
キック・アス、ヒット・ガールというヒーローの姿を捨て、普通の学園生活を送っていたデイブとミンディ。しかし、卒業がせまり将来について考えたデイブは、スーパーヒーロー軍団を作り、世界の平和を守ることを決意する。キック・アスの活躍に触発された元ギャングの活動家スターズ・アンド・ストライプス大佐とともに「ジャスティス・フォーエヴァー」を結成したデイブだったが、そんな彼の前に、打倒キック・アスを誓うレッド・ミストがマザー・ファッカーと名を改め、悪の軍団を率いて姿を現す(映画.comより引用)。2014年日本公開作品。監督はジェフ・ワドロウで、出演はアーロン・テイラー=ジョンソン、クロエ・グレース・モレッツ、クリストファー・ミンツ=プラッセ、ジョン・レグイザモ、ジム・キャリー。
アメコミ・ヒーロー物のパロディでありながら、深く考えさせるテーマもある傑作『キック・アス』の続編です。シリーズ物によくあるパターンとは言え、前作よりヒットしませんでした。何故でしょう?
前作では弱っちいオタク青年だったデイブ(アーロン・テイラー=ジョンソン)が、ミンディとの特訓を経て、強くなっています。筋肉が付き、チンピラ程度なら相手できるほどの戦闘能力を手に入れています。また、「ジャスティス・フォーエバー」の仲間であるナイト・ビッチ(リンディ・ブース)と肉体関係を持ちます。“リア充”化が進んだキック・アスの姿に、前作で自分たちの同類だと共感したオタク客層の心が離れてしまったというのが、マイナス要因だったのかもしれません。
そのキック・アスのヘタレ部分を引き受けたのが、レッド・ミスト改めマザー・ファッカーことクリス(クリストファー・ミンツ=プラッセ)です。デイブは成長しましたが、クリスは成長せず、ダメ人間になっています。自分は口先だけのヘタレのくせに、親の遺産である財力に頼って暴君と化すのは“悪いスネ夫”状態です(財力に頼るのは『アイアンマン』のトニー・スタークのパロディかもしれません)。共感し難いほどのクズで、最後は当然のごとく酷い目に遭わされます。
そして前作の実質的主役であるヒット・ガールことミンディを演じるクロエ・グレース・モレッツは、小学生から高校生に成長し、体格が良くなったので攻撃力が上がっています。しかし、前作の小さいけれど強いというギャップが弱まったので、魅力が薄れたというのはマイナス要因になったのかもしれません(ロリコン趣味のファンも離れた?)。
ミンディは保護者であるマーカス(モリス・チェストナット)から「普通の女の子」として生きることを求められます(この「普通の道を歩む」ことを親や保護者に求められるのは、デイブもクリスも同じで、本作のテーマの一つでもあります)。そのため、ミンディが「普通の女の子」として生きることの苦悩を描くことに時間が割かれ、ヒット・ガールの活躍シーンが減ったこともマイナス要因でしょう。
それにしても、「普通の女の子」って何でしょうね。イケメンのアイドル・グループに胸をキュンとさせたり、流行のファンションで着飾ったり、ちょっとHなガールズ・トークをしたりする女子のことでしょうか。そんなティーンズ文化は、私にとってクソです。ミンディは陰湿な仕打ちをしたクソ女子に対し、クソに相応しい方法で復讐をします。あのシーンはスカトロ、じゃなくてスカッとしますね。
ヒット・ガールのインパクトが減少した代わりに、マザー・ファッカーが金で雇った殺し屋マザー・ロシア(オルガ・カーカリナ)が強烈な無双ぶりを見せつけます。一人で簡単に警察官10人を皆殺しにする人間離れした戦闘能力なのです。最後の対決シーンで、ヒット・ガールがマザー・ロシアが最強だと勘で嗅ぎ分けるのも納得です。そんな最強のマザー・ロシアにヒット・ガールが対抗する策は……薬物、ダメ、ゼッタイ!
本作で正義のヒーロー(実際はコスプレした生身の人間)が「ジャスティス・フォーエバー」という軍団を結成するのは、マーヴェルにおける『アベンジャーズ』や、DCコミックスにおける『ジャスティス・リーグ』のパロディです。「ジャスティス・フォーエバー」のリーダー、スターズ・アンド・ストライプス大佐(ジム・キャリー)は、名前が「星条旗」で道徳にうるさい軍人キャラなので、『キャプテン・アメリカ』のパロディでしょう(口では道徳を説きながら、敵に対して暴力的なのはアメリカの「正義」に対する批判になっています)。
「ジャスティス・フォーエバー」もマザー・ファッカー率いる「毒々デカマン軍団」も、中身は特殊能力を持たない生身の人間(マザー・ロシアは疑問)なので、『アベンジャーズ』のような派手なアクションになりません。基本は殴ったり蹴ったりです。それ故に鮮血が飛び散るグロ描写もありますが、前作を観ていれば慣れっこです。
この軍団形式にしたことが、各キャラクターの描写を深くせず、マイナス要因になっています。『アベンジャーズ』は事前に各ヒーロー単独の主演映画を公開し、キャラクターを観客に浸透させてから作ったことが成功の一因でした。いきなり「〇〇マンだ!」と登場されても、ほとんどの観客は理解不能ですから。
主要な登場人物であるデイブ、ミンディ、クリスの結末を見れば、一応続編は作れます。しかし、本作が予想したほどヒットしなかったことと、モレッツが演じるミンディがヒット・ガールではなくヒット・ウーマンになってしまうことから、続編を作らない方が賢明でしょう。
★★★★☆(2016年12月29日(木)DVD鑑賞)
製作総指揮のトレヴァー・デューク・モレッツはクロエのお兄さんです。