
刑事である夫を何者かに殺されたヒロイン・名美と、ヤクザ者の村木との愛憎を描く(映画.comより引用)。1994年公開作品。監督は石井隆で、出演は夏川結衣、根津甚八、寺田農、椎名桔平、竹中直人、余貴美子、永島敏行。
石井隆が劇画でも映画でも描き続けている「名美と村木の物語」の一種です。同じ「名美と村木の物語」である『ヌードの夜』に出演していた余貴美子、竹中直人、椎名桔平、根津甚八も本作に出演しています。一度仕事をした間柄だとやりやすいからという現実的な理由より、別世界に転生した姿と考えた方がロマンチックで良いですね。
名美を演じる夏川結衣は、当時新人女優でしたが、夫を殺され、チンピラに輪姦され、シャブ(覚醒剤)中毒にされるという、かなりハードな役を熱演しています。その後の夏川の女優人生を見ると、本作で高みに到達してしまったが故に、早い時期に落ち着いてしまった感があります。『東京家族』では、私生活では未婚なのに、お母さん役が似合ってしまうほどの落ち着きぶりでしたから。
根津が演じる村木は、名美のために指を詰めたり、名美のシャブ抜きに付き合ったりという、「何故にそこまで?」というほどの献身を見せます。その謎は贖罪意識のなせる業だと、本作を観ていけば分かります。
石井作品には、ホラー映画的演出がよく見られます。本作でも、椎名演じるヤクザが終盤に見せる暴れっぷりと不死身ぶりは、『13日の金曜日』シリーズの殺人鬼ジェイソンを思わせます。
本作のみならず、石井作品には水のイメージの強調があります。それは降り注ぐ雨、滴り落ちるシャワー、流れ出る血液など形を変えて表現されます。この水のイメージが与える湿り気は、映画を“有機的な生き物”のように変化させます(観客の意識上の話ですが)。本作も『ヌードの夜』もバブル崩壊後の荒廃したドライな世界が背景にあるので、映画を“血の通った生き物”にすることで、名美と村木の悲しい愛をより印象付ける効果があるようです。
★★★★☆(2016年10月11日(火)DVD鑑賞)
本作でヤクザの組長役を演じた寺田農は、インテリジェンスな変態の役が似合います。