者人生にとって、大きな意味を持つ年であったと思われます(翌1974年には、勝新と高倉健唯一の共演作『無宿 やどなし』も公開されますから、何やら凄い時期です)。
しかし、本作において注目すべきは石井輝男が脚本を書いていることです。大人しい作品に落ち着くわけがありません。石井が監督した『網走番外地』のセルフパロディ的要素があります。志村(勝新)と横須賀海兵団で同期になる谷口(松方弘樹)は、関西弁で要領の良いキャラクターであり、これは『網走番外地』における田中邦衛と同じです。更に、事件を起こした志村が収監される海軍横須賀刑務所の囚人は、そこを「番外地」と呼んでいるのですから、確信的に自己模倣していると分かります。
また、1960年代末からの異常性愛路線で、容赦ない「責め」の描写を見せた石井は、本作でもサービス精神を発揮しています。異常性愛路線は、男性客を呼ぶために女優を責めるのが常ですが、石井監督の『やくざ刑罰史 私刑!』は男優が酷い目に遭う異色作です。そのノリを取り入れたのか、本作の勝新はほとんどのシーンで顔に体罰や喧嘩で負った傷(メイク)があります。それどころか、糞尿たっぷりの便槽に浸かるシーンや、看守の悪だくみで一服盛られて嘔吐するシーンもあります。相手が勝新でも石井は容赦ありません。
体罰と言えば、本作の海兵団では、新兵に対する古参兵のしごきとして木の棒で尻を叩きます。これも容赦ない「責め」の描写の一つです。そして新兵たちは尻を手で押さえて痛がりながら歩きます。この男の尻へのこだわりから、生前に噂されていた石井のゲイ疑惑を連想するのは深読みでしょうか。
石井らしく、かなりハチャメチャな展開の話です。それでも志村が大暴れしようとすると、母親(赤城春恵)の声が心の中に響き、自制するという親子愛を感じさせるシーンが数回あります。また、上海事変勃発により志村たちが出動し、異国の地で弾除け扱いされて全滅するという本作のラストには、反戦の思いが込められています。実はLOVE&PEACEまで盛り込まれた脚本なのです(ラストについては、単に強引な幕引きを図ったとも言えますが)。
山下耕作監督は、その脚本の持ち味を殺さずして映画にしています。山下監督は、演出面において強いオリジナリティーこそありませんが、余計なことをしないので、優れた脚本に出会うと優れた映画を作ります。笠原和夫脚本の『博奕打ち 総長賭博』が一例です。
勝新演じる志村は、傷だらけになりながらも光るダーティー・ヒーローであり、『悪名』シリーズの朝吉や、『座頭市』シリーズの市に重なる部分があります。勝新は東映に来ても、ゴーイング・マイ・ウェイでブレが無かったということです。
★★★☆☆(2017年3月22日(水)DVD鑑賞)
勝新の役名は「志村兼次郎」です。志村けん?