賃上げも国民の実感なし、上昇分はどこに消えた?
安倍政権は、経済界に対して異例の賃上げ要請を行っており、今年の春闘で経営側がこれを受け入れれば3年連続の賃金上昇となります。しかし、毎年賃上げが行われているにもかかわらず、労働者にはその実感がありません。円安によって輸入物価が上昇し、実質賃金が下落したことが主な理由ですが、これ以外にも隠れた要因があるといわれています。それが社会保険料の負担増です。
社会保険料負担増の影響はいかほどか?
サラリーマンは、給料から税金や社会保険料(年金や医療)が天引きされているため、自分がいくら納めているのか自覚のない人が少なくありません。また自営業者と異なり、サラリーマンの場合、社会保険料の半額を会社が負担してくれています。つまり、自分がもらう年金や受ける医療の半分は会社持ちというわけですが、これについても認識していない人がいるかもしれません。
例えば、サラリーマンで年間の収入(給与と賞与)が500万円の人は、現在、年間約90万円の年金保険料を納めており、この金額を個人と会社で折半しています。賃上げが実施される前の2013年には、この金額は年間約85万円でした。
年収500万円だった人が、2年連続の2%賃上げによって年収が約520万円に上昇した場合、年金保険料は約95万円となり、個人負担分は約5万円増加することになります。賃上げされた分は20万円ですが、保険料率の上昇などで約5万円が打ち消され、実質的には15万円しか手取りのお金は増えていません。これは年金だけの数字ですから、医療や介護などを含めると、さらに少ない金額になるでしょう。
現実に賃上げが行われているのは大企業だけ
安倍政権は賃上げを経済政策として捉えており、賃金増加で個人消費を増やし、GDPを底上げしようとしています。しかし円安による物価上昇と年金保険料率の上昇はこれとは逆の効果を生み出してしまいます。このためいくら賃上げを行っても、なかなか個人消費は増えていきません。しかも現実に賃上げが行われているのは大企業だけですから、中小企業に勤務する人は、給料が増えるどころか、年々、手取りのお金が減っている状況です。
では年金保険料の料率を下げればよいのかというとそうもいきません。日本の年金は徴収額より支払額の方が多くなっており、年金財政は危機的状況です。年金制度を維持するためには、料率の上昇は避けて通れません。
経済政策に限ったことではありませんが、どれかを増やすと、どれかが減るというトレードオフが至る所にあります。すべてを満たす魔法の方法はないということを認識しておく必要があるでしょう。
(The Capital Tribune Japan)
転載元:THE PAGE
【ここから私の意見】
政府が経済界、とりわけ大企業に対し、賃上げ要請を行いました。アベノミクスによる景気回復のためには、トリクルダウンを起こす必要があるからです。トリクルダウンとは、「富める者がより富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる」とする経済理論です。シャンパンタワーをイメージすれば、分かりやすくなります。
ただ、このトリクルダウンが現実に起こるかどうかには、否定論もあり、最近安倍政権の経済ブレーンである竹中平蔵が「トリクルダウンはあり得ない」という発言をしたことが話題になりました。アベノミクス否定に繋がる重大発言ですが、意外と大きく報道されていません。計算高い竹中のことですから、安倍政権崩壊後に責任逃れするための布石を打ったとも考えられます。
この政府からの賃上げ要請に対し反発する企業もいるそうです。大企業のトップだと、日本を支えているのは自分たち経済人だという自負があり、政治家は企業献金で食わせてやっている「道具」扱いなのかもしれません。その「道具」が何を勘違いしたのか、自分の会社経営に口出ししてきたら、それは怒るでしょうね。
しかし、この反発は駆け引きの一端のような気もします。経団連など経済団体が「反発する企業もいたが、苦労して説得した」という姿勢を見せて、賃上げを行えば、政府に貸しを作ることができます。その貸しを利用して、政府を自分たちに有利な法改正をする「道具」として働かせるという魂胆があるのかもしれません。
政財界のお偉方の駆け引きや騙し合いは、せいぜい小説や映画などのフィクションとして楽しむ程度にしましょう。彼らには多くの国民、特に大企業からの下請けなど、本当に日本を支えている中小企業で働く人たちが、少しでも豊かに生活できるための施策を望みます。
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