【映画評】運が良けりゃ | じゃんご ~許されざるおっさんの戯言ブログ~

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このブログは、田舎で暮らすおっさんの独り言を日々書き綴っています。ブログタイトルの「じゃんご」とは秋田弁で「田舎」のことで、偶然にもマカロニウエスタンの主人公の名前でもあります。何となく付けてみました。お時間があれば、広い心で御覧になってください。

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江戸時代の長屋を舞台に「らくだ」「さんま火事」「突き落とし」「黄金餅」といった古典落語を下敷きに描かれる人情喜劇(Yahoo!映画より引用)。1966年公開作品。監督は山田洋次で、出演はハナ肇、犬塚弘、倍賞千恵子、藤田まこと、桜井センリ、安田伸、田辺靖雄、砂塚秀夫、武智豊子、花沢徳衛、渥美清。
 
山田洋次監督初の時代劇です。山田監督は、後に『たそがれ清兵衛』、『隠し剣 鬼の爪』、『武士の一分』の藤沢周平三部作で、リアリズム重視の時代劇を作りますが、本作は山本直純の軽快な音楽が流れるモダンな時代劇です。
 
落語好きの山田監督が落語ベースの話を撮っているので、ストーリー展開のテンポが良いです。落語も喜劇もテンポの良さが大事で、演じ手にはリズム感の良さが要求されます。本作の主人公である熊さんを演じるハナ肇は、クレイジーキャッツのドラマーでリズム感は良いのですから、適役と言えます。
 
更に落語ベースの時代劇は、山田作品の根底にある性善説的人間像との相性が良いものです。根っからの悪人はいないとでも言うべき性善説的人間像は、現代劇では「そんな奴いねえよ!」という嘘っぽさが出てしまいます。しかし、落語ベースの時代劇だと一種のファンタジーですから、性善説的人間像は物語設定の一つとして許容できます。ファンタジー物に魔法や怪物が出てきた場合に、「そんなの無えよ!」と茶々を入れるのは、無粋で野暮な馬鹿がすることです。
 
本作は『男はつらいよ』第1作以前の作品ですが、その原型を見ることができます。熊さんと妹せい(倍賞千恵子)の関係は寅さんと妹さくらの関係に、熊さんと長屋の大家(花沢徳衛)の関係は寅さんと竜造おいちゃんの関係に、せいと若い百姓(田辺靖雄)の関係はさくらと博の関係に類似しています。熊さんが殿様とせいの縁談を酒に酔ってぶち壊しにするのは、『男はつらいよ』におけるさくらの見合いエピソードに流用されています。そして本作には渥美清も出演しています。
 
当時の山田監督は、現在よりも尖っており、本作には按摩を用いた盲人差別ネタ、死体をカンカンノウと踊らせるブラックなネタ、威張った役人に糞尿をぶっかける反権力ネタを盛り込んでいます。若き山田監督の過激なスタンスを見られるのが、本作の見所の一つです。
 
★★★★☆(2016年9月8日(木)DVD鑑賞)
 
若旦那役を演じる砂塚秀夫が、ロバートの秋山竜次に見えてきます。
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