松方弘樹の追悼番組でも出せない……「ヤクザ映画」をめぐるテレビの厳しい現状とは
故・高倉健、菅原文太の訃報の際と同様、1月21日に脳リンパ腫のため亡くなった俳優・松方弘樹(享年74)の追悼番組においても、ヤクザ映画は徹底的に外されている。松方といえば『仁義なき戦い』シリーズはもちろん『北陸代理戦争』『県警対組織暴力』『修羅の群れ』など迫力満点の極道役が大人気だったが、暴力団排除の傾向から、各テレビ局は現時点でヤクザ映画の放送は予定していない。NHKと在京キー局5社に問い合わせたが、いずれも「予定はありません」との回答だった。
これに代えて各局は、松方の闘病の様子を収録したドキュメンタリーのほか、かつて出演した旅番組、釣り番組、時代劇、事件ドラマなど、ヤクザ映画以外の番組をラインナップしている。
2014年に高倉が死去した際も同様で、情報番組での特集でも『網走番外地』シリーズなどではなく『幸福の黄色いハンカチ』や『鉄道員(ぽっぽや)』のワンシーンが使われ、同年の菅原死去後も『仁義なき戦い』ではなく『トラック野郎』が使われていた。
過去のヤクザ映画は実在の暴力団組長や幹部をモデルに描かれているものが多く、例えば松方が主役を張った『修羅の群れ』も、稲川会初代会長・稲川聖城を演じた作品だとされており、地上波放送は基本NGだ。ただ、キャリア25年のベテラン脚本家に聞いてみたところ「実在モデルでなくとも、ヤクザ映画は放送が厳しい」という。
「スポンサーがつきにくいので、テレビではヤクザという存在自体、登場させにくくなっています。ヤクザが主人公でなくとも、シナリオ内で敵役として出すのも難しいですよ。ミステリーやサスペンスでヤクザを登場させても、テロ組織や犯罪集団なんかに直されるほど。一般的にCMへの影響力の強いF2層(35~49歳の女性)からの反発が強いといわれています」(同)
確かにリサーチ会社の調査では「子どもに見せたくない」「子どもが悪影響を受ける」などの理由から、F2層がヤクザ映画への強烈な反感を持つというデータがあるという。
「ヤクザを描いた作品は原則、“脱ヤクザ”的なストーリーを持つものでなければならないという不文律がありますね」と前出脚本家。近年では、暴力団からの離脱支援を描いた大島優子主演の『ヤメゴク~ヤクザやめて頂きます~』(15年/TBS系)や、草なぎ剛が主演で、暴力団組員の介護を通じた暴力団組員の更生話である『任侠ヘルパー』(09年/フジテレビ系)などが、その代表例だ。
「ヤクザが正義に目覚めたり、コミカルなノリの勧善懲悪なヤクザパロディが精いっぱいという状況です。原作の登場人物がヤクザであっても、『職業のところを変えてください』と言われるほど暴力団排除は徹底されている。黒川博行の小説でヤクザが主人公の『疫病神』シリーズも、地上波のドラマ化がダメになってWOWOW制作となったことがありました。11年、ひ弱な児童相談所職員の青年と、暴力団組長の体が入れ替わる話を描いた松田翔太と高橋克実のドタバタ劇『ドン★キホーテ』(日本テレビ系)があったんですが、これが平均視聴率は10.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で伸びなかった。運の悪いことに当時、タレント・島田紳助の暴力団絡みによる引退スキャンダルとタイミングが重なってしまって、肩身の狭い作品となったんですよ。制作側はヤクザを上手に扱おうとした力作だったのに、タレントの“密接交際”の影響で、葬り去られてしまった」(同)
ヤクザを出して視聴率が取れなければ、なお風当たりは強くなるというわけだ。松方ファンの作家、影野臣直氏は「すごみのある、松方の男っぽいヤクザ役がテレビで見られないのは残念。低い声で相手の士気を削ぐ、ヤクザ用語でいえば“ケンノミ”の迫力がある稀有な役者だった。せめて脱獄映画の“教科書”ともいえる中島貞夫監督の『脱獄広島殺人囚』ぐらいは放映してほしい」というが、ヤクザパロディでも数字が取れなかったところを見れば、お役御免という流れは否めない。
近頃のテレビはヌードなども規制され、コンプライアンスは非常に厳しくなっているが、反社会勢力であるヤクザに至っては物語であってもダメ。その存在自体がタブー化しつつあるようだ。
(文=ハイセーヤスダ/NEWSIDER Tokyo)
(文=ハイセーヤスダ/NEWSIDER Tokyo)
転載元:日刊サイゾー
【ここから私の意見】
高倉健、菅原文太がそれぞれ亡くなった時、彼らの本当の代表作が地上波放送されなかったことに落胆と苛立ちを感じました。松方弘樹についても同じようです。CSの東映チャンネルが『仁義なき戦い 総集篇』を急遽放送したくらいです。
ヤクザ映画の放送自粛の理由として、「一般的にCMへの影響力の強いF2層(35~49歳の女性)からの反発が強」く、「確かにリサーチ会社の調査では『子どもに見せたくない』『子どもが悪影響を受ける』などの理由から、F2層がヤクザ映画への強烈な反感を持つというデータがある」ことが挙げられています。でも、このF2層とやらは『昼顔』や『不機嫌な果実』みたいな不倫ドラマに何も文句をつけず、むしろ好みますよね。「子どもに見せたくない」とか「子どもが悪影響を受ける」とか言うならば、不倫ドラマも同じです。不倫ドラマは反社会的でないと言うならば、矢口真里やベッキーに科せられたペナルティーは何だったのかという話になります。
現実と虚構、リアルとファンタジーを識別する能力は、未来ある子供に必要です。しかし、それを習得させるためには、ヤクザ映画の放送自粛のような「臭いものには蓋」という方法が必ずしも有効ではなく、むしろ逆効果になることもあると思うのです。