
深川木場の材木を運び出す運送業者の木場政組と沖山運送は事毎にいがみあっていた。新興の沖山は侠気一本の木場政をあらゆる手段を使って妨害した。折も折争いを好まぬ木場政が病死した。沖山兄弟はここぞとばかりその勢力をのばしはじめた。木場政の子分の弘法常、鉄砲虎、鶴松、赤電車の鉄はいきり立ったが、木場政の女房お柳姐さんにきつく止められた。そんな時に小頭の辰巳の長吉が除隊して帰ってきた(映画.comより引用)。1964年公開作品。監督はマキノ雅弘で、出演は高倉健、松方弘樹、長門裕之、津川雅彦、南田洋子、三田佳子、藤純子、大木実、田村高廣、中村錦之助。
今となってはオールスターキャストと言っていいほど、豪華な出演陣です。それぞれに見せ場を作るため、脚本構成には苦労したでしょう。松方(近衛十四郎の息子)、長門(沢村国太郎の息子)、田村(阪東妻三郎の息子)が一つの画面に収まるシーンがあります。長門と南田の夫婦共演シーンもあります。歴史を感じさせます。
撮影当時は、東映が時代劇から任侠物へと路線変更しようと試みた時期です。それは、任侠物初挑戦の高倉を主役に抜擢する一方、時代劇スターの中村も主役級に立てるという二枚看板キャスティングに表れています。更にチャンバラ経験豊富な中村にピストルを持たせ、殺陣が不器用な高倉に日本刀を振らせるという斬新な演出にも挑戦しています。
結果として、その試みは成功し、「日本侠客伝」シリーズは高倉をスターダムにのし上げました。その一方、やくざ映画が性に合わなかったのか、中村は本作のみの出演になります。中村がやくざ映画に出演するのは、『沓掛時次郎 遊侠一匹』のように、あくまで時代劇の枠内にあるものだけでした。
作品外での「時代劇から任侠物への転換」と同じく、作品中でも時代の転換が描かれています。それは古来のしきたりを守る木場政組と、ビジネスライクな沖山運送の対立構図です。仁義もルールも無視し、政治家も軍部も利用する沖山運送の近代的なやり方は、戦後日本に継承されます。本作で脚本を手がけた笠原和夫は、後の『仁義なき戦い』や「県警対組織暴力』で、同様のテーマを追求しています。
木場政組のように古い倫理規範を守り、破滅へ向かう者たちは、現代で言えば「負け組」です。「勝ち組」に与したい者は、馬鹿な奴らだと嘲笑するでしょう。しかし、「負け組」の物語である本作のような任侠物が、大衆の共感を得て、興行的にヒットしたのは、そこに人間としての理想が反映されているからではないでしょうか。
★★★☆☆(2016年2月17日(水)テレビ鑑賞)
中村錦之助(萬屋錦之介)は中村獅童の叔父さんです。