
実家の神社の手伝いをするバツイチ出戻りのノブ子(通称ノン子)の前に、神社の露店でひと儲けしようとする青年マサルが現れる。世間知らずだが純粋なマサルに、やる気もなく殻に閉じこもっていたノン子は次第に心を開いていく(映画.comより引用)。2008年公開作品。監督は熊切和嘉で、出演は坂井真紀、星野源、津田寛治、佐藤仁美、新田恵利、宇津宮雅代、斉木しげる。鶴見辰吾。
主演の坂井真紀は、三井リハウスガール出身でありながら、腰の据わった女優活動を続けています。本作の熊切和嘉監督作品だけでなく、若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』にも出演し、個性的な監督と組む、やりがいのある仕事を選んでいる感じがします。ノン子と当時の坂井は、ほぼ同年代なので、年相応のリアルな自然体演技になっています。思い切りの良い濡れ場シーンでも、年相応の肉体を晒します。
公開当時はブレイク前だった星野源と佐藤仁美が出演しています。星野は「普通の人」を演じるとハマるので、本作のマサル役に適しています。佐藤は「ボンクラ男を捕まえて結婚し、神社の後継者になったノン子の妹」を演じています。子持ちで地に足のついたオバチャン的貫禄を漂わせますが、当時の佐藤は、まだ20代だったはずです。この二人よりも、やさぐれ感のあるスナックのママ役の新田恵利の姿に、おニャン子クラブ世代は衝撃を受けるかもしれません。
度々書いていることですが、熊切監督は田舎(地方都市)を撮るのが上手く、埼玉県秩父地方を舞台とする本作では、その実力が発揮されています。イケてない寂れた地方都市の風景が、ノン子のくすぶり感を高める効果を生んでいます。この熊切監督のテイストが気に入った方には、同監督の『海炭市叙景』をお薦めします。
ノン子もマサルも夢を追う人ですが、厳しい現実を突きつけられ、夢破れる結果になります。マサルが露店で売ろうとするヒヨコは、二人にとっての夢の本質や、二人の生き方を象徴しています。何故なら、露店で売られるヒヨコは卵を産まないオス、即ち現実の役に立たない無駄なものであり、そしてヒヨコの未熟さは二人の現実の見通しの甘さに通じるからです。
ノン子とマサルが逃げ出したヒヨコを追いかけるシーンと、ラストでノン子が成長したヒヨコ=ニワトリを追いかけて捕まえるシーンは、幸福感ある仕上がりになっています。甘い夢を追いかけるノン子(とマサル)を社会不適合なダメ人間だと冷たく突き放し、否定することもできます。しかし、その夢を追う姿にわずかな美しさや希望めいたものを見出して肯定する人間観が、本作の根底にある優しさだと思うのです。
★★★☆☆(2016年9月26日(月)DVD鑑賞)
スナックの若い娘役の菜葉菜は、私の好きな女優ですが、マイナーな映画でしか姿を見ません。