宮崎あおい、1か月で7キロ増!過酷な役づくりで挑む新境地
映画『怒り』の役づくりで、体重を1か月で約7キロ増量した女優の宮崎あおい。これまでのかわいらしいイメージを封印し、新境地に挑んだ彼女が、「身も心も追い込まれていた」という過酷な撮影を振り返った。
『悪人』に続き、李相日監督が吉田修一のミステリー小説を映画化した本作は、1年前の未解決殺人事件を軸に、千葉、東京、沖縄を舞台にした3つの物語が紡がれる群像劇。突然家出をし、新宿・歌舞伎町で働く愛子(宮崎)は、千葉に住む父・洋平(渡辺謙)に連れ戻され、静かな暮らしを送っていたが、突如現れた素性のわからぬ男・田代(松山ケンイチ)に恋心を抱く……。
「愛子ちゃんは何を考えているのか全く想像できない」と撮影前から語っていた宮崎だけに、役づくりは難航を極めた。「でも、愛子ちゃん自身も自分をわかっていないところがあったので、わからない、わからない、と悩みながら彼女を探していく作業が、逆に正解だったのかな」と分析。「李監督と一緒に模索するというか、長時間、無言の圧力の中で試行錯誤しました。ただ一言、『(感情に)ブレーキをかけないでほしい』と言われたことがとても心に残っています」と述懐した。
原作で描かれている愛子はふっくらした体型だが、「見た目ではなく、愛子が持つ危うさや純粋さを考えたときに宮崎さんが浮かんだ」と語っていた李監督。ところが「それ以上、やせないで」と指摘され、最終的には「太ってほしい」と注文があったという。「原作のイメージもありますが、愛子ちゃんは気持ちに油断がある娘なので。結局、プラス7キロくらいまではいきましたが、自分の目標には到達できませんでした」と悔しそうに笑う。
確かにやせ型の宮崎にとっては荒業だが、どんな方法で増やしたのか。「しっかりごはんを食べたあとに、またごはんを食べます。例えば、白米にクリームチーズをかけて、おかかを乗っけてお醤油をたらし、ちょっと塩昆布をかけてかき混ぜるとすごくおいしくて(笑)。あとは寝る前にアイスを食べたり、なるべく動かずに1日中ゴロゴロしたり」。だが、撮影が終わると、今度は次の仕事までの10日間で元に戻す、というさらなる試練が。「でも、減らす方がラクでしたね。徹底した食事制限とダイエットマッサージ、自力と他力で頑張りました」と笑顔を見せた。
撮影中はずっと父親役の渡辺を「お父ちゃん」と呼んでいたという宮崎。おしゃべりは好きだが、自分から声をかけるのが苦手な彼女の性格を察してか、渡辺は宮崎を自分のいるところに呼び寄せ、「無理にしゃべらなくてもいいから、ここで好きなことをしていればいい」と居場所を作ってくれたという。映画『怒り』の撮影現場は、まさにアメとムチ。このバランスこそ名演技を生む秘訣かもしれない。
(取材・文:坂田正樹)
映画『怒り』は9月17日より全国公開
【ここから私の意見】
以前「松山ケンイチが役作りで激太り中」という記事に書いたように、役作りのために体重を増減させるのは、役者のプロ意識の高さの表れです。転載記事にあるとおり、宮崎あおいが映画『怒り』の役作りのために、体重を1か月で約7キロ増量しました。決して大柄とは言えない、宮崎の体格で7キロ増量は凄いです(撮影後、10日間で元の体重に戻す方が楽だったという発言は、多くの女性にとって羨望と嫉妬の感情を起こさせるでしょう)。
ファンの方には悪いですが、ここ数年の宮崎は、女優として停滞期にあったと思います。どの映画を観ても、「かわいらしい娘さん」や「かわいらしい嫁さん」という型にはまった役をこなしているという印象が残りました。そういうオファーをした作り手側と、そういう仕事を選んだ事務所側のどちらが悪いかは問いません。ただ、型にはまった役を演じるのは、高倉健や吉永小百合クラスの大ベテランの仕事であって、宮崎はまだ若いのだから、小さくまとまらずに冒険してほしいと、もどかしさを感じていました。
そんな中、昨年のNHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』で、主人公あさ(波瑠)の姉はつ役を演じたのは、女優としての転機だったのかもしれません。元気で活発なあさではなく、物静かで大人しいはつであり、しかもはつは嫁ぎ先で不幸な目に遭い、いつも憂いを帯びた表情を見せます。「かわいらしい娘さん」でも「かわいらしい嫁さん」でもない、宮崎の新境地と言えます(『EUREKA ユリイカ』や『害虫』まで遡れば、原点回帰とも言えます)。
『怒り』での役作りアプローチから、宮崎のプロ意識の高さと、女優として型を壊したいという願望が見えてきます(これまでも当然あったのでしょうが、今回は目に見える形で表れました)。蒼井優、上野樹里、沢尻エリカなど同世代に実力派女優がいる状況で、宮崎が更なる成長を遂げ、切磋琢磨すれば、質の高い映画やドラマを観ることができるので、私は期待しています。